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Lei-VERT!  作者: 弐式
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第19話 お礼参りのひよこ饅頭

大理石でつくられた白い壁。


重厚感溢れる城内はとても広く、侵入者に対応すべく様々な騎士団が配備されている。


いくつかある城の塔のてっぺんには様々な騎士団の旗が掲げられている。


その中でも一際大きく、繊細な紋様がなされている物が一つ。



最高の腕、揺るがぬ忠義、気高きその魂を宿す騎士団を、人々はこう呼ぶ———







———【鷹の騎士団】と———













「っくしゅん!」



此処に一人、この国で最高の権力、名声を持つ騎士団に所属する【気高き騎士】がいた。

その者は町民から騎士に成り上がる程の腕を持つ腕っ節だけなら素晴らしい騎士なのだが。



「・・・?誰か噂でも・・・。まぁいいでしょう。それよりも。」



【騎士】は目の前にある重厚な扉を見る。



「・・・守護隊長に呼ばれるなんて、私何かした・・・あー、駄目だな。」




思い当たる節等ごろごろある。


【鷹の騎士団】第4部隊隊員、メリカナ=エジットは自分の胸に問いかけながら。開き直ったような態度で騎士団守護隊長の職務室の扉を開けた———




















さて、本当に何故私はここに呼ばれたのだろうか。


私は今守護隊長殿の職務室の前に来ている。理由は簡単、ただ守護隊長殿に呼ばれたからだ。何故か一人でくるようにと。

女が集まって一緒にお手洗いに行くわけでは無いのだ。いわれなくても私は一人で馳せ参じただろう。が、わざわざそう言われると不安感が倍増する。

私のような一般ヒラの隊員が守護隊長殿の眼前に立つ等滅多に無いことで。正直な所、私は今まで壇上に登り演説をなさる守護隊長殿、という場面でしかお会いしたことは無かった。

それほどに守護隊長と言う職は重要なもので、私のような下っ端は話す機会はおろか、見ることさえ月に何度あるかないか、といった程なのだ。

・・・そう、気付けばいつもは使わない敬語まで使う程に凄いお方なのだ。ここは腹を括っていくしか無いようだ。

覚悟を決めて、私は目の前の扉を叩いた。





こんこんこん





「第4部隊隊員、メリカナ=エジット。守護隊長殿よりこちらへ来るようにと言われております。」





私がそう言うと扉は勝手に開いていった。そうやら術によって用がある者を中に招き入れるしくみなっているらしい。王の謁見の間と同じ作りのようだ。・・・嫌なことを思い出した。


私は職務室の中へと足を踏み入れる。誰もいない。

今守護隊長殿は留守のようだ。しかし扉が私を招き入れたことを考えるとここで待て、ということなのだろう。

私が部屋に入りきるとひとりでに扉が閉まった。どうやら扉も私を返す気はないようだ。

気を取り直して執務室を見やる。

とても良い素材で作られたであろう立派な机、その後ろには我が騎士団の象徴である鷹の紋章が掲げられている。

立派な机の下にはこれまた立派な絨毯が敷かれている。おそるおそる絨毯を踏んでみた。・・・素晴らしい感触が私の足に帰ってきた。その感触に恐ろしくてこれ以上進めない。

職務室の左壁には沢山の勲章が飾られている。守護隊長殿は様々な大会で優勝なされた騎士団きっての猛者だ。しかし良く見ると埃がつもっていることから守護団長殿はこう言う物にあまり興味は無いらしい。

右壁を見れば扉があった。あちらには休憩室や書庫等があるのだろう。

もう一度、私は立派な机の方を見る。

机の上には大量の書類が山積みになっており、今にも机からこぼれ落ちそうになっている。

その机を避けるように窓からの光が絨毯に差している。

・・・守護隊長にもなると乱暴な輩でも現れるのだろう。窓からの光——つまり、窓の位置は机に座り職務をなされるその場所から少し離れた位置にあった。











しばらく待ったが一向に守護隊長殿は現れなかった。

こうなるとその暇な待ち時間で次々と嫌な想像で頭がいっぱいになる。


・・・いったい何がバレたのだろうか。隊長ではなく守護隊長殿から呼ばれるとは相当なことのハズ。となれば少し前の警備場所から離れて祭りを満喫したことではないだろう。今までのことを総纏めにして呼ばれたのかもしれないが、それなら隊長でも十分だろう。と、なると。


そこまで思って、私は一度首を横に振った。


それは無い、彼は今まで普通に過ごして来ている。【遺跡】関連の事件に巻き込まれた様子は無い。例の遺跡もあれから発掘作業は行き詰まっており、もうすぐ調査団も引き上げると聞いた。王家の者があの遺跡の重要性に気付く事は少ないハズだ。


