可愛い夫婦
はっちゃけが止まらないアリアにカリスは戸惑う。そしてついに……
※三人称です。
「はい!とても気に入りました。見てください!このベッド!ふかふかでまるで雲の上にいるみたいなんです!」
そう言って、アリアはベッドにぽすんと腰を下ろし、軽く跳ねるように両手を広げて見せた。
その光景に、カリスの胸の奥で何かが芽生える。
(何をしているんだ、アリア嬢は……まるで子供のようにはしゃいで……)
「アリア嬢、あまり跳ねるとまた転ける……」
「カリス様も座ってみてください。ほら、ふかふかです」
「いや、私は……」
(私は知っているのだがな……いや、そんなことよりベッドはまずいだろ。ほら、色々と……)
などとカリスがごちゃごちゃ考えているとアリアが強引に袖を引っ張ってきた。
「ほらほら、遠慮しないで!」
ぐいっと袖を引かれ、余計なことを考えていたカリスは抵抗もできずベッドの縁に腰を下ろした。
その瞬間、沈むクッションの反動で肩が触れ合う。
(……近い!)
(近い!!)
ふたりの思考が、奇跡のように同じ方向に弾けた。
「す、す、すみません!私……!」
「い、いや……こちらこそ失礼を……」
気まずい沈黙。
アリアは真っ赤になってうつむき、カリスは咳払いをする。
そんな中、ミツキが茶を運んで来て、ぽつりと呟いた。
「……あら、お二人とももう打ち解けたようで……ふふっ」
「……ミツキ、余計なことを言うなよ」
「まぁまぁ、可愛らしいご夫婦で何よりですよ」
「ミツキもまざる!?」
「いいえ、私は遠慮いたします。お二人でどうぞ」
「えーつまらないわ……」
とは言いつつアリアは嬉しそうな、心底楽しそうな笑みを浮かべていた。
その笑顔を見て、カリスはほんの一瞬だけ息を止めた。
(……アリア嬢、こんな風に笑うのか……なんと愛らしいーー)
浮かぶ思考を振り払うようにカリスは慌てて頭を振る。
(……いや、だからさっきからおかしい。どうしたというのだ私はこんな……私は氷の侯爵、紅い悪魔、人喰い侯爵なのだぞブツブツ)
噂の"人喰い侯爵"ーー
冷徹で誰も寄せつけないと評されたその男の心が、ほんの少しだけ、やわらかく溶けた瞬間だった。
カリス様の心の声が……笑
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