第34話 毒を喰らわぬ幸せ計画
さんさんと差す朝日。和やかな音楽が町中に奏でられていた。
悲しいメロディはなりを潜め、明るく華やかなメロディが人々の心に響き渡る。
空は晴れ、華やかに音楽が舞う。
——それは人々の心とは真逆の【世界】——
煙を上げた王都から逃げ延びた人々が集まるこの場所は
かつて通り過ぎた【ハウゼ】の町。
本日のお話は、襲撃事件から一週間たったケイスケ達のお話——
・・・あれから一週間くらいしかたってないってのに、元気だよなーこの世界の人達って。
不思議と活気づく町の片隅で、俺は手に持った器を目の前の人物に渡しながら思う。
あの事件から一週間くらい。俺ことケイスケは現在、俺がこの世界で初めて訪れた町、ハウゼにいた。
必死にマグ兄弟の兄メークさんにしがみつきながら王都を逃げたした俺とキキョウさん達はとりあえず離れるだけ離れようと王都の近くの町ハウゼにやって来たのだった。
・・・いや、本当はもうちょっと遠くまで行こうかと思ってたらしいんだけども、俺がその時既にメークさんの背中の上で暴睡状態だったらしく。
立って走る度胸は無いくせに寝る度胸はあるのかと言われたような言われなかったような。暴睡する俺を見て走る気が失せたらしいキキョウさん達は、そこそこ王都から離れていた事もあってハウゼに泊まる事にしたそうだ。
一週間経って未だにハウゼから動いてないのはあれだ。王都を襲撃した奴らの追っ手が来なかったからだ。
あんだけ派手にやって来たんだから追っ手とか来るんだろうかと思ったらまったくそういう様子はなく、むしろ騎士団が救援にやってくる程だった。
王都に襲撃者の様子を見に行ったキキョウさんいわく、ソイツ等は王都に閉じこもってじっとしているらしい。
動かん、何考えてるのかわからん、目的も不明。どうしようもないんで王都の襲撃者は騎士団に任せて俺達は休息を取ろうという事で、今ハウゼにいるわけだった。
ぼけーっとしていた俺に、目の前の爺ちゃんが手を出して来た。俺は「すいません」と言いつつ器を手に取り、中身の少なくなった鍋をかき混ぜ中身を器の中に・・・いれようとして気付いた。
「爺ちゃんにはさっき渡したと思うんだけども。」
「息子のぶんじゃ。」
「・・・隣に立って二人分の器持って、すまなさそうにこっちを見てるのは爺さんの息子じゃないんすか。」
はて?と言いながら隣を見る目の前の爺さん。ボケが結構進んでるらしい。
そんな事を思いつつ爺ちゃんを丁重にあしらう俺。息子さんが申し訳なさそうに一礼してから去って行った。
最後の一人に器を渡して、今日の俺の仕事は終了。よく働いたよ、俺。
・・・ん?俺が今なにをしてるかって?そりゃ、アレだ。・・・青少年ボランティア?だ。
俺達がこの町に逃げて来たのと同じように俺達の他にもこの町に王都から逃げて来た人達がたくさんいたわけだ。勿論、爺ちゃん婆ちゃんもたくさん。んで、俺は健康な青年で、ちょっとおせっかいな日本人だったわけだ。
遅れて派遣されて来た騎士団の食事配膳とか毛布配布とかを見てるとこう、言いたくなるわけだ。なっとらんッ!!見たいに。
こういう事態になった事がなくて不手際が目立つのはわかるんだけどさ。配るはずのスープひっくり返す、自分にぶっかけて悶える、とか何やってんだ騎士団。
そんなこんなで口を出し手を出し頭を働かせ、気付いたら今現在騎士団に混じってご飯配ってる状況だったりする。
かつて震災のに暇の絶頂のあまりやって来たボランティアの人をガン見してたのがこんな事に役立つとは。・・・まぁ4歳の頃の話なんだけどさ。
ボランティアをした事があるとか、なんて誠実な青年なんだろう俺。面接で良い印象貰えるよ俺。
・・・実際は同情というか仲間意識というか。目の前の鍋の中身に俺もお世話になってるから、なんだけども。
・・・っと?向こうからやって来た見慣れた三人組はもしや。
「よう。ぼらんてぃあってのは終わったんか?」
「金も取らずに慈善事業、まさか本当に騎士団にやらせるとは思わなかったけどね。ま、助かったけど。」
「むぅ。」
キキョウさんとマグ兄弟が俺のほうへとやってきた。このボランティアに一緒に参加してくれてるんだが、彼等の仕事も終わったらしい。
弟キークの慈善事業と言う言葉に苦笑いをする俺。聞いて驚け、なんと最初は騎士団金取ろうとしてたんだ。しかも相場と同じ値段で。
食い物がないよりはましだと思うけど金が無い奴どうするんだよ!ってか俺が金持ってねぇんだよ!という事でじかぱんだん・・・いや、直談判したわけだ。
無理ならキキョウさん達はその辺の野草とか食べるつもりだったらしい。「毒草とかの見分けつくんですか?」という俺の問いに「体で覚えた」と答えたキキョウさん。
