第四話 『異能』
転生してから、5年が経った。
俺は、言葉を話せるようになり、立って歩けるようになった。
あとは、多少だが文字も読めるようになった。
また、少しずつこの世界のルールも分かってきた。
ルールを理解する上で、やはり妖精と人間はハッキリと違うものなのだと意識してしまう。
まず、妖精には4歳から5歳のうちに「異能」という力と「魔力」が発現する事だ。
まぁ、魔力は置いておいて、異能とは、簡単にいえば、1人1つ持つことが出来る力だ。
分かりやすく例えると、異世界モノでよくある「ユニークスキル」みたいなものだ。
異能があるか、無いかで全く違うのだ。
そのため、人間とは全く違うと言える。
2つ目は、異能は宿る人と、宿らない人がいることだ。
そしてこの世界ではその人の事を「無能」と呼ぶ。
世間では、まだ無能に対する差別が無くなっておらず、異能を持たないものは就職がしにくかったり、イジメられたりする。
また、無能には魔力が宿らない。
異能と魔力は比例していると言われており、魔力の無いものは異能を使う事が出来ない。
また、これは異能を持つ者にも適用され、異能を使いすぎると魔力切れが起こる。
魔力切れになると、異能が使えなくなってしまうのだ。
もちろん、その場合は魔力が回復したら使える様になる。
3つ目は異能の使用が禁止されていることだ。
異能を持たない者が、未だに差別をされている中、異能の使用が禁止されている事には驚いた。
これは法律で決められているらしく、勝手に使用すると犯罪者とみなされるのだ。
また、この世界で異能を使って犯罪を犯した者を「異犯者」と呼ぶ。
異犯者は、この世界では最も捕まえるのが難しいとされている。
そして、その異犯者を捕まえるために国が「異警軍」という集団を創設した。
しかし、異警軍は、異犯者を捕まえる事だけが仕事という訳ではな無く、「妖警団」が行うのが危険とされた人命救助の仕事などもある。
ちなみに妖警団というのは、日本でいう、警察みたいなものだ。
そして、異警軍や妖警団は少し特殊で、異能を使う事が良しとされている。
理由としては、異犯者を捕らえるためには、同じ異能で押さえつけるしか無いからだ。
それもあってか、この2つの仕事は国民の人達からの憧れがとても大きい仕事になっている。
でも、俺は妖警団にはあまり興味が無く、異警軍の方が憧れがあった。
何故なら、俺の両親が異警軍だからである。
しかも父さんは、その異警軍の組織のトップに立っている凄い人なのだ。
母さんは俺が生まれてから育休を取っているのか、あまり仕事には行っていないが、父さんが言うには、母さんは「皇帝」という立場に立っている凄い人なのだそうだ。
ちなみに皇帝とは、異警軍の中でも権力の高い、偉い人達の集まりだそうだ。
今は4人いるらしい。
只、父さんが異警軍のトップである集団にいるので母さんにはあまり大きな反応をする事が出来なかった。
これがこの5年間で知ることのできたこの世界の事だ。
そして、5歳になった俺にはもうすぐ異能が宿るのだと、俺は内心ワクワクしていた。
異能は親の遺伝から決まる事もあるらしい。
父さんと母さんの異能は何だったかな…?
そこで俺は2人に聞いてみた。
「え、父さんの異能?」
すると、父さんは嬉しそうな顔をした。
「お前もそういうのが気になる様になったのか。もうすぐお前にも発現しそうだしな。」
父さんは俺の頭を撫で始めた。
「俺の能力は「太陽」で、まぁ、太陽に関する力を操れる…みたいなものかな。…ってそんな事言ってもまだ分かんないよな?」
父さんの頭を撫でる力が強くなる。
父さんに撫でられながら母さんにも聞いてみる。
「え?お母さんの?」
母さんは何か考えながら言った。
「私の異能は「月光」で、まぁ、お父さんの対比かな?」
そうだ、そんな感じだった。
2人が前に言っていた通りでは、確か父さんの力は太陽に関する力を操れるだけで無く、朝や昼間は通常の3倍以上に強くなる。
逆に夜は普段より1.5倍弱くなる。
母さんの場合はその真逆で月に関する力を操れるだけで無く、夜は通常の3倍強くなる。
さらに、その夜が満月の夜なら5倍強くなる。
逆に朝や昼間の太陽の出ている間は普段より1.5倍弱くなる。
そのため、母さんは普段から夜中に仕事をする事が多かったそうだ。
まさにこの2人に相応しい異能と言えるだろう。
父さんは太陽みたいに明るいし、母さんは月のように優しい。
この2人が俺の親で良かったと本当に思う。
俺にもし異能が発現するなら、この2人の子供として相応しい異能が欲しい。
初めの頃は異能などいらないと思っていたが、イジメられるのも就職が出来ないのも嫌なので、欲しい。
俺はそう思っていた。
◇
そして、それから1年が経ったが、俺には異能が見事に発現しなかった。
なんでだよぉーーーーーーーーーー!
転生者だからか!?
クソぅ、普通に欲しかった…
異能の無い俺は無能となり、魔力も宿らない。
でも、父さんは俺を励ますためにとある話をした。
「…お前に異能は発現しなかったけど、実はな、昔の話なんだが…」
俺はなんの事だろうと思った。
そして、父さんの話に衝撃を受けた。
「基本は、4、5歳の時に発現するんだが、20歳の時に発現した人がいるそうなんだ。」
…つまりそれは、俺にもまだ可能性があるという事か…?
「そんな話をしても、余計がっかりさせるだけでしょ?」
母さんは信じていないようだ。
「いいか、八月、男はロマンだぞ!!」
父さんは少し、オツムが弱かった。
「呆れた、このまま発現しなかったらどうするの?」
「もし、発現しなくてもこの子は俺達の自慢の息子だからな。守ってやるさ。親として。」
「…そうね」
母さんは少し笑っていた。
しかし、異能が無いのか…
こんなので平穏な暮らしってあるのかねえ?
俺は父さんと母さんを見る。
2人は零斗と円香と一緒に笑っている。
…ま、この家の家族なら、異能なんか無くても、幸せに暮らせるか。
…でも、手に入るなら欲しかったなあ。
俺は、異能が無い事に未練が無い訳では無かった。