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赤い侯爵と白い花嫁  作者: 杉野みそら
第二章 可愛い夫婦

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カリスの思い

アリアの無邪気さにカリスは何を思うのか?

 夜の帳が降り、屋敷は静まり返っていた。

 窓の外には月。白い光が床を淡く照らす。それを見つめながら、カリスは深く息を吐いた。


「はぁ……なんという娘だ……」


 礼拝堂で見た時はプルプル震えて子鹿のようだったのに、先程は何があったのか、まるで別人のようだ。

 あんなにはしゃいで、ベッドごときで喜んで、それに……


 私の心を揺さぶって。


 いや、私は揺さぶられてはいないのだ。断じて!


 私は額を押さえた。胸の奥がざわつく。理性の奥で、何かが軋んでいた。


「アリア嬢は……ただ、無邪気なだけだ。そうだ、だから……私が特別な感情を抱く理由など、どこにもないのだ」


 しかし、そう言い聞かせても脳裏に焼きついた笑顔は消えない。

 あの笑顔が浮かぶたび、心が温かくなって、息が詰まる。


(クソ、しっかりしろ……いつものカリスはどうした)


 誰が流したのかあの噂、紅い悪魔、氷の侯爵と呼ばれても私は平気だった。むしろ好都合だと思ってもいた。噂を聞いた人々は恐れて誰も近付かないからだ。

 誰がなんと噂しようと私の心は冬の海のように冷えて揺るがなかった。


 だが今の私は……会ったばかりの、さっきまで怯えていた少女の、銀色の髪の間から見える唇に、白くて吸い込まれそうな瞳に、無邪気な笑顔に心が揺さぶられている?


「いやいや、いやいや……そんなまさか」


 ーー私は幼い頃に両親を亡くし、裏切りと侮蔑の中で生きてきた。信じれば裏切られ、私に擦り寄ってくる人間は嘘と欺瞞にまみれていた。


 私は幼いながらも大人の汚さ、人間の欲の醜さを知った。


(騙されるな、こいつもいつかきっと裏切る……)


 私の周りには敵しかいない。そう思って生きてきた。それしか生きる術を知らないのだ。


 そんな私が、今さら誰かの笑顔ひとつに動揺している。


 アリアは、きっと何も知らない。この屋敷の冷たさも、私の過去も。


 それでもあの娘は笑っていた。


 まるで、そんなもの初めから存在しないと言わんばかりに。ただひたすらに純粋で、真っ白だ……


「……困ったな」


 自分の心がこんなにも簡単に揺らぐとは、想定外だった。


「まるで……」


 私はそっと目を閉じた。瞼の裏にアリアの笑顔が浮かぶ。


「これでは私がまるであの子のことを……」


 氷に閉ざされた心の奥が、かすかな音を立てて溶け始める音がした。


カリス様すごいよ…幼い頃からずっとそんな生活してきたなんて。二人には幸せになってほしいですね!


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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