・・・死にも狂いで騎士団を説き伏せたさ。俺の胃腸は日本製です。
ちなみにその時の騎士団の隊長さんの顔はまさしく、「目から鱗」だった。その後ボランティアを他に派遣された騎士団にも伝えてくれた隊長さんは良い人だよ、うん。
「そっちも終わったんですね。俺もすぐに片付けて宿屋に戻るんで先に戻ってて良いっすよ。」
「ん?そうか。どうすんぜ?」
「僕はさっさと戻って読書でもするよ。」
「・・・めっそうもない。」
先に帰って良いという俺の言葉に「んじゃ」と去るマグ兄弟。反対に待っててくれるつもりらしいキキョウさん。・・・その優しさに全俺が泣いた。
いや、別にマグ兄弟が優しくないってわけじゃないんだけどさ。逃げて来た人達の世話とか済むとこない人の為に仮住居建設を手伝ってくれたりとか。治療手伝ってくれてたりとか。
・・・以外と良い人なんだなと思った事は秘密だ。アイゼルだったらしないだろうなと思った事も、秘密だ。
「ぼらんてぃあ、ご苦労さん。」
「あ、どうも。そちらこそお疲れさまっす。」
がちゃがちゃと音を立てながら、町の広場に鍋持って来ると鷹の騎士団第4部隊の隊長さんに挨拶された。俺のボランティアにいち早く反応して広めてくれた人で、腕っ節も強いらしくメークさんと一緒に仮住宅建設をやってもらったりもしている。
メリカナさんとバシエルさんについて軽く聞いてみたりしたんだが、「騎士団の行動は敵の隠密の存在を考えて機密事項としている」と言われて詳しく聞けなかった。
その言葉の後にすまないと言ってくれたあたり良い人・・・っていうかこんな良い人キキョウさん以来じゃないか!?・・・というぐらいに、本当に良い人だったりする。
キキョウさんに手伝ってもらいながら鍋を奇麗に洗って干す。配った器は各自で洗ってくるようにという制度なんで洗い物は鍋だけだ。
食材は他の町から騎士団の名で貰っているらしい。それが出来るのも襲撃者が王都から出てこないからなんだとさ、へー。
「よし、それじゃぁお先に失礼します。」
「あぁ、問題ないと思うが気を付けてな。」
現代にしてたバイトのくせで言う俺に丁寧に隊長さんが返してくれた。俺のこの物言いのせいでなんか丁寧な青年みたいな感じで思われてるらしい。・・・条件反射なんで。バイト店長怖かったんだよ。
また現代のくせで一礼しながら俺はキキョウさんと共に騎士団から離れた。
広場から離れて懐かしの宿屋へと向かう途中。喧嘩している二人組に出会った。多分場所とかについてもめてるんだろう。俺達は俺がボランティアに関わってる事もあって宿に泊まれてるが野宿の人も少なくない。
それでも、俺がボランティアを訴えた事を知る人たちはふかふかのベットで寝る俺に「ありがとう」と言ってくれる。ただで飯を食えるのは本当に画期的で考えられないような事だったらしい。
俺はキキョウさんに頼まず自分でその二人の喧嘩の仲裁に入った。まぁ突然入ったもんで右頬を殴られたり。「殴ったね・・・親父にもぶたれた事ないのに!!」と言ってみたりもしたが。
とりあえず二人組の喧嘩は収まったんで俺は良い気分だ。二人とも俺が飯配った事がある顔だったけど、まぁ多分覚えてないだろうな。確か喧嘩友達なんだろうなと思ったハズ。
この一週間は忙しくて何も考えないうちに終わった。次の一週間は何を思って終わるんだろうか。・・・とりあえず、すんごい勢いで時間が過ぎるんだろうな・・・。
振り返れば先程の二人組が楽器片手に演奏会をしていた。寝場所どうこうはともかく、今はやりたい事をやる事にしたらしい。
アップテンポで賑やかなその二人組の演奏は、今この町に似合わない、そしてこの町に相応しい曲だった。
前回から一週間くらいたった頃のお話。ちなみに騎士団の部隊の隊長は現代で言う係長くらいの役職です。
全然違う所に力入れてたらケイスケの喋り方どころかこの小説の書き方を忘れた。ナンテコッタイ。まったく反省が役に立ってない。
アセレスティア国は餓死とかはあるんだけど王都以外の事に騎士団がかり出される事はマレなので対処法とかしりません。
その代わり王都は安全って事で住民は大量にいるんですが、まぁ面目丸つぶれな理由もあって騎士団がフル活動してます。
・・・本当は多分生き残りの調査ぐらいだったんじゃないかと。まぁ良い感じに勘違いしたケイスケとお人好しの隊長さんとのコンビがうまいこと合致あったらしい。鷹の騎士団は大きいから金のツテとかあるのでなんとかなってるようです。
サブタイ:食中毒になりそうな草食うんなら全力でタダにしてみせるッ!!(血涙)の意