第三話 『日常』
この世界に転生してきてから2年が経った。
2年の間に俺には弟と妹が生まれたのだ。
名前は、弟が零斗、妹が円香。
2人とも、可愛い俺の兄妹だ。
2歳の俺は、少し言葉が話せるようになっていた。
といっても、まだ母音の違いを発音できる程度だが…
というか、これは普通に考えて大分成長が早い方だと思う。
これも転生した効果か何かなのだろうか。
そんな事を考えていると、母さんにご飯の時間だと言われた。
しかし、呼ばれているのは父さんだけなのだが…
俺たちは呼ばれても、まだ立って歩くことが出来ないので、父さんと母さんに抱っこされて運ばれるのだ。
ちなみに俺は父さんと母さんの抱っこを気に入っている。
俺は父さんに持ち上げられる。
父さんは力があって高くまで持ち上げてくれて楽しい。
いつも、高い高いをしてくれる。
俺はそんな事をしてもらう歳ではないはずなのだが…
これも転生の効果なのだろう。
精神年齢に肉体が変わるのではなく、肉体年齢に精神が変化する。
少しだけ変な感じだ。
でも、これにより日に日に妖精に転生した事を自覚する。
そういえば、無黒慈は妖精の世界のルールはこちらに来れば分かると言っていたが、まだよく分かっていない。
まぁ、焦るのは良くない事だ。
気長に待つとしよう。
すると、父さんから母さんにバトンタッチされる。
母さんは柔らかいのだ。
ナニがとは言わないが柔らかい。
そして、母さんには謎の包容力がある。
これが母性というやつなのだろうか。
そんな事を考えていると、食卓にたどり着く。
まだ、食べ物を食べる事が出来ない今は、まだ離乳食の状態だ。
この離乳食は一体何なのだろう。
多分市販の奴だ。
味がかなり微妙だ。
美味くも無く、不味くもない微妙な味。
しかも中に入っているのが何なのかが分からない。
成分を見れば分かるだろうが、俺はまだこの世界の言葉を読む事が出来ない。
え、じゃあなんで聞き取れるのかって?
転生した時に翻訳して聴こえる力を手にしたからだ。
原理はよく分からんが、まぁ、特に気にしてもしょうがない気がする。
それに俺を転生させたのがあの神なんだから勝手にこんな事をしてくるのは当然だと思う。
だから気にしない。
気にしたら負けなのだ。
また、ここでの食事は人間の時と変わらない。
食材や食品、料理名まで一緒だ。
まぁ、その方が色々とやりやすい。
ただ、予想だけでは机の上の料理を知る事は難しい。
俺にだって知らない料理はある。
毒でも食わされていたとしたら、今すぐ吐き出したい。
まぁ、この両親がそんな事をするとは思えないけど…
すると、いつものリンゴの様なものをすり潰した俺のお気に入りの離乳食が来た。
俺は父さんにそれを1口食べさせられる。
俺は目を光らせて、
ウマーーーーーーーーーーーーイ!
と心の中で叫ぶのだ。
これは母さんが作ったとっておきの離乳食で、他の離乳食は微妙な味がするのでこれが無いとやっていけない。
なんなら、これだけ出してくれれば構わない。
零斗と円香も美味しいのか目を光らせている。
俺みたいな記憶を持った奴じゃない、普通の子供でも味を感じるんだな。
動物でも味は分かるし、当然といえば当然だ。
でも、俺は今まで赤ん坊にそんな事を考えた事が無かったので大変驚いている。
すると、2人は俺には渡さんぞと言わんばかりにバクバク食べている。
遠慮がないのは子供の特権か…
とか思いながら、俺もその美味い離乳食を食べるのだった。
しばらくして、夜になった。
俺は零斗と円香と父さんの4人で風呂に入る事になったのだ。
すると、いつもは広かったお風呂も4人となると割と狭い。
いつもは、零斗と円香は母さんと一緒に入っていたから、一緒に入るのはこれが初めてだ。
父さんに頭を洗われる。
割と気持ちいい。
俺は父さんの洗い方が好きだった。
母さんの洗い方が嫌いな訳ではないが…
え?母さんと風呂入ったことあるのって?
1度だけある。
流石に母さんの裸を見て興奮はしないが、罪悪感があるのでそれ以降、父さんとしか入っていない。
2人もこの洗い方を気に入ったのだろうか?
2人とも満足そうな顔をしている。
そして、頭を洗い終わり、湯船に浸かる。
といっても、この体では沈んでしまうので、風呂桶に水を入れてそこに入るだけなのだが…
父さんが風呂に入ってきた。
狭かったが、いつもよりは楽しいと感じた。
風呂を上がり、寝る時間になった。
俺たちはいつも、母さんと父さんの間に布団を並べて寝るのだが、今日はいつもより疲れていた。
初めて、3人で風呂に入ったからだろうか?
疲れるほど動いていないはずだが?
考えても仕方がないと思い、そのまま寝ることにする。
こうして、いつもの一日が終わるのだった。
◇
今日は、父さんが仕事でいなかった。
そのため、家の中は母さんを含めた4人だけだった。
いつもは母さんと父さんの話し声がするリビングも今日は一段と静かだった。
俺はまだ、言葉が話せないので、賑やかにしてあげる事が出来ない。
俺は、父さんと母さんと話すためにも、早く言葉を話せるようになりたかった。
父さんがいないので、零斗と円香と遊ぶ事にする。
何をして遊ぼうか…
幸い、この家には色んなおもちゃがある。
遊びの話題には困らない。
そう考え、俺は2人の前でブロックを組み立てて遊ぶ事にした。
そして、ブロックを少し積み上げた辺りで俺は…
楽しい!!!
とても楽しんでいた。
これも転生の影響なのか、只のブロック積みが楽しく感じる。
すると、2人が俺の元によってきて、一緒にブロック積みをする事にする。
しかし、円香が零斗のブロックを取り上げた。
零斗が取り返そうと円香の手を引っ張ると、円香が泣き出したのだ。
子供は良く泣くと聞くが、こんな簡単に泣くものなのかと、俺は円香を慰めにいく。
すると、今度はつられたのか、零斗が泣き出す。
混乱して思考が停止している俺の元に、母さんが来る。
そして、2人を慰めている。
すると、10秒も経たず、2人が泣き止んだ。
これが母性の凄さか…
と俺は驚いていた。
泣き止んだ円香は今度は泣かれないと思ったのか、俺の積み上げたブロックを崩して、ブロックを奪っていく。
いや、うん、泣きはしないけどさ?
でも、子供なんてそんなものかと俺はすぐに考えるのをやめる。
すると、母さんが円香に注意している。
どうやら、母さんは初めから見ていたようだ。
すると、母さんは俺に手を伸ばして頭を撫でながら、
「泣きたい時は泣いていいんだよ」
と言った。
俺は大人だぞ?こんな事で泣いたりはしない。
でも、母さんの包容力には勝てなかった。
俺は泣きはしなかったが、母さんに抱きついていた。
前世でもこんな母親がいれば良かったとずっと考えていた。
そして、俺はこんな日々がずっと続けばいいのにと願っていた。