新しい思い出の始まり
泣き疲れて寝てしまったアリア。その横でカリスは何を思うのか。
※カリス視点です。
夜が降りていた。
森の奥の小さな宿に明かりがともり、外では虫の音が絶え間なく続いている。
泣き疲れたアリアは、今、俺の腕の中で静かに眠っていた。
泣いていた時の余韻がまだ残っているのか、瞼の端には涙の跡がうっすらと光っている。小さな手は、眠ってもなお俺の服の端をぎゅっと掴んだままだった。
まるで、離したらまたひとりになってしまうとでも思っているかのように。
(こんなに小さな体で、忌々しい記憶をずっと引きずって、耐えてきたのだな。アリアは……)
俺はアリアが泣いて叫んでいた言葉を思い出していた。
『愛されたかった』
この言葉は、俺にも言える。
両親を早くに亡くし、以来俺は一人で領地を守ることに必死だった。
誰も頼ることはできない。
信じられるのは自分だけだ。
だから、誰かに手を差し伸べることも、頼ることも忘れてしまった。
いつしか俺は、"氷の侯爵""紅い悪魔"と呼ばれるようになった。
「氷の侯爵か……」
前まではその二つ名がむしろ好都合だと思っていたが……
アリア、君と結婚……いや、おそらく最初に君と出会った頃から俺は変わっていったんだ。
あの日、君があまりにも白くて眩しくて思わず目が眩んだ。
俺は胸の高鳴りを誤魔化すように君の手をとって抱き上げた。
ーーあの日からきっと私、いや俺は……
「アリア……」
俺の服の裾を掴んで眠るアリアの寝顔を覗き込む。
まだあどけなさの残る可愛い寝顔。
「……この可愛い寝顔を見ても、誰も心が揺さぶられないとは……リリオーネは俺よりも冷酷なんだな」
俺はここより遥か遠くのアリアの実家に毒付いた。
でも今はーーアリアはもう俺のものだ。
「もう、誰にも傷つけさせない。泣かせたりはしない。俺がアリアを必ず……」
そっと彼女の髪を指で梳いた。
銀糸のような髪が日差しを受けて淡く光る。柔らかくて、細くて、壊れそうで……それでいて強くて。
森の外では、風が穏やかに木々を揺らしている。
遠くで鳥が羽ばたく音がした。
アリアの寝息は穏やかで、その頬にはようやく安らぎの色が戻っていた。俺は静かに目を閉じた。
どうかこの穏やかな時間が、アリアの「新しい思い出の始まり」になるようにとーー
いいですね。二人のこの距離感。大好きです!
カリス様の望む通り、二人にとっての新しい思い出の始まりになるといいですね。
なかなか発展しない二人ですみません。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




