晩餐会の招待状
黒い森から数日後、カリスの元に一通の手紙が届いた。
※カリス視点です。
ある日の夕暮れ。カリスの書斎ーー
窓辺に立つカリスの手には、一通の封書があった。
封蝋には、見覚えのある紋章。
燃える太陽と獅子の意匠。
ーーランス・レオンハルト候のものだ。
「……ふん、嫌な予感しかしないな」
手紙を開くと、整った筆跡でこう綴られていた。
『親愛なる友カリスへ。来る晩餐会にぜひご夫婦でお越しください。噂の奥方にぜひご挨拶をーー心よりお待ちしております。』
(友だと?俺は一度も友などと思ったことはないのだがな)
ランスは軽薄な男だった。あの男の軽口を鵜呑みにして、道を踏み外す奴らの悲惨な姿を何度も見た。
あいつは自分の言葉に責任を持たなすぎる。
言葉には力がある。誰かを救うこともできるが、時に壊すこともある。あいつはそれを分かっていなかった。だから俺はランスという男が嫌いなのだ。
(どうせ今回の誘いも、氷の侯爵と呼ばれる俺が結婚した事を知って……その相手はどういう女性か見たいというのが動機だろう)
俺がため息を一つ吐いた時、ドアを叩く音がした。アリアだ。俺は時計を見た。夕食を共にと約束していたが、もうそんな時間か……
「カリス様、手紙が届いたと聞きましたが……」
「ああ……胡散臭い男からだ。晩餐会に招待したいらしい」
「晩餐会!?」
アリアの声が弾んだ。
「私、行ったことがないの!どんな場所なんでしょう?お姉様方からは音楽が素晴らしく、お料理もとても美味しい物が出ると聞いていましたが……」
頬を紅潮させて目を輝かせるそのアリアの姿に、俺は息を呑んだ。
(断るつもりだったが、アリアのこの顔を見たら断れないな……)
それにアリアは今まで晩餐会などには参加してなかったみたいだからな……
「……晩餐会に行くか。アリア」
「本当に!?うれしい……」
俺がそう言うと、アリアはぱっと花が咲いたように笑い、俺の胸に飛び込んできた。
(俺はどうも、アリアのこの笑顔に弱いらしい)
アリアの髪を撫でながら、カリスは微笑んでいた。
新しい登場人物が出てきましたが、どうやらカリス様はこのランスという男が嫌いなようですね。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




