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Lei-VERT!  作者: 弐式
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第26話 狂い桜の美しさ!

「よし、出来ました。どうですかキキョウさん。」

「むぅ。」



キキョウさんがうなずきます。どうやらうまく出来たようです。

私は先程出来がったそれを丁寧に箱へ詰めていきます。詰め終わったら蓋をして、布で包みます。



「・・・こんなものでしょうか。ケイスケさん、喜んでくれますかね。」



私は隣にいるキキョウさんにそう尋ねます。



「むぅ。」



短い返答。でもそれで十分です。いつも一緒にいるキキョウさんがそういうなら、きっと喜んでくれるはず。

包みを鞄に入れて、店を出ました。今日は診療所はお休みです。緊急の患者が来ても良いように扉に出かけ先を書き記しておきます。

父とクラムは先に目的の場所に行っているはず、後は私達が行くだけです。

包みを入れて少し大きくなった鞄を両手でしっかりと持ち、私ことシリアはキキョウさんと共にケイスケさんのもとへ向かいます。






今日は、晴れ。いいお天気です。






そう、今日は———











「良い、野掛け(ピクニック)日和です。」




















その話が出たのは少し前。発端は、雨がたくさん降った日の事でした。


その日傷の手当で診療所に来ていたケイスケさんとキキョウさんは、窓の外に見える雨を眺めていました。・・・ケイスケさんは、何か別の物を見ていたような気も・・・?

外は、雨がたくさん降っています。まだまだ止むようには見えません。・・・ケイスケさんとキキョウさんの二人は外へ出た父が帰ってくるのを待っているのです。まったく、自慢の盆栽が心配だからってお客様を待たせるなんて、申し訳なくて顔が上げられません。

もう診察の準備は整っていますので、後は父を待つだけでした。


しばらく外を眺めていたキキョウさんが、ふと父の仕事机の方をみました。正確に言うと、机の上にある家族写真を、ですね。

殺風景な仕事机の上には父の大切にしている—私も大切にしている家族写真が、その家族写真に映っているのは私、クラム、父、それと——母ですね。・・・私達家族が幸せそうに笑っています。

キキョウさんが見ているのを気付いたケイスケさんが同じように家族写真を見つけました。しげしげと見るその表情は、何かを思い出しているような・・・?



「桜だ・・・。」



・・・!驚きました。希少種である【桜】を知っているなんて。

【桜】はかつて普通に花を咲かせていたのですが。何時からか、その美しさを我が物とする貴族の所有物になっているのです。

この写真も、私が小さい時に王都の郊外で一本の桜を見つけて撮った写真です。その後、その【桜】も貴族に取られ今では近寄る事も出来ません。そんな希少種を何故東の国から来た彼が知っているのでしょうか。

私も王都に住んでいて、たまたまこの【野桜】を見つけたからこその写真なのです。

・・・不思議に思いますが聞くのは失礼でしょうね。



「むぅ?」

「へー。ここって桜あるんだ・・・。この写真何処で撮ったんですか?」

「あの、その桜はもう貴族の所有物になってて・・・。見る事は出来ないんです。」



そうなんすか・・・。そう言いながら申し訳なさそうにするケイスケさん。何故ケイスケさんがそんな反応をするのでしょうか。ケイスケさんの性ではないのに。

私の口は、久々に降られたその話題に反応してか次々と言葉を発していきます。



「・・・この写真は、私がまだ小さいとき。母もそろった家族全員で撮った写真なんです。私、この頃まだ7歳で。クラムに至っては赤ちゃんだったんですよ、ホラ。」

「あ、本当ですね。」



昔を懐かしむ私の言葉を聞いてくれて、賛同さえしてくれるケイスケさん。そんなケイスケさんに甘えてか、まだまだ私の言葉は止まりません。



「私が覚えてる少ない記憶で。」



誰の—とは言いません。



「とっても、大切な思い出なんです。」



そうです。大切な思い出なんです。また、



「また、【桜】が見たいと思ってしまうほどの———











「あ、す、すみません。勝手な事言ってしまって・・・。」

「へ、あ、いや、大丈夫です!その・・・変な事聞いてすみません。」



ケイスケさんへ頭を下げます。私ったら相手そっちのけで話をしてしまいました。頭を下げる私に向かって、何故かケイスケさんも頭を下げます。

そのまま、ぺこぺこと頭を下げ合う私達。なんだかキキョウさんが呆れたような表情をしているのは気のせいですかね?

