第31話 風邪っぴきへの舞台裏
「大丈夫です!!」
「だが断る。」
くたっとうなだれるケイスケ。何故かちょっと呆れた表情のアイゼル。同じく呆れた表情のメリカナ。無表情で見つめるアリア。そして買い物鞄片手に固まる桔梗丸とポコ。
今日はなんだか不思議な朝の光景が広がっていますね、いったいどうしたんでしょうか。
なんでも、ケイスケがだだをこねてるそうですが・・・?
「キキョウ。こいつは私が押さえる。その間に貴殿達はさっさと出かけろ。」
「むぅ。」
「ギギ。」
さらっと指で人を指しながらアイゼルは言います。その言葉にさらっとうなずいて玄関の扉に手をかける桔梗丸とポコ。
その素早く精密な動きは忍者である桔梗丸と機械であるポコだからこその動きでしょう。
ケイスケの静止は間に合うのでしょうか。
「あ、ちょっ!」
バタン
虚しくも扉がしまる音が朝のアイゼル宅に響き渡ります。間に合いませんでしたね。
がくっとうなだれるケイスケ。なんだか勝ち誇った笑みのアイゼル。メリカナは溜め息を一つ。アリアはなおも無表情。
ガッとケイスケが勢いよく顔をあげました。
「熱もないただの風邪なんですから買い物くらい平気ですってばッ!!!」
「だが断る。」
今回のお話は、前回のお話をケイスケ視点でお送りします。
どうも!アイゼル宅の皆さんによってベットに拘束されているケイスケです!!
冒頭と前回のお話で知っての通り、どうやら俺は風邪を引いているようです。多分。
何故多分かって?症状はちょっと咽が痛くて咳が出る程度。コレなら普通はマスクして学校行けって言われるレベルだろう間違いなく。
この世界は風邪薬ないといっても、さすがに皆心配し過ぎだと思うんだけどなー・・・。
風邪を引いたのは自分の責任なんでどうしようもないけども。・・・最近徹夜でポコ製作してたり。
だって!うっかりやりだしたら作業の手が止まらないとか、良くある事じゃないか!
まぁそれで風邪引いてるんだから救いもあったもんじゃないんだけども。
あ、ちなみにベットに拘束・・・と言っても縛られてるわけじゃなかったり。まぁ体感的には縛られてるのとそう変わらないんだけども。
ちらっと。俺は横目で俺の部屋の机と、その近くの椅子に座る人物を見る。
なんで、あんたここにいるんだ。
威圧感MAXのアイゼルは確かに俺のストッパー役には適切だと思いました 丸
「何故、私はここにいるんだろうな・・・。」
自分でも良くわかってないんかい。
思わず関西弁でつっこんでしまった。アイゼルは結構流されやすい所があるからなぁ・・・。祭りの時とか、アリアさんを送る時とか。
女性陣に流されつつ、腑に落ちないって顔をしながらも黙々と【遺跡】に関するっぽい資料を読むアイゼル。傍らの机に照明があるのに【cd】(カンデラ)を使ってるのは俺に対するイヤミと見た。
アイゼルも俺が買い物に行くと言ったら止めにかかって来たんだけども・・・。多分アイゼルが最も好きな事の一つに、自分は大丈夫と言うヤツに「NO」と断ってやる事ってのがあるに違いない。あぁ違いない。(断言)
キキョウさんとポコは大丈夫かな・・・。っとベットに転がる現実があまりにも暇と威圧感でいっぱいなので現実逃避をする俺。
アリアさんは俺の代わりに家事を、メリカナさんは何かを思いついたように買い物に行ってしまった。せっかくの休日だったのにすみません。アイゼルはなんで今日暇なんだ。働けよ。
ニートなお前が言うな的発言を心で思いながら、ぽっけーっと窓の外を見ていた俺にアイゼルが話しかけて来た。
「ケイスケ。」
「・・・なんすかー?」
見たくない現実に呼びかけられる。やめてーよしてー現実を再確認させないでー。
じたばたしたい欲求にかられるも、動くのも面倒くさいのでそのままアイゼルの話を聞く。聞かない選択肢はアイゼルにないだろうしね!
