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妖精として生きるつもりです。  作者: 納豆しらす
第一章 『始まり』
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第七話 『最悪のパターン』

「私たち、離婚するの」


その言葉を聞いた俺は最悪のパターンを引いてしまったと後悔した。


磨童まどうは食事をしていた時に思い出した昨日の夜の言葉を繋ぎ合わせ、1つの答えに辿り着いていた。


それは、両親が離婚すること。


磨童は答えに辿り着いていたばかりに焦っていた。


自分が何も知らなければ止められたかもしれないと。


昨日の夜、喧嘩を止めに行かなければ、こんな事にはならなかったと。


磨童は今すぐにでも口を挟みたかった。


...でも、八月やつきの真剣な瞳を見ると、言葉が出なかった。


その目を見た磨童は気付いていた。


もう何を言っても決意は変わらない事に。


もし、昨日の夜に戻れるなら喧嘩など止めず、大人しく寝ておけば、今日はまだこんな事を言われなかったかもしれない。


でも、取り消すことは出来ない。


だから話を聞く事にした。


「これは、お父さんの仕事の関係上の話もあるんだけど...」


それは、まだ隠し事をしている話し方だった。


でも、俺は遮らない。


八月は続ける。


「お父さんは、ある異犯者を捕まえようとしてるの」


俺は母さんをジッと見つめる。


「でも、その人が世界的にかなり影響力のある人で、捕まえたとしてもそれ以外のお父さんに恨みを持つ人や、その異犯者に恩がある人とかに狙われる立場になっちゃうの」


そして八月は何かを考えてから言う。


「...実はね、子供あなた達の事は世間には公表していないの」


その言葉に俺は少し驚く。


でも、すぐにポーカーフェイスを装う。


「でね、そんな立場になっちゃうと子供あなたの事を隠すのも護るのも難しくなってしまう。だから...」


八月は何かを決断した。


「離婚してあなた達...子供達の事をしっかり育てるって決めたの」


少し間を開けてから言う。


「磨童には異能が無いから最後まで護ってあげなきゃいけない」


八月は磨童を見る。


「だから、こんなダメなお母さんを許して...!」


泣いてはいなかった。


でも、泣いている声だった。


だから、俺は言う。


俺に出来る最大限の慰めと最大限の愛を込めて、


「俺は父さんの事も母さんの事も大好きだよ」


そう、最大限の笑顔で言うのだ。


母さんはその場で泣き崩れてしまった。


多分、泣かないように耐えていたのだろう。


...前世ではこんな言葉が出る事は無かっただろう。


これも今の人生があるからだろう。


無黒慈むくろじにも感謝しなければいけないなぁ。


そこで俺は転生する時に無黒慈に言われた事を思い出す。


(平穏に生きる事が難しいと思っても、俺の事を恨むなよ?)


俺はその言葉に改めて疑念を少し抱くのだった。



そして、2人は離婚した。


世間に明かされた離婚理由は、「お互いがより良い生活を送るため」だそうだ。


真実を知る者としては大分気になるが、俺達の存在を明かさないためには大切な事なのだろうと思っていた。


そして、初めて、家に父さんがおらず、一生帰ってくる事のない生活をした。


別に不満がある訳では無い。


只、いつもより静かになったなと思う程度だ。


何故そう思うのかと聞かれたら、家に父さんがいないという事実を改めて自覚して、寂しくなったりする事が無いからだ。


だから、何があってもそれ以外の考えは持たない様にした。


それに、父さんとは離れ離れだが、生きてはいるので、思ったより寂しくは無かった。


そして、その生活を始めて、1年が経った。


俺は7歳になっていた。


今、思えば6歳の子供に離婚云々の話を伝えるのはどうかしている。


しかし、あの時は母さんも限界だった。


俺よりも悲しいのは多分、母さんだ。


...今度、プレゼントでもあげようかな。


暇なのでテレビでも見ようとリモコンを取る。


そして、テレビをつけた。


「...!!」


俺は絶句した。


それに気付いたのか母さんもテレビを見る。


「...ぇ」


そして、母さんはその場に倒れ込んでしまった。


無理もない、そこには信じられない事が書かれていたからである。


...今、テレビにはニュース番組が流れていた。


そして、その内容はこうだった。


「速報です。かつて英雄と呼ばれていた黒川くろかわ 磨天まてんさんが亡くなりました。」


アナウンサーは淡々と続ける。


しかし、信じられないのはそこだけじゃない。


「磨天さんは、国家へのテロなどの反逆を行ったとして、昨夜、処刑されました」


テロ...? 処刑...?


