運命の日
いよいよその日が来ました。
あっという間にその日が来てしまった。
お姉様方もとっくに結婚してリリオーネ家から出て、最後まで私のそばにいてくれたアリシアも……
「時々遊びに行くよ!」
と言って出て行ってしまい、後は私一人。その日が来るのを粛々と待つしかなかった。
私はずっと、人に手を引かれた道を歩いてきた。自分の足で選んだことなど、一度もない。
『なんでもかんでも頷いて、あなたに意思はないの?』
そんな事言われても、今さらどうやって生きていけばいいの?
「お迎えの馬車がきました」
「ええ、今すぐいくわ」
振り返っても、そこに求める人の姿はなかった。そういえば見送りは法律で禁止されていたのだったわ。それがわかっていても、寂しさは拭いきれない。
結局私は最後まで、お母様とちゃんと向き合って話せなかった。もし私がはっきりと自分の意思で伝える事ができたのなら……
いいえ、考えてももう何もかも遅い。
(お母様……お父様……さようなら)
喉の奥に熱いものがせり上がってくる。でもそれをこぼすわけにはいかない。私はそっとまつ毛を伏せて、瞳に滲むものを瞬きで追い払う。
声も、涙も、せめて最後くらい我慢しなくちゃ。
震える指先をドレスの裾に押し当て、まっすぐに馬車へと足を向ける。今にも溢れ出しそうな感情を必死に抑え込みながら、私は故郷に心の奥で別れを告げた。
* * *
しばらく馬車に揺られていると、黒々とした森の向こうに噂の屋敷が姿を現した。
胸の奥に冷たいものが広がる。
ーー噂通りの人だったらどうしよう。
ーー逃げ出そうか?今ならまだ……
私は今さら怖くなって体が震えていた。
手が、馬車の扉に伸びかける。けれど結局その手は膝の上に戻る。幼い頃から刷り込まれてきた言葉が、耳の奥で呪いのように響いている。
『ただ頷いていればいい。これだけで大抵のことはうまくいくのだから』
私は俯いて目を閉じた。
虚しさや悲しみをグッと胸の奥にしまい込み。
(頷いていればいい)
呪いの言葉を呪文のように唱えながら。
あれ?おかしいなぁ。こ、こんな重い話になるつもりでは……汗
いえ、必ず幸せにしてみせます!
ここまでお読みくださってありがとうございました。




