第30話 風邪っぴきへの特効薬
ぽかぽか陽気のある日の事。
市場に見えるはとある3人組。
珍しい組み合わせの彼等は市場を歩いて行きます。
「これで全部か?」
「・・・むぅ。」
「ふーん、案外少ないんだね。」
市場を歩くのはマグ兄弟に桔梗丸という珍しい組み合わせ。
と、それにもう一台。
「ギギ。」
「ん?あ、やっべこれまだ買ってないぜ!?」
「むぅ!?」
「・・・しらたき、今日のアイゼル宅の晩ご飯はすき焼きらしいね。」
「んな事言ってる場合か!さっさと買ってケイスケん家に行こうぜ。俺は早く羊羹食いたい!」
たったと走っていく兄メーク。それについて行く一台の機械ポコ。
市場の奥へと走る兄の姿を見る弟メークに桔梗丸。
この彼等の組み合わせは、一人の不在によって【いつも】じゃなく【不思議】な組み合わせに見えますね。
さて、その一人とは。
「ケイスケは風邪か、まったく軟弱だね。」
「・・・。」
そう、本日はケイスケが風邪を引いた日のお話。
「しらたき一丁買って来たぜ!」
「ギギ!」
「はいはいご苦労様。」
「むぅ。」
しらたき片手にアホそうな面ぶら下げてこっちへ走ってくるのは僕の兄メークに、先日ケイスケが骨董品店で見つけて来たらしい良くわからない謎の生命体のポコ。
今僕—マグ=キークはとある事情により市場で買い物をしていた。
ま、事情というか、くだらない事情なんだけどね。
何故僕ら兄弟がこいつらと一緒にいるのかと言うと、それは兄貴のとある一言から始まる。
兄貴は市場帰りのケイスケと甘味屋に行くのが最近の日常になってて、僕もそれに付き合うのがいつもの事になってたんだ。
そんなわけで市場の入り口ではってたんだけど、今日に限ってケイスケは来なくていたのは忠犬みたいにいつも引っ付いてるキキョウとか言う変な忍者、とポコだった。
事情を聞けばケイスケは風邪引いて家で寝込んでるとか、馬鹿だよねー。風邪引いてるのに大丈夫だからって寝床から出て買い物に行こうとしたらしいよ。風邪は万病の元、風邪に効く特効薬は無いって話しらないみたいだね。
そう言うわけで渋るケイスケをアイゼルに頼んでキキョウとポコが買い物に来らしい。
僕としては「ふーん、そうなんだ」くらいの事で、ケイスケが来ないなら用は無いし帰ろうかと思ってたんだけど兄貴は違ったらしい。
いや、途中までは僕と同じだったと思うんだけどね。突然閃いたらしく買い物を手伝うと言い出したんだ。
「なんで?」って僕が聞けば「アイゼルに対して嫌がらせが出来るんだぜ!」と自信満々に答えた後、胸を張って「それに羊羹食いたい!」と言った。
・・・僕?「そうだね」って返しただけだけど?今更兄貴の発言にいちいち突っ込むような馬鹿な事はしないよ。
とにかく、そんなわけで今僕らはここに居るんだった。
・・・兄貴の甘味好きはもうちょっとどうにかして欲しいもんだよ。
「これで全部だよね。」
「おう、そうだな早く羊羹食いに行こうぜ!」
「ギギ!」
早く用事を終わらせて帰りたい。言外にそんな事を思いながら僕はそう言った。
キキョウはともかく、勿論兄貴やポコには伝わらない。・・・というか、ポコは感情とか良くわからないんだよね。ケイスケは目の光る色によって感情がわかるって言ってたけど。・・・緑がどんな感情とかの説明はなかったんだよね。・・・わからないな。
コンコンっとポコの頭?を叩いてみた。
「ギギ?」
「・・・なんでも無いよ。」
不思議がってる?・・・やっぱりわからないな。
兄貴達が歩き出したので僕もそれに従って歩き出す。
それに気付いてポコも一緒について来た。言語や行動を理解するみたいだし。特に危険性はないのかな。
兄貴がそそくさ歩く速さを落として僕のほうへやってきた。代わりにポコが前を歩くキキョウの隣へ行く。空気も読めるなんて、兄貴より高性能だねあいつ。
そんな事を思ってるとは知らない兄貴は僕に向かって声をかける。
「キーク!なんかアイゼルに対する良い嫌がらせ案思いついたか?」
「・・・特に。いつも通り赤い封筒を送るくらいじゃないかな。」
「そうかー。ま、そうだな。」
「料理当番はあのメリカナらしいしね。」
「・・・そうだな。」
