第21話 開く前に閉じるよ扉
私室——
静かなその部屋では書物をめくる音のみが響いている——
ぱらり
ぱらり
ぱらり
ぱらり・・・
ふと、手を止める。
一向に進まぬ作業に焦りは無い、だが何も見つからないというのはなかなかにつまらない。
進まぬ作業を続ける眼を休めるべく眉間に手を寄せる。
・・・少し根を詰め過ぎたような。
気分転換——
そう、気分転換にしよう。進まぬ作業よりも有意義な時間になるに違いない。
思った日が吉日。それならばすぐにでも。
そう思い作業を止め部屋を出、真っ直ぐにリビングへと——
「アイゼルさん。【術】について教えてください!」
「だが断る。」
あるぇー?
ここは郊外のボロアパートアイゼル宅。
俺はとある調べものの気分転換って事でアイゼルに【術】—つまり現代で言うと【魔法】について教えてもらおうと声をかけた。
が、速攻で却下された。早過ぎる。
あまりにも早過ぎる返答に不満を言う。
「・・・なんでっすかー・・・。別にいいっしょ減るもんじゃなしに。」
「貴殿は先程まで遺跡について調べていたと思ったが。」
「行き詰まりました。」
「ふむ、そんな予感はしていた。」
そうです、行き詰まりました。
少し前にも言ったと思うが俺は地道に現代へ帰る為、【遺跡】について調べている。
これがなかなかに進まない。一般人が見れる遺跡の資料が少ない事もあるけど部類事に資料がまとめられてないのが一番じゃないだろうか。この世界の人には設計図と晩ご飯のメモが一緒に見えるらしい。いやある意味設計図に近いけどさ。
とりあえずわかった事といえば、この世界は俺の住んでいた【現代】から見ると相当な【未来】の世界らしいという事だろうか。まぁ要するに遠い未来に俺の住む地球は荒廃してファンタジーワールドになると。偉い夢のある地球だなぁ。
ここが俺にとっての未来の世界。とりあえずそう考えると俺が【現代】に帰る為にはタイムワープとかしなくちゃいけないわけで。
そんな危なそうなもんについて書いた資料が一般人の入れる図書館に置いてあるわけが無くて。
まぁ、見事に行き詰まったというわけだった。
解決法も一応考えたんだが・・・
1 タイムワープ出来るような機械を自分で作る——無理。そんな不思議技術扱えまへん。
2 タイムワープ出来るような機械がある遺跡に行く——俺が出て来た遺跡なら可能性はあるけど騎士団が怖い顔で守ってます——保留。
というわけで見通しがものすごく悪いのだった。
で、考えててもしょうがないので気分転換に以前から知りたかった【術】についてアイゼルに聞いたのだった。
せっかくファンタジー世界に来たんだから魔法の一つでも覚えて帰らねば!っという野次馬根性に近いものがあったのは秘密。
「いいじゃないっすか。ここ《・・》物騒なんですから。護衛術みたいな感じで教えてくださいよー。」
実際襲われたらフルボッコだろうなというのはいつぞやの路地裏で体感しました。
俺がそう言うとアイゼルは考えるようなしぐさを取った。
珍しい反応だ、てっきりいつも通り知らん。とか言って即刻断られると思ったのに。断られたらメリカナさんに言おうと思っていたんだけど・・・。
考え込むアイゼルの次の言葉を待つ。
「ふむ、ま、教えてやらんでも無い、が。」
本当に以外な返答が帰って来た。驚きのあまり声が出ない。
口を開けっ放しだと何か言われそうなので急いで手で無理矢理閉じる。痛っ!・・・舌噛んだ・・・。
どっかのコントみたいな事を俺がしているとアイゼルは立ち上がり棚から一冊の本を取り出した。
本当に教えてくれるようだ。
そして、次の一言を放った。
「おそらく貴殿には扱えないと思うぞ?」
・・・なぜに?
頭に浮かぶクエスチョンマークをそのままにアイゼルはさっさと聞き覚えのある呪文を唱えた。
その言葉とともに一つの明るい光球がアイゼルの傍らに浮かぶ。
確かコレは・・・。
「【cd】《カンデラ》。初期中の初期の術で主に灯りに使われる。詠唱もいらん、術の名前を呼ぶだけで使える優秀な術だ。」
「王都に来る途中でも見せて貰いましたけど・・・。具体的にどうやって出すんですか?」
光を放つ球をつつきながらそう尋ねる。この球、熱くないしビリビリも来ない優れものなのだ。つつくと揺れて面白い。
テクニックとか、こう体を流れるオーラを右手に集めて放つんっすね!とか思っているとアイゼルが口を開いた。
・・・なんとも言えない表情で。
「・・・ない。」
「・・・ない?」
聞き返す。
「手段等は必要ない。言葉さえ明確に発音出来るのなら赤子でも使える。そういう術だ。」
Why?
赤子でも使える?
