第24話 朝寝坊は一日の損
「・・・・良い朝だ。」
「むぅ。」
朝。
アイゼル宅の朝は日の出と、実にぶっきらぼうな朝の挨拶とともに始まります。
最初に起きてくるのはアイゼル。それを待ってアイゼル宅にやってくるのは桔梗丸です。
二人とも朝早いのは同じですが、なんだかアイゼルは機嫌が悪そう。どうやら低血圧のようですね。
朝といってもまだまだ朝ご飯には早い時間ですので朝の日課として桔梗丸は軽く鍛錬を、アイゼルは朝のモーニングティーをのろのろといれます。
ひとしきり朝の日課を楽しんだ頃、この頃には東の空から昇ってくる太陽も完全に顔をだしましたようです。
あ、そうそう。この時間までこの家では最初の挨拶をのぞいて誰も、一言も言葉を発しません。
何故なら二人とも多くを喋る、というわけでないのと朝、機嫌が悪い人は放っておく事が一番だからです。へたに絡むと凄い災難にあいますよ。
ガチャ
「おはようございます。」
「ふむ、来たか。良い朝だな。」
「むぅ。」
メリカナが来たようです。おはようございます。
本日もメリカナは朝ご飯の為にアイゼル宅へ来てくれました。え、今までアイゼルは朝ご飯どうしてたかって?そりゃ勿論、朝ののろのろスピードでパンを焼いて食べてましたよ。まぁ食べてるうちに10時なんて時間になってたようですが。
おや、メリカナがなんだか不思議そうな顔をしてますね。辺りを見回してきょろきょろしています。
どうやら誰か足りない事に気付いたようです。
誰か足りない人物は今、ぐーすかと暖かい布団に包まれて幸せそうに眠っています。
昨日の、現代でなかった不審者との出会いに疲れていたのでしょうか。朝は弱くないのですが。なかなか起きませんね。
そう、今回はケイスケが朝寝坊したお話です。
・・・・・・・・。
えー・・・。私こと?ヤマウチケイスケは今唖然としとります。はい。
今日、起きて。なにげなしに窓をみたらお日様が頂点突っ切って西に傾いてまして。
太陽ー。仕事しろー。傾いてるぞー。
え?傾いてないって?コレが正常な位置って?・・へー。そーなのかー。
見事に寝坊したようです。
「あああああ朝じゃない!!え?今何時!?」
ようやっと理解した俺は大急ぎでベットから飛び起きる。んで、ふと気付く。昨日の服のままで寝ていたらしい。
ついでに昨日は運動+精神的ストレスで晩飯喰って速攻で寝た(気付いたら寝てた)事を思い出す。
どうやらそのまま昼時まで暴睡していたらく、シャツなんてものもっそいよれよれになっていた。
・・・この世界にアイロンなんて代物あったかなー。
あっても鉄の箱に熱した炭とかいれる昔なつかしすぎる代物とかだろうな。
とりあえず大急ぎで服を着替える。この世界に来て寝坊したのは初めてで、他の皆は今何をしてるんだろうか。
昼ならもうメリカナさんは仕事に行って居ないし。アイゼルは・・・ギルドにでも行ってるんだろうか。桔梗さんは・・・起きてこない俺の代わりに市場に行ってたりするのか?っとなるとアリアさんも・・・。
ここまで考えて、着替えが終わったので部屋の扉を開けリビングへと飛び出す。何気にこのアパートは2DKなのだ。狭いけど。
「おはようございます!すいません寝坊して・・・。」
・・・・・・・・。
・・・誰も、いないんすけどー・・・。
頭を混乱させつつテーブルの前まで移動する。
・・・。紙切れがある。それを手に取って読む。
えーっと。あ、桔梗さんの字だ。達筆すぎて微妙に読みにくい。
なになに・・・昼ご飯は台所にあります・・。あ、ありがとうございます。後で食べよう。
んで、メリカナさんは、仕事で?アイゼルはギルド。桔梗さんは・・・本当に市場に買い出しに行っちゃって?アリアさんもそれについて行った、と・・・。
つまり。早い話が。
「俺、一人?」
久しぶりの、お留守番だったのだ。
「あ、崩れた。」
一人お留守番だと気付いた俺はとりあえず朝昼兼用の怠慢ご飯を食べた後、なにかしようと思った飲んだけど洗濯も掃除も終わっていて、手持ち無沙汰で、やる事が無かった。
しかたが無いのでテーブルに座り一人将棋・・・は空しいので山崩しをしている。空しさのランクが上がったのは気のせいだ。
不思議と今日に限ってマグ兄弟も来ない。買い物帰りの甘味屋に行かなかったからこっちに来るかと思ったんだけどなー・・・。べ、べつに寂しくなんかないんだからね!
