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妖精として生きるつもりです。  作者: 納豆しらす
第一章 『始まり』
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第十一話 『託されたもの託されるもの』

母さんにもう1度笑って欲しい。


それが俺の望みだった。


でも、何をすれば良いのか分からなかった。


前までは普通に笑っていたのに、ある日、俺が帰ってきてから笑わなくなってしまった。


俺はその日に何があったのか覚えていない。


というか、記憶を封じた。


何か悲しい事があったはずなのだが...


そんな事を気にしても仕方が無いので、気にしないことにする。


零斗れいと円香まどかにも苦労を掛けさせたくないので、俺が頑張らなければいけない。


俺は考える。


笑ってもらうには〜?


俺はギャグとかをするのが得意ではない。


だから、毎日学校であった事を母さんに話すことにする。


と言っても...何を?


俺、学校でいじめられてるんだが?


学校で俺は無能だと思われている。


...まぁ、国に登録してないし、当然と言えば当然だが...


とはいえ、現実であるのは確かだ。


俺は、母さんを笑顔に出来るほどの話題を持ち合わせていなかった。


だから、零斗と円香に頼る事にした。


俺は2人に学校で起きた事とか楽しかった事を母さんにに話して欲しいと。


2人は快く了承してくれた。


...俺はいい兄弟を持ったな。


前世ではこうはいかなかっただろう。


なにせ、前世の俺の弟は俺を心の底から嫌っていた。



俺には双子の弟がいた。


弟は優秀だった。


テストでは毎回90点以上を取るし、運動に関してもどんなスポーツでも申し分無かった。


オマケに顔がいいから、もの凄くモテた。


そんな優秀な弟を持てて、俺は幸せ者だった。


弟は俺より出来るやつだった。


何をされても、弟は許した。


弟は何も悪くないからだ。


言ってしまえば、俺の前世の親は世間では毒親と言うのだろう。


俺は前世の親が死ぬ程嫌いだった。


両親は俺が死にたいと渇望する原因の2人だった。


前世の親は双子で生まれた俺たちを才能で分けた。


当然、俺より弟が優秀だったから、親は弟を溺愛し、俺を差別した。


俺は虐待に近しい行為を小学生の頃からされ続けた。


食事を抜かれるだけで無く、遅くまで勉強させられた。


そのせいか、睡眠時間は3時間にも満たない程だった。


そして、そんな親の元に産まれたせいか、弟は人が変わった様に荒くれてしまったのだ。


俺に対して、嫌がらせをしてくるし、テストの点数が弟より低いと俺に対して罵声を浴びせて来た。


終いには本気を出せという風に俺に挑発をしてきた。


でも、俺は親のせいで弟が変わってしまったのだと知っている。


だから、弟に何を言われても気にしなかった。


俺は弟が嫌いでは無かった。


でも、こっちの世界の弟の方が好きだった。


それに今は妹もいる。


俺は前以上に幸せだ。


そして、食事の時間、零斗と円香は今日あった事などを沢山話してくれた。


しかし、それでも母さんが前の様に笑う事は無かった。



それから、7年が経過した。


俺は15歳になっていた。


零斗と円香も14歳と、大分大人になっていた。


母さんは最近、笑わないだけではなく、深刻な顔をする様になった。


何でかは分からない。


只、不穏な予感がした。


そしてその日の夜、俺は母さんに呼ばれた。


母さんから離婚の話を告げられた日の様だった。


そして、母さんは口を開く。


「...あなたはとても立派に育ちました」


何故か敬語だった。


「でも、あなたに私達の事を話してしまった事も、お父さんが亡くなってしまったのを知らせてしまったのも、何のケアもしなかった事も後悔してます」


俺は遮る。


「母さん、何で敬語なの?僕はあなたの息子だよ?」


母さんは言う。


「私は今、あなたを1人の大人として見ています。そして、あなたを1人の大人と思って話をしています。」


母さんは俺の方を見る。


「お父さんが亡くなってからあなたは笑わなくなってしまった、それについてとても後悔してます」


母さんは俯く。


「あなたはお父さんが大好きだから。だから、何もしてあげられなくて、あなたは私が何かをしたら笑ってくれましたか?」


俺は答えられなかった。


実際、母さんが俺を笑わせようとしても笑わなかったのは俺の方だ。


「でも、ある日あなたが笑顔で帰ってきて、とても嬉しかった。何があったのかはその時は分からなかったけど...」


何の話だ?