・・・よくわからないけどとりあえずやってみる事にした。
右手を前に出して、手のひらを上に向けて、一つ深呼吸をする。
・・・すっげぇどきどきする・・・!
初めて自転車にコマなしで乗る気分をちょっと思い出した。あんな感じに近い。
覚悟を決めて、俺は術を唱えた。
「【cd】《カンデラ》・・・!」
結論から言うと。
使えませんでしたー。
・・・そうっすよ、まったく何も出なかったんだよコンチクショー!
覚悟を決めて言ってみたがうんともすんとも言わんし灯りも無し。どこの罰ゲームだよ。恥ずかしいにも程がある!
心の底からアリアさんと桔梗さんが今部屋に居なくてよかったと思う。いたら恥ずかしすぎて地面のたうち回りそうだ・・・。
顔をしたに向けて絶望感と羞恥心に挟まれてる俺を放置でアイゼルがこう発言。
「ふむ、やはり無理か。」
「なぜに!?」
顔を上げると同時に全身全力をもってアイゼルにそう問いかける。敬語とか飛んでるけど・・・。まぁアイゼルだし良いや。
それよりも俺が術を使えない方が問題だ。護衛術もくそも無くなるし。アイゼルはなにか確信があって言ったようだし。・・・こう発音が違うとかあるんっすよね!教えて○ーマイオニー!・・・潔さとかは多分俺には無い。
ごくり、と次の言葉を待つ俺。
「・・・簡単な事だ。」
自信満々に手振りをするアイゼル。
そしてこちらに指を指しこう言った。
「才能が無い。」
ケイスケの心にダイレクトアタック!
クリーンヒット!クリティカル!
ケイスケは心に999999(カンスト)のダメージを受けた!!!
残念!ケイスケの冒険はここで終わってしまった・・・!!!!
・・・えぇいちょっと待てぇい!!
「赤ん坊でも使えるって!赤ん坊より才能ないんすか俺!?」
「無いな。」
即答。ばっさりやられました。
もうちょっとこっちを考えた答え方を・・・されてもなんか不気味だなぁアイゼルだし。
さっきの言葉と合わせてなんだかバットエンドのエンドロールが流れてきそうな気分になる。
絶望感と羞恥心と自尊心がせめぎあう心と頭。
赤ん坊は・・・。赤ん坊より下は・・・さすがにちょっとキツい・・・。
俺の生まれてからの19年間がすべてゴミ箱に投げ捨てられた気分だ・・・。
「・・・どのへんでそう思ったんすか?俺に才能が無いって。」
やや立ち直ったので聞いてみる。俺のどのへんが悪いって言うんだ。
「王都までの道のりで【cd】《カンデラ》の名を口にしただろう?普通は光が出ずとも何か感じるものが有るはずだが、貴殿からは一切、何も、感じなかったのでな。」
強調して一切とか言わんでも良いだろ!?
また気分がブルーになる。
ようするに、はなっから無理だとわかってて試したってことかい。俺の純粋な心を踏みにじりやがって!コノヤロー!以外と繊細だって有名だったんだぞ!俺の中で!!
やや暴走する俺を放置でアイゼルの見解は続く。
聞く所によると才能うんぬん依然に思う所があったらしく。俺が現代育ちである事が原因かもしれないらしい。
なんでも先人を知る上の謎で「どうして先人は高い技術を持ちながら【術】についての技術を残さなかったのか」というものがあるらしい。
んで、その見解の一つが「先人は【術】を使えなかったのではないか」だとか。まさしくその通り。現代にそんな不思議ファンタジーありゃあせん。
と、まぁこんな理由で使えないだろうなと思っていたらしい。
本人は推論の証拠だ!コレで先人の謎が一つ消えた!と喜んでいるが一言くらい先に言ってほしかったなー・・・。
ガクリ、と気を落とす俺。
新発見だ。論文に出来ないのが実にもどかしい。と言いつつ嬉しそうな俺様。
実に対照的な二人をみて忍者とお手伝いさんが何事かと首をひねるのはもうちょっと後の話。
「はぁ・・・。」
にゃー。
「あ、にゃんこ。」
「(ドッキーン!)」
「・・・。アイゼルさん。猫、苦手なんすか?」
「な、何を言うかと思えば・・・。好きでも嫌いでもない。それだけだ。」
「へぇー。」(ひょい)(猫をアイゼルに近づけた)
「・・・。」(後ずさる)
「・・・・・・(いつか使おう)」
ぶっちゃけ最後のオチが書きたかったと言わざるを得ない。実は猫アレルギーなアイゼル。触ると偉い事に。
ケイスケは術とか不思議パワーは使えないよっていう話。
彼はあくまで一般人ですので。一応これは一般人が変人の中で頑張る話ですので。
地味ーに話が流れていきます。アリアの出番が本気でないのでそろそろ出してあげたいのだがそうなると彼女の登場回のような話に・・・。・・・こっぱずかしい。