最近怒濤の毎日だったからなー。たまの休日みたいなもんだと思えばまったり出来るんだけれども。
・・・この世界には、アレだ。娯楽が無い。
ゲーム無い。パソコン無い。携帯無い。M◯4無い。や、探したら有りそうだけど部品そろうんだろうか。
これも現代っ子の性か。そう思いながらさっきぶちまけた将棋のコマを見る。俺に残された娯楽はお前だけさ。空しさなんて・・・気にしない!
耳に聞こえて来た溜め息を無視し、俺はあごをテーブルの上にのっけてぼっけー・・・っとした。
俺の癖らしく、やる事がないと良くこういう格好をするらしい。無意識なんだけどな。
しばらくぼけーっとした後で、ふと、俺は思い立って体を起こす。突然の動作でテーブルに足があたり将棋のコマが将棋盤から落ちたが気にしない。それよりテーブルに当たった弁慶の泣き所が痛い。
ひとしきり悶えた後、俺は自分の部屋へと向かった。ついでに将棋をしまう所はさすがマメな日本人といったところか。
部屋を物色する。何処にしまったっけな。あ、これマグ兄弟の封筒・・・。封印。安らかに眠ってくれ。捨てるのもなんか呪われそうで嫌だったりする。
棚に将棋をしまい。机の引き出しを調べる。お、あった。コレだよコレ。
暇つぶしを見つけた俺はリビングへとって帰り、テーブルの上にソレを広げた。
「うん、意味がわからん。」
俺が持ち出したソレは昨日、俺が迷い込んだ骨董品店で見つけた【設計図】だ——
多少なりとも読めたその設計図を使って暇を潰そうと思ったんだが・・・。そうは問屋が降ろさない。
図面にびっしりと書き込まれたその文字は、良く見ると日本語以外にも英語、なんかドイツ語っぽものもあって。
解読にはかなりの時間がかかるだろう。と、あらためて見た瞬間思った。
いや、暇が潰せるのは良いんだけどさ。モチベーションが・・・上がらん・・・!!
まずこの世界に辞書とかあるんだろうか。そんな事を思いながらとりあえず解読を進めて行く。わからん文字はすっ飛ばす。だって読めないしな。俺英語も規則性で読んでる所あるからなー・・・。
解読解読。お、良い事が一つ。この設計図に書かれている記号は全部俺の理解出来る記号ばかりで、部品についてもだいたい俺が知ってるものと同じだ。
言語が理解出来ないからコレはかなり有り難い。記号とか意味わからん死ねとか昔思ってたがこう見ると最高だよ記号。人間の生み出した文化の極みだよ・・・え、それほどでもない?
奇麗に手のひらを返しつつもくもくと作業を進める。この世界に来てからかなり俺の物に対する感じ方が変わったと思う。良い意味でも悪い意味でも。
良い意味としては・・・。なんていうか、世界が広がったっというか。今まで平和な日本に居た俺にとってかなり物騒な世界だからなー。ここ。安住するか?って言われたら嫌だけど。ここで知り合った人は俺の知ってる人と違って、なんか輝いて見える。毎日を必死で生きているからだろうか。・・・なんか、ソレって良いよな。きっと俺の目とか向こうからみたら濁りきってるに違いない。
後あれだな。生活力がついた。料理出来るようになったら俺もう一人暮らし出来ると思うね。
・・・昭和の主婦の辛さを思い知りました・・・。この世界、洗濯機とか掃除機なんて、ないから。当初、腰とか、手が、ね・・・。
悪い意味としては・・・。
悪い。その言葉を考えた時、昨日の事を思い出した。正直、良い思いでじゃないし。二度と出会いたくないんだけどな。
昨日のフードの謎の人物。実はアイゼル達にはまだ話していない。
言った方が良いと思うんだけども・・・。なんて言うか。整理がつかない。桔梗さんにそう言ったらうなずいて話を合わせてくれた。・・・毎度思うけど本当にいい人だよなー・・・。なんで忍者やってるんだろうか。
とりあえず昨日は頑張っていつも通りに過ごした。演技派ですから、自分。・・・そう言ったら昔友人にぼこぼこにされたっけ。なんでだったんだろうなぁ。
