もう怯えなくていい
母の影に怯えるアリア。その様子を見たカリスは……
※カリス様視点です。
私たちはしばらく森の道を歩いた。二人の靴音が、落ち葉を踏むたびに小さく鳴る。
森の奥から小鳥のさえずりが聞こえ、どこかでリスが木を駆け上がっていく。
「アリア嬢」
「はい!」
「……今は、私と一緒で楽しいか?」
「えっ……」
「前の家では中庭の散歩すら楽しめなかったのだろう?」
『侍女が一日中ついて回るので、全然楽しめなかったというか』
「あ……」
カリス様、気を遣ってくれたんだ……なんて優しいんだろう。
「ありがとうございますカリス様……はい、今はとても楽しいです」
「……アリア嬢」
「?」
「……君はもう過去に怯えなくていいんだ。今は私が側にいるのだから」
「……ッ!!」
私の言葉にアリアはひどく衝撃を受けた様子だった。大きな瞳にみるみる涙がたまって行く……えっ?涙!?
「グスン、ヒック……」
「ア、アリア嬢!どうしたんですか?ひょっとしてどこか怪我をして……」
まさか私が気付かないうちに木の枝に引っかかったのか?!
「いえ、いいえカリス様……そうじゃないんです。私、ただ嬉しくて。あなたの言葉が嬉しくて泣いているんです。今まで私の事に興味を示してくれた人なんかいなかったから……」
今までただの一人も……
「そうだったのか……」
ただの一人もだと?お、俺、いや私の嫁に……こんなに可愛い嫁に?!興味がある事ばかりだろう?
アリアの周囲はどれほどアリアに無関心だったのだろう?こんなに可愛いのに……いやそんなことはないだろう!!
少なくとも私は……
俺、いや私は気付けばアリアを抱きしめていた。
「……ッ!」
アリアが息を呑むのがわかった。だがそんなのは構うものか。今はただ抱きしめていたいのだ。この小さくて細くて、可愛い哀れな俺の嫁を……
「カ、カリス様……」
「アリア嬢……」
私はアリアの顔を見る。今度は逸らさない。
ああ、やはり……この銀色の髪、ほんのりと紅色に染まる頬と紅い唇。それにこの瞳……真っ白で……美しい。
「あ、あの……カリス様?//」
あまりに深く見つめているので戸惑ったらしいアリアが、俺の腕から逃れようと身じろぐ。
まだ離したくない。
「……まだ離さない」
「……っ!//」
「もう少し、このままで」
「は、はい……//」
アリアはもう身じろぐことはしなかった。静かな森の入り口ーー寄り添う二人の影だけが朝の光に照らし出されていた。
ハァー……さすがカリス様。大人。もう何も言えねえわ。
カリス様の本当の一人称は「俺」だったんですね。
これからアリアが無意識のうちにカリス様の本性を暴いていくんです!(そんな話だったっけ?)
まだまだ発展途上な二人ですが、暖かく見守ってくれたら嬉しいです!
最後まで読んで頂きありがとうございました。




