第二話 『転生、妖精』
ここは…?
目を覚ますと俺の前には大きな男と小柄な女性がいた。
「生まれたわ!」
「やったな!ありがとう八月!」
何か話しているようだ。
俺は、声を出そうとした。
すると…
「ぁ…ぅあ…」
…!?
声が出なかったのだ。
俺は驚いた。
え…なんで…!?
しかし、転生したのだ。
もし、考える事があるとするなら…
俺は、無黒慈の言葉を思い出す。
(人間じゃなく、妖精としてな!)
これは…
妖精の子供として生まれてきた状態なのだろう。
つまり、今の俺は赤ん坊の状態なのだ。
これなら、声が出ないのも、立ち上がれないのも納得がいく。
…ということは、目の前にいるこの2人は俺の母親と父親なのだろう。
…まぁ、何はともあれ、転生は成功したみたいだな。
◇
一方、その頃…
「ちょっと!無黒慈!」
とある神の声が響いていた。
「あなた、また新しい転生者を生み出したの!?」
彼女は自然の神「草花」
その名の通り、世界に自然を与える神だ。
「いつもの事だろ?そう、ムキになるなって」
無黒慈はいつもの調子で言う。
「ムキになんかなってないし!というか、そもそもあなたのせいでしょう!」
草花は怒っているようだ。
「大体ね、あなたがそんな自由なのは誰もあなたに逆らえないだけなんだから!」
草花は言う。
「あなたに逆らえる力があったら、他の神達は皆あなたにもっと働かせようとするわ!」
「それって俺のせい?」
「そうよ!」
草花は溜息をついた。
「ハア、そもそもそんな事いつまで繰り返すつもり?」
無黒慈は
「問題が解決するまでかなぁ」
とやる気の無い返事をした。
「そんな調子ならいつまで経っても解決しないわよ。いっその事あなたが行って、解決してきたら?」
「それが出来ないから言ってんだろ?全く、あいつも面倒な事するよな。俺はもっとゆっくりしたかったのに」
「そっちが本音でしょ」
草花は呆れていた。
「あの問題を転生者に解決させるわけ?そもそも、今まで1度も成功しなかったじゃない」
無黒慈は少し笑いながら言う。
「実はさ、ついさっき面白い奴が来てな、まぁ、直接言ってはいないけど…」
草花は頭にハテナマークを浮かべている。
無黒慈は自信あり気に
「そいつなら問題解決してくれるんじゃないかと思って」
と言った。
「まぁ、なんでもいいけど。これを機に転生騒ぎはもう辞める事ね。ただでさえ忙しいんだから、仕事をしないあなたが仕事を増やさないで」
草花は呆れながら去っていった。
「あぁ、辞めるさ。多分これが最後だろうからな」
無黒慈は不敵に笑うのだった。
◇
さて…転生に無事成功した訳だが…
これからどうしようか…
いざ、平穏な暮らしをしろと言われても何も思いつかないものだな。
両親の話を聞いていて分かったのは、父親の名前が磨天ということと母親の名前が八月ということ、そして俺に磨童という名前をつけられた事だ。
もちろん、名前を知って出来る事は無いが、知っておいて損は無い。
まぁ、あともうひとつ分かった事は、この2人は俺の事を非常に溺愛しているという事だ。
もちろん、犯罪思想を持っている訳では無く、単純に愛されているのである。
しかし、愛されているという事に不快感を覚えないのは初めてだ。
前世では、親に愛していると伝えられただけで吐き気がするほどだった。
しかし、それが無いという事は、俺は案外気に入ってるのかもしれない。
といっても、この世界に来てから気に入ると言えるほど生きている訳では無いが…
まだ2時間程度だが…
でも、不快感を覚えないのならやっぱり無黒慈の提案は素晴らしいものだったのだろう。
…認めたくは無いが。
…平穏な暮らしか。
その答えは俺には全く出てこない。
ただ1つ言えるのは、俺はこの家で、この家族と一緒に暮らしたいということだ。
それが今の俺にとっての平穏な暮らしの答えなのかもしれない。
俺はそう心に刻むのだった。