「———ッ。うぇー・・・。休憩ー。」
背伸びをして脱力する。ずっと集中するのは疲れる。俺よく90分授業とか受けてたよなー・・・。間違いなく寝るって。実際寝たし。
そういえば俺って向こうでは行方不明扱いか?神隠しか、事件に巻き込まれたか、それとも時間が進んでないっていうパターンか。
時間進んでたとしたら、俺家の中に居て・・・アレ?コレ行方不明なら家族が犯人扱いうけるんじゃね?偉いこっちゃ。違うんです!ちょっと世界観飛び越えただけなんです!!駄目だ。頭痛い子だ。
休憩をしまいにして、解読出来た事をメモにまとめる。俺の長所はどうでも良い事を考えつつも手が止まらないところだと思う。長所じゃないって?そんな事ないはずだ。面白くない授業はコレで乗り切る。うん、長所だな。
・・・あれだな。帰れたとして、ここの事を話すと俺頭痛い子になるんだよなー・・・。やだなー・・・。大学って友人作るの大変なんだ。それがパーとか・・・。嫌過ぎる・・・。
まとめたメモを束ねて、ピックで穴を開けてヒモを通してくくる。勿論この世界にはホッチキスとかも無い。・・・俺、帰ったら超エコな生活が出来そうな気がする。
設計図を奇麗にたたんで、木箱に入れる。ちなみに錠前付き。言うまでも無くこの鍵も針金で開けれそうなちゃっちい物。他の人はそれぞれの術をかけて開かないようにするんだってさー。へぇー。
木箱をテーブルの端に寄せて・・・。俺はまた、最初にしたようにあごをテーブルにのせ脱力する。
これ以上頭を働かせる気はない。かといってすることも無い。外で遊べ?そんな体力も無い・・・というか、19になって外で一人遊びって・・・どうなんだ。
シュールだなー。そう思いながら窓を見る。角部屋は構造上窓が多い。
窓から見える景色はすっかり夕日の色をしていた。
茜色に染まる空は、現代と比べて凄く輝いて見えた。
それが空気の差なのか、変わったのは俺なのかは知らない。
そろそろ誰か帰ってこないかな。俺は術が使えないから、電気の無いこの時代では俺は灯り一つまともにつけられないんだぞー。
ひとつ、大きなあくびをした。どれだけ寝ても暇になればあくびは出るもんらしい。
もうひとつ大きなあくびをして、目一杯に広がっていた赤は、少しずつ眠りの闇へと引きずり込まれていった—————
夢、か———
朝見た夢が脳裏を過る———
『————・・・っうあああああ!!』
———良い、夢じゃなかった。
今度こそ、良い・・を———−————
「・・・また寝ておるのか。」
「・・・むぅ。」
「しかたないわね。・・・キキョウ、彼をベットに——」
「運ばんでいい。昨夜もそうしてやったというのに今日、起きたと思えばまた此れだ。」
「風邪をひかれても困りますし毛布はかけましょう。」
「むぅ。」
「・・・それにしても憎たらしい程幸せそうに寝ている。貴殿等の考えは杞憂ではないか?ケイスケの様子がおかしい等・・・。いや確かに変ではあったが。」
「手とか思いっきり震えてたわね。」
「・・・・(むぅ)」
「杞憂ならそれで良いです。ま、この様子では本当に杞憂だったようですが。」
「あの、アイゼルさん。そろそろ時間なのだけど・・・」
「アイゼル、アリアを宜しくおねがいします。」
「むぅ。」
「・・・何故私が送る事が当たり前になっているのだろうか。」
眠りの中の彼は知らない。
晩ご飯の材料に彼の好きな食材が並び、隣にはいきつけの甘味屋の甘味があります。
さて、彼は今日の晩ご飯にありつけるんでしょうか。
見たいのは幸せな夢?それとも、彼が望む。今度こそ、本当に見たいもの、とは—————
寝坊したお話。実際に寝坊したのは作者ですが。
ついでに夢の話。実際みた夢は何故か生えてる乳歯?が抜ける夢でしたが。
・・・雰囲気ぶち壊し。ソレが作者です。(多分。迷惑ですね)