兄貴もメリカナ相手になにかするつもりは無いらしい。僕も無い。いつも追いかけ回される身になって考えれば当然の事だと思うね。
残念そうな表情で僕の隣を歩く兄貴。が、すぐに楽しそうな表寿になった。多分羊羹の事を思い出したんじゃないかな、弟ながら単純な兄貴だと思うね。
・・・兄貴はアイゼルに異常なまでの対抗心を燃やしてるけど、実は僕にとってそれはどうでも良い事なんだ。
アイゼルとは、ある日一人で依頼を受けてた兄貴が帰って来てそうそうアイゼルに嫌がらせをしに行くって言ってからの付き合いだ。
確かに僕らはそれ以前から気に入らないヤツに対して嫌がらせをやっては来たけどそれは一度だけで、ここまで兄貴が執着するのはアイゼルが初めてだった。
何があったのか知らないけど、興味ないし、兄貴もなんだか楽しそうだし。だから僕も結構乗り気で楽しんでるんだけどね。
・・・ただメリカナだけは間違いだったと今でも思ってるけどね・・・。
「・・・ふむ、キキョウ。後ろにゴミが有るのは私の見間違いか?」
「・・・むぅ。」
「ギギ?」
アイゼル宅の入り口。いつもふてぶてしい男は今日もふてぶてしかった。
僕と兄貴の顔を見た瞬間にコレだよ。気持ちはわかるけどお見舞いに来たって大義名分があるんだからさっさと入れれば良いのに。
・・・でも僕ら兄弟を嫌々ながらも家に入れたのにはびっくりしたかな。あのアイゼルがってね。僕も兄貴も顔を見合わせたし。何か心境の変化でもあったのかな。あったとしたら、やっぱりケイスケなのかな。
入るのは3度目のアイゼル宅はとっても静かだった。・・・3度もこの家に入る事になるとは僕も兄貴もアイゼルも、誰も思わなかっただろうね。
兄貴がさっさと羊羹を食べようとしてたので止めて、とりあえず僕らは羊羹を握ったままの兄貴を持ってケイスケの部屋に向かった。
「生きてるかー?」
「うぇ!?マグ兄弟!?・・・良くアイゼルさんが家に入れてくれましたね・・・。」
「同感だね。」
「むぅ。」
「ギギ?」
ケイスケの言葉にうなずく僕ら。事情を知らずに首?をひねるポコ。
見舞いだよ。そう言って買って来た食材と果物をベットに寝るケイスケに見せる。食材はキキョウに渡して果物はケイスケを看病していたらしい白衣の女性—シリアに渡す。
兄貴が適当な床に座ったので僕はその辺にあった机に座る。シリアは渡した果物を剥き始めた。
キキョウが食材を持って部屋を出る。扉が閉まる音が聞こえた。
「思ったよりも元気そうだな。」
「や、ただの風邪ですから。大丈夫っすよ。」
「・・・風邪は万病の元って言ってもこの調子なんです。どうにかしてくれませんか?」
「無理じゃない?馬鹿につける薬は無いって言うよ。」
「うぅ・・・。」
うなだれるシリアって女性。それを見て楽しそうに笑う兄貴。僕も自然と口元が緩む。
ケイスケの枕元を見ると僕らの持って来た果物の他にいくつか見舞いの品が並べられていた。
アイゼルの弟と名乗る彼は思ったより友人が多いらしいね。
・・・この幸せそうに笑う彼は知らないんだろうね。
風邪を引くって事の重要さも、それを見舞う者が居る事の幸せも———
———きっと一生。
「・・・珍しいのね。」
「私とて鬼ではないからな。どうだ、寛大だろう。(胸を張っている)」
「・・・むぅ。」
「そうね。さすがアイゼルさんよね。」
コンコン
ガチャ
「蜂蜜檸檬買って来ました。ケイスケの容態はどうですか?」
「あ。」
「む。」
「・・・メリカナ、そういえば貴殿今日は非番であったな。」
その後何があったは、おそらく皆様の想像通り。
オチをメリカナにするか弓少年クラムにするか悩んだ結果メリカナに。今日は非番でした。マグ兄弟の運命はメリカナのストレスの溜まり具合によります。
まさかのマグ兄弟弟キーク目線の話に。一人称僕が間違ってそうで怖い。本当に怖い。
この世界の風邪は薬とかもほとんどない+例によって術で完治は無理なので大変な病気です。ここだけテンプレと言う。
風邪なんて寝れば治る。そういう現代人のケイスケに危機感があるわけないですね。
作者の家では36度9部は平熱です、学校へ行きましょう。38度ならお休み。39度でやっと病院に。
おかげさまで最近では病院に行くのが心底面倒になりました。皆さんはちゃんと行きましょうね。