第五話 『名字』
俺は磨童、転生者だ。
実は最近、ある事を知ったのだ。
それは、この世界の名前は何処と無く、日本人に近いという事だ。
そう、つまり名字がある。
家の前の表札を見たら、そこに「黒川」と書いてあった。
つまり、ウチの名字は黒川なのだ。
試しに、家族全員を名字をつけて呼んでみよう。
黒川 磨天、黒川 八月、黒川 零斗、黒川 円香。
そして俺、黒川 磨童。
我ながらいい響きだ。
…俺が名付けた訳じゃないけど。
しかし、名字があると名残というか、懐かしさを感じる。
この6年、そんなものは無いと思っていたからな。
まぁ、期待して無かった訳じゃないけど。
そういえば、新たに分かった事がある。
それは、父さんがこの世界で「英雄」と呼ばれている事だ。
実は父さんは、異警軍で、最も異犯者を捕まえ、最も人助けをしたのだ。
しかも、若くして、異警軍の最高位「十剣」に辿り着いた人物だからだそうだ。
これは珍しい訳では無いのだが、犯罪解決数トップで入るというのは、稀だそうだ。
しかも、父さんは飛び級みたいな入り方をしてる。
本来、十剣は皇帝の中からしか、選ばれない。
それを父さんは、事件解決して問答無用で入り込んだのだ。
多分…というか父さんは脳筋だ。
でも、脳筋で選ばれるという事はそれだけ凄い人物なのだといえる。
俺は父さんの息子として誇らしい。
父さんの息子で良かった。
俺は心の底からこう思うのだ。
そういえば、6年が経った今、零斗と円香は5歳にになっていた。
説明していなかったが、2人は双子である。
ちなみに零斗の方が少し先に生まれた。
で、それがどうしたのかというと、
5歳になったという事は、そろそろ異能が発現する時期なのである。
2人にどんな異能が発現するのか俺は内心ワクワクしていた。
もしかしたら、俺と同じ無能かもしれない。
ま、もしそうだとしてもこの家にそれを責める人はいない。
もし、イジメられそうになったら、俺が庇ってやるくらいの覚悟は出来ていた。
それぐらいに今の暮らしを気に入っていたのである。
◇
そこから、2ヶ月程で2人に異能が発現した。
零斗が「必中」、円香が「宝石」という異能だ。
ちなみに名前は、診察をした病院でどのような異能なのかを確認してから、付けられる。
必中は、その名の通り、銃など、相手を遠くから狙う事において、必ず命中させるというものだ。
宝石は、体から宝石を生み出したり、宝石を操作することが出来る。
ちなみに、体から生み出すと言っても、魔力で創り出したものなので、本物では無い。
だから宝石を生み出して売り捌いたりする事は出来ないのだ。
ちなみに、こういった行為も異犯者として扱われるらしい。
2つとも多様性のある異能で、かなり応用が効くと思っていた。
…しかし、好き勝手に異能を使う事は出来ないので、応用も何も無いと思うのだが…
もし、この2人が将来、異警軍や妖警団になるというのなら、伸ばすに越したことはないが、この2人ならそんな事は言わないだろう。
すると、円香が俺の元に寄ってきた。
「兄しゃ…見て!」
円香がニコニコしながら、体から宝石をバンバン出している。
楽しそうな顔してる。
…いや、いくらなんでも出しすぎじゃない?
円香の下に宝石の山が出来てる。
円香がもう少しで埋まりそうなくらいには高い山が。
すると、後ろから零斗が来て、
「まどか…出し…すぎ…」
とか言って、宝石の回収を始めるのだった。
いや、止めて?
この大量に溢れ出る宝石の根源を止めて?
すると、宝石の排出が止まった。
魔力切れだろうか…?
円香は疲れてしまったのか、その場に座り込んでしまった。
…宝石の山に。
魔力は異能の成長と共に増えていくらしいので、このまま鍛え続けたら、いつか世界を埋めるのではないか。
考えてもキリがないので俺は考えるのをそこで辞めることにした。