そこには、嘘ばかりが並べられていた。


でも、1つ分かった事は、父さんが死んだという事実だけだ。


俺は膝から崩れ落ちた。


俺の頭は回っていなかった。


...は?死んだ?嘘...だろ?


俺は死んでも嘘と言って欲しかった。


隣にいる母さんは泣いているだけだった。


「ぁあ...あ...あ」


俺は今にも倒れそうだった。


しかし、涙は一滴も出なかった。


というか、目が痛い。


灼ける様に痛い。


泣きたいのに涙が出ないと嘆きながら鏡へ向かった。


俺は、鏡を覗き込む。


すると、俺の右眼は黒く染まっていた。


「...!?...んだ...これ」


俺は戸惑っていた。


でも、右眼が黒くなるのと同時に、体から力が湧いてきた。


「これは...?」


俺は、異能を得る際に、父さんからある事を言われていた。


「異能と魔力は同時に宿る。そして、魔力が宿るといつもより強くなった感覚がする」


母さんはその時、そんな難しい話、5歳児にはまだ分かりませんとか言っていた。


強くなる感覚...


つまりこれは...


「異能...」


父さんの死と同時に異能が発現した。


これは紛れもない事実だ。


俺は試す事にした。


そして、その日は暗い空気のまま、夜を過ごした。


夜になり、寝る時間になる。


ちなみに母さんに心配を掛けさせた覚えはないが、ずっと大丈夫?とか辛くない?とか聞かれてた。


そのため、少し時間が遅かった。


今日は母さんも一緒に寝るようだ。


俺が5歳になってから一緒に寝る事は無かったが、母さんも辛かったのだろう。


ここで追い返す奴は人の心を持っていないだろう。


さて、異能を試すと言ったが、もう8割解決してしまった。


何故なら、今は完全なる暗闇なのに周りの様子が昼間の様にハッキリ見えるからである。


つまり、これは「暗視」か何かか...?


確証は無いので、もう少し、試してみる。


そして、その結果色々分かった。


この異能で出来ることは、


・暗視

・遠視

・透視


だ。


ちなみにこれは試してみて思った事で確定事項では無く、試しようがないので説明するが、おそらく動体視力を極限まで上げる事も出来るだろう。


つまり、かなり万能な力なのだ。


そのため、俺はこの異能に「千里眼せんりがん」と名付ける事にした。


もちろん、これは国に登録していない。


それに、父さんが死んだ現状、出来ないのだ。


登録をする際に、父さんに戸籍が近かったり、名字は変えていても、元を辿られる可能性があるので出来ない。


だから、俺はこの事を母さんにも零斗れいとにも円香まどかにも黙っている事にした。


でも、右眼を見せるとバレてしまうので、俺は髪を伸ばすことにした。


元々、父さんの要望で右側の前髪が長かったのであまり苦労はしなかった。


俺はこの力を隠し通す。


そして、俺はやってやる。


父さんを殺したヤツに復讐を。


すると、母さんが後ろから抱き着いてきた。


なんだ、という風に振り向くと、母さんが泣いていた。


そして、母さんは言った。


「私...磨童には...お父さんと同じ死に方をして欲しくない」


それは、必死に喉から掻き出したような涙声だった。


俺は、その言葉に目を見開き、振り向いて母さんを抱き締めた。


そして、決めたのだ。


せめて、母さんの望む生き方をしようと。


復讐をしたくない訳では無い。


只、これ以上母さんを悲しませたくなかった。


父さんが欠けてしまっても、平穏に生きる事が出来る道があるなら、俺はそうしたいと思ったのだ。


零斗と円香のためにも、母さんのためにも俺はこの事を1人で抱え込む事を決意した。

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