俺は多分、その日の事を覚えていない。


でも、思い出しては行けない気がするから、思い出さない事にする。


「でも、それから1年程経って、あなたは完全に笑わなくなってしまった。それどころか、あなたの眼に光が無かった」


そうなのか...


俺はよく覚えていないから静かに母さんの話を聞く。


「今のあなたの笑い方は私にそっくり。心を相手に奪われない様に誤魔化す笑い方」


母さんは呟く。


「...でも、あなたの方が酷い。今のあなたは何にも期待できない眼をしてる。何も信用しない眼を」


「そんな事は...」


「あるわ。だって、これでも私はあなたの親よ?」


母さんは泣いている。


何故こんな事を言われるのかは分からない。


でも、ある程度予想は出来た。


「...実は、お母さんね。お父さんの死んだ理由について調べてたの」


俺は驚いた。


でも、当然だろう。


母さんは辞めてしまったとはいえ、仮にも異警軍の権力者だったのだ。


その権力を使えば、調べる事も出来るだろう。


「でもね、とんでもない事を知ってしまった」


「何があったんですか?」


俺も敬語になっていた。


「これを話せば命に関わるの。私はあなたに死んで欲しくない。だから、話せない」


母さんは続ける。


「だから、ヒントをあげる。もし、命を懸けても知りたいなら自分で調べて」


そして、母さんは告げる。


「ヒントは暗黒物質ダークマターよ」


それが何なのか俺には全く分からなかった。


何なら、初めて聞く単語だ。


でも、とても重要な事だけは分かった。


同時にその発言が何を意味しているのかも理解した。


「お母さんは知りすぎた。命を狙われてる。ここを襲われるのも時間の問題」


母さんは言う。


「だから...零斗と円香を連れて逃げなさい。私は最後の資金を使ってあなた方に逃走経路と住処を用意した」


やはり、そうか。


いつも、気付いた時にはもう遅い。


俺はまた、何も出来なかった。


「明日までに準備を済ませておいて。零斗と円香には上手く誤魔化しとくから」


「親戚の家とかは...?」


「少しでも繋がりのある家は関係を絶った。もう、赤の他人です」


「じゃあ俺は...?2人はどうなるの...?」


「...あなたにはまた、辛い思いをさせてしまうわね」


母さんは俺の肩に手を置く。


「あなたが2人を守って」


母さんは俺に何かを手渡す。


「これ、私の最後のお金。それで、数週間生きられるだけはある」


通帳だった。


「でも、これ母さんのじゃ...?」


「私はもう使()()()()からあなたが持ってて」


俺はその意味を理解した。


...理解してばかりだ。


結局俺は何も出来ない。


「良い?2人を任せたわ」


母さんは少し泣いている。


「...あなたの親になれて良かった。あなた達が私の子供で良かった」


その時、爆発音がした。


「マズイ...!予定よりも早い...!」


俺を遠くへやる。


そして言う。


「早く、2人を連れて行きなさい!私があなた達を逃がすから!」


俺に選択肢は無かった。


「...クソッ!」


俺は走り出した。


2人を連れて、遠くまで。


そして、その後、母さんの追悼が行なわれていた事を俺は新聞で知る事になる。


俺はもう限界だった。


でも、死ぬ前に母さんの望みを果たす事にする。


せめて、零斗と円香が1人で生活できる様になるまでは、死ねない。


俺は2人を育てると決めた。


育てると言っても、子供では無い。


2人はもう大人だ。


だから、「養う」の方が正しいだろう。


そして、俺は決意した。


母さんの為に生きると。

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