第6話 幸せな未来
空は恐ろしいほどに美しい青に染まっている。
雲ひとつなく、太陽が程よく輝いている。
とても過ごしやすい穏やかなある日のこと。
僕たち2人は並んで跪き、ジクス神殿長直々に詠んでいただいている祝詞を聞いている。
心には一片の曇りもなく、頭は冴えている。
これからの将来を想像すると、暖かさと笑顔しか思い浮かばない。
なんて素晴らしい日。
背後には父上を始め、王国の重鎮たち。
左右には神殿の偉い人達と、楽団。
音と歴史に彩られた荘厳な部屋の中で神に祈る神殿長は神々しさに溢れている。
とまぁ、カッコつけて表現してみたけど、正直僕の隣に天使がいるからあとはなんでもいい。
ふと隣を見ると、穏やかな中に少しだけ緊張の色を浮かべた可愛らしい目で見つめ返してくれる。
やだ、この娘可愛い……。
すみません、取り乱しました。
常時魅了の威力は凄まじい。
この冷静な僕を一瞬で突き崩してきます。
まぁ、この後のキスを控えて、僕の心の中は溢れんばかりの期待と喝采で大盛り上がり中だけどね。
問答無用で王国で最も美しく、最も優秀な聖女様が僕の妻になる。
「では、新郎アーサー様。誓いの言葉を」
「わたくし、アーサー・ウィルヘルム・ディアフリードは、未来永劫、優秀で尊敬できる女性であり、共に歩みたいと望む相手であり、その全てをかけてでも守りたい相手であるアリア・リシディアルム・レオメットに生涯を捧げることを誓います」
「アーサー様……」
しっかりとアリア様の目を見て話すことができた。
こんな僕でも少しは自信がついたみたいだ。
あの婚約破棄の事件があった後の泉での会話。
あれは拙いものだったと思う。なにせ自信もなく、アリア様を失いたくない一心で勢いで行動したものだ。
でも、その結果は最良のものだった。
いつもいつも準備万端で臨めるわけではない。
だけど、その時できることを全力で実行すれば、今日みたいな未来が開けるんだ。
そして後から自信はついてきた。
なにせもうアリア様の顔を正面から見据えてもちょっと嬉し恥ずかしいくらいだし、あーんもし合えるし、キスもできるし、今日は……初夜……。
いかんいかん。まだ堅苦しい儀式の途中だった。
妄想に浸るには早い。
しかし冷静に見れば、僕の言葉をアリア様が喜んでくれているのがわかる。
なにせ緊張の色が少し薄れている。
よかった。アドリブで大仰に言ってしまったけど、良い結果につながったね。
僕らの様子を見守るジクス神殿長の表情も予想以上に柔らかい。
アリア様に対する婚約破棄の一連の出来事の中で父上にはかなり厳しいことを言い放ったと聞いているが、僕に対しての対応は柔らかだ。
彼は良い指標になってくれそうだ。
そしてその背後にいるルーネ殿は小さく頷いていて、こちらも良い反応だ。
次はアリア様の言葉。
もう自分の番が終わった僕は緊張を放り棄て、穏やかな気分で彼女に向かい合う。
「では、新婦、アリア様。誓いの言葉を」
「わたくし、アリア・リシディアルム・レオメットは、未来永劫、優秀で尊敬できる男性であり、共に歩みたいとわたくし自身も強く望む相手であり、その全てをかけてでも守って差し上げたい相手であるアーサー・ウィルヘルム・ディアフリードに生涯を捧げることを誓います」
「アリア様……」
僕以上に大仰に言葉を紡いでくれたアリア様の顔は真っ赤だ。
やばい、予想外だった。威力が強すぎる。
もうこのまま抱きしめて部屋に帰りたいけどいいよね?
「あー、2人とも。誓いのキスは私が話した後にして欲しい。それにまだ式の途中なので落ち着いて欲しい。あとで好きなだけ盛り上がってくれたらいいから」
「あっ」
「……はい」
お互い真っ赤になって見つめ合いながら抱きしめ合い、流れでキスしようとしたところで止められた。
おのれ神殿長。
僕らの純情を弄ぶとは……って、式の途中だったね。
大変申し訳ございませんでした。
僕らは違う意味で赤くなりながら抱擁を解き、神殿長の言葉を待った。
結果的に式、そして披露宴は素晴らしいものだった。
なんどか暴走しかけて神殿長や司会の方々に止められたけど、総じて好意的に受け止められていた。
あと、何人かがアリア様を『守れるのか?』と喰ってかかってきたので、そのままぶちのめした。
アリア様がお色直し中を狙ったのだろうが、容赦はしなかった。
僕は僕の天使のために生涯を捧げるんだ。
えっ?国王として国に捧げろだって?
同じことだから問題ない。
結果は同じだ。
「アリア様、あの時、明日を僕にくれたこと、一生忘れません。今こうして夫婦に成れたこと、とても嬉しくて嬉しくて。ちょっと心の中が大騒ぎ中なので上手く表現できませんが、誓いの言葉通り僕は未来永劫あなたとともにありたいと思います」
「アーサー様、私も嬉しいです。これからよろしくお願いします。」
僕らの間を邪魔するものはもういない。
ようやく手に入れた。
僕は終生、この幸せを手放すことはなかった。
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