番外編 お互いの気持ち 明日香視点
獣人族を保護した明日香はあんずを寝かしつけた後現実世界から持ち込んだ小説を読んでいた。
月明かりに照らされながら読み進めているとそれなりにいい時間になっており寝ようとしたがなかなか寝付けなかった。
雲一つないキレイな夜空なことから大好きなココアを淹れベランダで物思いにふけているとシャルさんのことを思い出した。
まだレティスリール大陸のことがわからない頃最初に開いた露店でマッチを買ってくれた。
シャルさんはその後もうちのお店を贔屓にしてくれて時には商品の補充や外の入店待ちの列を整理してくれたりと私のことを助けてくれトラブルに巻き漏れそうになった時は間に入ってくれたりした。
そんなシャルさんのことがいつの間にか気になっていてお店や買い出し中に合うたびに会話をするようになるまで関係は進展していた。
これが恋愛的な感情なのかただの好意なのかは私の経験上では判断ができずただの優しい常連さんという認識でいたのだが獣人族を保護し私が親の代わりになると言いだした時シャルさんは私のことを案じてくれて一緒に住むと言いだした。
現実世界では異性と暮らす=カップルという認識だったのでシャルさんに「好きでもない女の人と住むのって嫌じゃないんですか?」と聞いてしまった。
今思うとかなり直球な質問ではあったがシャルさんは別に構わないと言ってくれた後顔が赤くなっていたような気がした。
これまでイケメン冒険者さんと勝手に名前をつけていたがシャルさんの名前を初めて聞いた時少し嬉しく思い同時にもっとシャルさんの事を知りたいとも思った。
だが私はレティスリール大陸の人間ではなく異世界人であることとちょっとしたブームで繁盛している小さな商店の店主という肩書では恋愛関係になるのは難しいだろうと勝手に考えていた。
けどもシャルさんの隣にずっといたい
シャルさんの事をもっと知りたい
そんな気持ちに支配されていて仕事中や料理中もどこか上の空だった。
アネゾンでダブルベットを購入する必要性も本来であればないのだが気がつくとダブルベットとシングルベットを購入していてやってしまったと思ったがどこかシャルさんに期待をしていた所もあり恥ずかしかったがあんずちゃんと一緒に寝るためと逃げ道をつくり商品購入の取り消しをしなかった。
ベットが1台あまってしまうがゆくゆくあんずちゃんが成長したときにあんずちゃん用のベットとしてとっといてもいいだろうと思い現実世界の家に置いてきたのだがやはりシャルさんと同じ部屋で寝れないかと思っていた。
だが名目は獣人族のあんずちゃんがいることで奴隷商人や悪しき心を持った人が来たときに対応するために護衛するという大義名分がある以上これ以上の関係進展などありえない話だとわかっているのだがどこか悲しい気持ちに支配された。
あんずちゃんは13歳であと5年もすればこの国では立派な成人とみなされる
残り5年間でシャルさんがここにずっといてくれるという保障もなければ冒険者なのでいつか旅を再開するのではないかと思うと胸が張り裂けそうで仕方がなかった。
そんな事を悶々と考えているとあんずちゃんとシャルさんが甘い匂いに惹きつけられたのか起きてきてしまった。
「なんだか甘い匂いする・・・ママ何飲んでるの?」
「いくらベランダだとはいえこんな時間に外にでるのは危ないぞ」
そう言いながら2人がやってきた。
「ごめんね起こしちゃったね・・・
なんだか寝付けなくて・・・」
そう言いながら夜空を眺めていると
「俺も付き合うぞ
この町は決して治安がいいわけではないからな」
「でも私の国ではこのくらいの時間でも普通に外歩いている人いるよ?」
「こんな時間にこの町で女性が1人で歩いていたら間違いなく奴隷商人や人攫いのかっこうの餌食になるな」
なんだか怖いことを言われたような気がしたがもしそんなことがあってもきっとシャルさんなら見つけてくれる
そう思っていると
「ママいなくなるの嫌・・・パパ・・・ママのこと守って・・・」
あんずちゃんがそう言うと
「俺がパパか・・・
なんだか夫婦みたいだな」
その言葉に顔が赤くなったが嫌なきもちにはならなかった。
寧ろ肯定し2人もココアを飲むかを聞くと飲むとのことだったので2人分のココアを追加で淹れ倉庫から折りたたみの椅子を3脚もってきて夜空の鑑賞会が始まった。
その後暫くするとあんずちゃんが寝てしまったので風邪をひかないようにと私のベットに寝かせてベランダに戻るとシャルさんが独り言を言っていたのを聞いてしまった。
「俺が明日香さんの旦那か・・・
好きでもない女と一緒にいるのは嫌だけど明日香さんは寧ろもっと一緒にいたいと思えるんだよな・・・
けども護衛という名目でいる以上明日香さんにそんな感情はないだろうと思うとなんだか淋しいな・・・」
シャルさんも私と同じ事を考えていたことに驚きを隠せなかったがいずれにせよまだ恋愛関係になるにはまだ早すぎる
同棲生活はまだスタートしたばかりでまだまだお互いのことなんて知らない
そう思いながらベランダに戻るとシャルさんは急いで椅子に座った
「シャルさん・・・」
「なんだい?」
「私はシャルさんのこといつでも待ってますからね」
それだけ言うと夜空の鑑賞会が再び始まった。