さて、そう考えると本当に何故私は呼ばれたのだろうか。マグ兄弟を追いかけ回したのはきちんと職務として追ったのだし。足止めの為に騎士の命である剣を投げつけたのだって必要だったのだから仕様がないだろう。まぁ、隊長にはこってりしぼられたが。

最近は真面目に街の警備もしているし。嫌いな上司の昼食に腐った食材を混ぜるような事もしていない。

前回の遠征で隊長の一騎打ち中に敵の馬を狙撃させたりしたが、まぁそれも必要な事だったのだだ。実際隊長は負けそうになっていた。これも後で隊長に良く回る舌でしぼられたのだが。


窓の外から執務室に向けてあたたかな光が差している。こんな日は昼寝日和だろうにな。


女、という理由以外にも待遇の悪さの理由はありそうなのだが。そんなことに私が気付くハズが無く。私はぼーっと窓の外の風景を眺めていたのだった。


















ギィィィ・・・




















はっとして、私は後ろ——執務室の扉の方へ振り向いた。

そこに立つのは長身の男性。腰にさす剣の飾りと紋様は彼が守護隊長であることを証明している。

私は直ぐさま姿勢を正し、守護隊長殿に向かって【礼】をした。

右手を胸の前に、左手を腰の位置に置き、胸を張り名を名乗る。これが鷹の騎士団の【礼】だ。

騎士団毎に違うらしいが・・・まぁ、私はしらない。



「第4部隊隊員、メリカナ=エジットです。守護隊長殿の命に従い職務室にて守護隊長殿をお待ちしておりました。」



そう言うと守護隊長殿は静かに頷き、執務室の奥、机の側へと足を進めた。

その歩き方、身のこなしで守護隊長殿の強さが計り知れる。——強い、と。

私に背中を見せ、奥へと歩いていっているにも関わらず私が下手な事をすれば喰い殺されそうな気さえする。一切の隙が無い。


・・・本当に、何故私は呼ばれたのだろうか。

呼ばれたくなかった。この人と同じ部屋で二人きり等正直言って心休まらない。私はもっと自由に自分の早さで行動したい派なのだが・・・。






守護隊長殿は机のすぐ側まで行くとこちらへ振り返られた。私はすぐに守護隊長殿の正面へ行き、もう一度鷹の騎士団の【礼】をとる。





守護隊長殿が懐へ手を入れる。





私は思わず唾を飲む。ゴクリ・・・っと咽が鳴る。

胸の前においた右手がかすかに緊張で震える。





私が感じた緊張も、畏怖も時間にしてわずか一瞬の出来事だったのだが、私には気が遠くなるような長い時間に感じた。






守護隊長殿の手が、懐から外へと出る。





そして、守護隊長殿はその手に持つ物を、私の前へと———————




















「・・・・・ひよこ、まん、じゅ、う?」











その手には、四角い箱が握られていて。


守護隊長殿は、その手に持った、懐からだした、「ひよこ饅頭」を私の目の前へと突き出していた。









「おめぇさんの住むアパートの隣人に恩がでけてな。返したいが時間がねぇ。とりあえず、ごれだけでもわたじといでくれ。だしか、名は・・・」














「ケイスケ、って言ってだな。」









そういって黒髪の守護隊長、バシエル殿は笑顔で私に、「ひよこ饅頭」を渡して来いと、威令されたのだった。





















その後、仕事帰りに私は足早にアイゼル宅に向かい、着くや否やその「ひよこ饅頭」を即刻ヤマウチ殿に押しつけた。










「・・・あなた。いったい何をしたんです?」

「いや、路地裏に迷い込んで、表通りに連れてってもらっただけなんすけど。」

「・・・そういえば路地裏に店があったな。ひよこ饅頭の。」


「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(むぅ)。」」」」

【威令】威厳のある命令。とか、そんな意味。


前回のバシエルとアルガレータのお礼に巻き込まれる久々のメリカナ視点の話でした。今回は絶不調な文章になったような気がする。

メリカナは実力はあるのですがその仕事っぷりと女である事が原因で上の職に就けないでいます。まぁ就いたら就いたで今より境遇が悪くなりそうですが。

バシエルは恩を返す時間がないと困ってた時にメリカナの事を知ったようです。まぁ守護隊長なんで、情報はどっからでも入りますしね。

メリカナがびびりまくってますが、突然ヒラ社員が部長通り越して幹部の執務室に呼ばれるようなモノですので。学生で言うなら先生飛び越して教頭に呼ばれるようなものですね。嫌過ぎる。


ところでひよこ饅頭って美味しいですよね。

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