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妖精として生きるつもりです。  作者: 納豆しらす
第一章 『始まり』
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第六話 『不穏』

最近、母さんと父さんが喧嘩をする事が増えた気がする。


喧嘩と言っても、母さんが一方的に父さんを責めているだけの様な感じだが…


もちろん、2人は俺達の前ではそんな姿を見せないが、俺は知っている。


夜中にいつも声がするのだ。


別に耳がいい訳では無い。


只、前世の時から少しでも音が聞こえると、寝ていても目が覚めてしまうのだ。


…これも、あの親のせいか。


俺はそんな事を考えていた。


只、俺はあんなに仲の良かった2人が何を言い合っているのかが分からなかった。


少なくとも、喧嘩をして欲しくないと思っていた。


だって2人は俺が今まで出会った中で1番良い親だからだ。


まぁ、今まで出会ったと言っても、前世の親だけだが…


だから、俺は不躾だと思うが喧嘩を止めに行くことにする。


階段を降りて、俺はリビングまで向かう。


そして、リビングの扉を開いた。


するとそこには、いつもの母さんとは思えないほど怒っている母さんの姿が見えた。


俺は口を開く。


「母…さん?」


その声に気付いたのか2人がこちらを向く。


普段なら声を発さなくても気付いただろうが、余程言い合っていたのだろう。


こちらに気付かないというのは珍しかった。


すると、母さんは笑顔を無理矢理作った。


「どうしたの?寝れなくなっちゃった?」


俺はその時、少しだけ母さんが怖かった。


気付かれているはずなのに、何を装っているのかが分からなくて、怖かった。


父さんはまだ、理解が追い付いていないようだ。


心無しか、父さんが少し、自己嫌悪をしている様に見える。


だから俺は聞く。


「なんで喧嘩してるの?」


すると母さんは、


「別に喧嘩じゃないのよ?お父さんとお母さんが仲良いの知ってるでしょ?だから、大丈夫」


と言った。


大丈夫と言っていた。


でも、俺はそうは思わなかった。


それどころか何か嫌な予感がしたのだ。


まるで、このまま何もしなければ、何か大切なものを失ってしまう様な。


だから俺は引かない。


「嘘、つかないで?」


そして、俺は慈愛に近い目で


「全部話して?」


と聞くのだ。


でも、母さんは何も話そうとしなかった。


父さんは何も言う事が無い、みたいな状態だった。


母さんは俺に言う。


「あなたは賢いのね」


そして、母さんは誤魔化す様な口調で


「でもね、本当に何も無いの」


と言ったのだ。


俺はこれ以上何も聞く事が出来ないと思った。


だから、部屋に戻る事にした。


そして、俺の部屋に戻る音を聞いたのか、また言い合いが始まった。


俺はその夜、寝る事が出来なかった。



夜に寝る事が出来なかった俺は結局言い合いの声が聞こえなくなるまで、起きていた。


そのため、昼まで寝てしまった様だ。


起こしに来た円香まどか


「怠け者」


と言われてしまった。


別に、怠けてた訳では無いんだけど…


円香に呼ばれてリビングに行くと、空気が重かった。


零斗れいとと円香は気にしていない様子だったが…


いや、単純に気付いていないのかもしれない。


でも、この空気の中、朝(昼)ご飯を食べるのはかなり嫌だった。


結局、昨日の夜は何も教えてくれなかった。


でも、少し分かった。


昨日の言い合いの内容を少し思い出す。


(なんで、そんな危険を犯す必要があるの!?貴方は子供もいるのよ!?)


(でも、俺はやらなきゃいけないんだ。英雄に選ばれたんだから。)


(ふざけないでよ!子供達の事はどうするの!?)


(だから、八月やつきに任せるって言ってるだろ?)


(任せるって何よ!貴方がいないとダメじゃない!)


…多分2人は俺達の世話をどっちがするのかで言い争っていたのだろう。


でも、これで考えられる理由は1つ。


…マズイな。


俺は密かに思うのだった。



昨日の夜の磨童まどうが部屋に帰った頃…


「どうしてくれるの!あの子に心配掛けさせちゃったじゃない!」


「…」


「黙ってるだけじゃなくて何とか言いなさいよ!」


「…もし、俺がいなくなったら、お前はどうする?」


「…そんな事が無いようにするわ」


八月は思い付いたように口を開く。


「…でも、磨童は悲しむでしょうね。あの子は貴方に憧れてる」


それは事実だった。


実際磨童は、八月よりも磨天まてんに強い憧れを抱いていたのだ。


零斗れいとや円香は八月の方が気に入っていた。


それが、八月の母性なのかは分からない。


しかし、磨童が磨天に対し、憧れを抱いているという事実は塗り替えられなかった。


八月は磨天の頭が少し弱い事を知っている。


でも、磨天も自分の地位が故にこの決断を譲れないのを十分理解していた。


磨天も罪の意識があるのか、八月に対し、強く言い返す事が出来ていなかった。


八月は訴えかけるように言う。


「磨童は頭がいい。多分、ずっと覚えてるでしょうね」


そして八月は


「あの子は貴方がいなくなったら、心に穴が空いてしまう。そして、その穴を埋められる人はいないと思ってる」


と言った。


磨天は頷く。


「それでも、やるのね?」


磨天は迷いなく答える。


「ああ」


八月は少し考えてから口を開く。


「あの子には明日説明する事にしましょう」


こうして、夜が終わるのだった。



俺はその日の夜、母さんに呼ばれた。


「あなたに話があるの」


俺は何を言われても最後まで聞くつもりだった。


母さんは口を開く。


そして、衝撃的な言葉を口にした。


「私たち、離婚するの」

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