頭を下げたままの私に、ケイスケさんは言葉をかけます。



「でも、その・・・。」

「はい、なんでしょうか。」

「・・・凄く、楽しそうっすね。この写真のシリアさん。」



その言葉に私は目を丸くします。目丸くした後、家族写真の、私を見ました。

幸せそうな笑顔。無邪気に笑う、私が見えて——



「はい。」



私は無意識のうちに、そう答えていました。







「お似合いだねぇ。」



何時の間にか戻っていた、ずぶぬれの父が突然そう言います。

突然の出来事に驚いたケイスケさんは、何か良くわからないことを良いながらあわてています。


私は、顔に朱を入れながらも父の言葉を否定しようと・・・・する前に、何処からともなくやってきたクラムがケイスケさんへ矢を放ったのでした。








「すみません、すみません。」



ケイスケさんとキキョウさんを見送る最後まで謝りっ放しな私。クラムは何処吹く風と行った様子で、まったく謝る気はないようです。

軽く、頭を小突きます。「男だから、痛くない!」少し、目元に水がたまってますよ。強がりを言うくらいなら男らしく正々堂々悪い事は悪いと謝りなさい。



その日は、そのままお二方とさよならしました。去り際、ケイスケさんが何かを悩んでいたのが気にかかりましたが。その時は何を考えているのかわかりませんでした。








それから数日後。また診察のためにやって来ていたケイスケさんとキキョウさんから、一つの招待状を頂きました。

私、クラム、父、そして・・・母宛に頂いたその招待状には【桜】の花びらがちりばめられていて。

それは、家族全員への【お花見(野掛け(ピクニック))】の招待状なのでした—————




















「あの、ケイスケさん。今回の招待ありがとうございます。これお弁当です。」

「あ、ありがとうございます。招待とか、俺は招待状送っただけですよ。」

「そうだよなー。こんな兄ちゃんが貴族共から【桜】をぶんどって来れる分けないもんな。」

「クラム、嬉しいなら嬉しいって、素直に言うもんだよー。」

「むぅ。」



何処までも見渡せる丘の上に私達はいます。そこはかつてみた風景と似ているような、違うような。

かつてと同じ所は、その穏やかな雰囲気でしょうか。


美しい桜の下で、お弁当を広げます。桜からの木漏れ日が、私の作ったお弁当をよりいっそう美味しそうに見せています。

周りを見れば楽しそうにお弁当を食べる皆の姿が、クラムもいつもよりおとなしくしています。何か思う事があるんでしょうか。まだ小さかった思い出も、記憶になくとも何処かで覚えているものなんでしょうかね。




ひらひらひらと、桜の花びらが落ちてきました。頭上には、満開の桜。美しさを保つため時空固定の術がかけられた桜は花びらこそ落としますが、散る事無くいつまでも咲き続けます。


私はそれを、美しいものと思います。・・・ケイスケさんはどう思っているのでしょう。桜の下で、じっと桜を見つめていた、彼は——









そこにはきっと【永遠の美しさ(思い出)】と【永遠の***(忘却)】が——




















「いやば、たのしぞうやなぁ。ぞう思わんかお二人さん。【桜】貸しただけあっだ。」

「そ、そうですね守護隊長殿。全く美しい【桜】で本日は御呼びいただき感謝でいっぱいでございます。」

「・・・メリカナ、手が震えているぞ。それと先程から貴殿が先程から話しているそれは一升瓶だ。」



【桜】を貸して欲しいというケイスケの頼みに答えた守護隊長バシエル。

その上司の相手をするガッチガチなメリカナ。

美しいものを見れたのは喜ぶべきですがこの状況は宜しくないなと思うアイゼル達であった。

季節感?そんなモノは知らん!!とばかしに桜の話でした。ケイスケが飛ばされたのは夏の描写でしたしね。今冬だよ。

ケイスケのコネが発揮されました。コネは使える時に使わないとね。

この世界の桜は持ってる桜の本数でどれだけの権力があるかわかるくらい重要なものです。バシエルは守護隊長なので、持ってたみたいですね。

***の所には好きなお言葉を、個人的には永遠は美しくない物なので。逆の意になるかな。


初めてのシリア視点。書きやすさがパネェっす。

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