アイゼルは見ていた資料を机の上に置き、話す時は相手の目を見て話せと言われなかったんだろうか、俺の方を見ないでそのまま話しだした。
「貴殿はポコが王都の人々にすんなり受け入れられるという確信があったのか?」
以外や以外、真剣な表情で俺を見て話すアイゼル。ちゃんと相手の目を見て話せって教えられてたんすね。いや、今のはそう言う質問じゃないのはわかってますとも冗談です目線が怖い。
うーん。と唸る俺。アイゼルの質問に対する答えをあまり回転が宜しくない頭で考える。
ようするにアイゼルはポコ=機械=先人の兵器がすんなり王都の人に受け入れられたのが不思議らしい。んで、俺がそこんとこ気にせず市場に連れて行ったのは受け入れられる確信があったからなのかと。ついでにその理由も説明しろと、言ってるらしい。後半は言外で。この辺を感じとれないと日本人失格である。多分。
・・・でもなー。確信って言われてもなー。
「・・・あるって言われたら、あった。んですかね?」
「・・・その心は?」
・・・なんで笑点っぽい返答なんだ。実は昼頃楽しく見てたりするんだろうか。
一瞬頭が止まったものの、すぐに気を取り直してアイゼルに説明をする。
・・・アイゼルに説明をする。うん、良い響きだ(勝ち誇った笑み)
頭をよぎった言葉をアイゼルが気付く前に手早く振り払って、俺はアイゼルへ返答を返した。
「まず。この世界の人って【術】に対して構造とか、どうしてそうなるのか理解してないじゃないですか。なんかこうなるってだけで。俺が【術】の説明聞いたときもアイゼルさん、なるって言っただけだったし。」
「・・・。」
「俺の所にもそういう理解出来ないものがあって、【ブラックボックス】って言うんすけどね、それで動いてるって言われたら、あぁそうなんだって言うしかないんですよ。」
例えばテレビである。動くし、使えるけどどうやって「動いてるんだ?」と聞かれても「動くんだよ!」としか言いようがない。
電話も冷蔵庫もエアコンも以下略。電気で動いてるのは一緒だけどもどういう構造で、どうやって動いてるのかはさっぱりだ。
俺が思うに、この世界の人にとって【術】ってのは一般現代人から見た【電化製品】みたいなもんじゃないのかと。
「だから、多分ポコも【術】で動いてるって言われれば誰も不思議に思わないんじゃないかなって思ったんですよ。」
俺はそう言って、机の上の照明を見る。
この世界には電気で動く【機械】は珍しい物だ。中には持ってるだけで捕まる代物もあったり。
机の上のその照明は【術】によって灯りが点くもので、やっぱりその元の【術】の【cd】はどうして灯りが灯るのか誰も理解してない。
メリカナさんに聞いた話では【術】によって自動で開く扉なんてのもあるらしいし。別にポコみたいなのがいても不思議じゃないだろうと俺は思ったわけだ。動力は【術】だし。
実際、市場に連れて行っても誰も不思議そうにしなかったしな。なんか目線集めちゃったけど、タッ◯で。
「・・・。誰も【術】を理解していない・・・か。」
思う所があったらしいアイゼルはそのまま黙って考え込んでしまった。俺はそう思うんだけどなー。
そう思う俺のいた現代もまだまだ理解できない事はたくさんあったし、言われて初めて気付く事もあった。多分アイゼルの今の気分もそんな感じだろう。こう、「お前社会の窓開いてるぞ」「えぇ!?」みたいな。
・・・思わず自分のズボンの社会の窓を確認してしまった。無いって、今履いてんの袴だって。
なんだかちょっと恥ずかしくなったので布団を深く被ってみた。すぐにもう一度布団から頭を出す。
熱いです。蒸された感じです。以外と熱あるのかも知れない。買い物任せたのは正解だったかなー・・・
・・・・・・アレ。
もぞもぞもぞっと布団の中で寝返りを打つ。
気付いたらすっかり寝ていたらしい。軽く汗もかいてるし、本当に熱があったらしい。体温計って文明の利器だったんだねと思った。
目を開けようと、開けようとした所。額になんだか気持ちいい冷たさが広がった。
「・・・あ。起こしちゃいましたか?」
原始的生活最高!白衣の天使最高!!人間文明の利器が無いほうが幸せな生活を過ごせると俺は断言出来るよ!!!
寝る前の窮屈な現実とはうってかわった白衣の天使シリアさんの登場にうかれる俺。ついでに熱もちょっとあがる俺。
「・・・わかりやすい奴め。」
遠くで聞こえる俺様の声を軽く遮断するケイスケ。
白衣の天使シリアの登場は彼の体調不良も眠気も吹き飛ばしたようです。
彼の幸せそうな表情が背後の窓から放たれる矢によって青くなるのは、もう少し後のお話。
ついでに、矢についた矢文と一緒にやってきた見舞いの品にケイスケが困惑するのも、もう少し後のお話。
す ら ん ぷ 。
全然違う小説で敬語キャラを動かしてたらケイスケの口調がわからなくなって本気で困った。今回いつもと違いますが、風邪引いてるから!という事で見逃してください。
今回は風邪とポコが王都に受け入れられている事についてのお話。
ポコは本編で言った通りの理由で受け入れられています。【術】はこの世界の人々にとって確かな物ですが同時に理解出来ないものでもあるようです。
作者的には「魔法で動いてるんだよ!」も「科学で動いてるんだよ!」もあまり大差ないと思うんですけどね。自分化学者志望ですが。