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Lei-VERT!  作者: 弐式
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第15話 【桂馬】と【香車】と【王将】の道

そこは、戦場———



その場に立つ人々の手には槍、剣等の武器が握られ、馬にまたがる者は地を駆け戦場へと走り去って行く。

まるで陣を描くように人々が並び立つその中央に、【王】が堂々と立っていた。

堂々たる威厳を放つ【王】を守るは金、銀の将。

【王】を囲む彼等の前方には壁のように歩兵がずらりと並び立ち、敵の将の侵入を防いでいた。






戦場に、怒号が響く———






————!





突然、歩兵の壁が崩れ去った。

壁を破り、【王】の元へ駆けくるは一騎の【将】。

【王】の眼前にそびえ立つ屈強なる戦士、金、銀の将を、彼は瞬く間に倒してしまう。

敵軍まっただ中において威厳を崩さぬその将は、とうとう王の眼前へとたどり着いた。








「とうとう追いつめたぞ王将アイゼル。あんたの命運もコレまでだ!」







剣を振る敵将ケイスケ。







「ふん。その言葉、そっくりそのまま返してくれる。」







堂々と迎え撃つ王将アイゼル。








対峙する二人———両者共に怯えも怯みも一切無い。

しかし、王将アイゼルの側には、今戦える兵はおらず、わずかばかりの兵も距離が離れており【王】と【将】の決着がつく前に【将】を止める事は出来ないだろう。








千載一遇のチャンス———逃すわけにはいかない。









敵将ケイスケが最後。詰みを決めるべく、今、王将アイゼルへと最後の一歩を————















「王——」


「王手、銀、金、桂馬取り。私の勝ちだな。」










「・・・・あるぇー?」




















「あー!・・・また負けたー・・。惜しいとこまで行ったのになー・・・。」

「どこが惜しいと言うのだ。貴殿の言う【将棋】は単騎で敵陣に乗り込んで勝てる勝負ではなかろうに・・・。」



俺は、手を上に上げて「お手上げ」のポーズをとる。無理だ、俺に戦略ゲーム———現代風に言うと【将棋】は徹底的に会わないらしい。

俺は今、たまたま市場で見かけた盤上ゲーム、【将棋】をしている。相手はアイゼル、相手に取って不足は無いと意気込んでゲームに挑んだのだがそう言う問題のゲームにはしてもらえなかった。えぇ、ボロ負けですよ。なんでそんなに強いんだあんた。

アイゼルは今日初めてやる、俺がついさっきルールを説明したゲームで俺に快勝してくれやがったのだ。ただいまの戦歴は12戦0勝12敗。勿論俺が0勝である。

どうやらこの世界の人々は戦略ゲームは得意な方らしく、俺はアイゼル以外にもメリカナさんや桔梗さん、アリアさん達にも勝負をけしかけたのだが見事に惨敗だった。唯一勝てたのが先日出会った弓少年のクラムだけだった。さすがに、10歳児に負けるのは・・・さすがに、キツいよなー・・・。別に、俺が弱いわけじゃ無いハズ。



「ふむ?もうこんな時間か。もう出る時間だ、遊戯は此処まで、しまっておけよ。」



そういうとアイゼルは立ち上がり外へでる準備を始める。


あ、そう言えば忘れてた。今日はアイゼルが泊まりがけで【遺跡調査】へ行くんだっけ。


今回、アイゼルがギルドから請け負った仕事はなんと【遺跡調査】だ。

調査ってのは本来騎士団がするべき仕事なんだそうだが、まれに傭兵の方へ仕事が回って来るらしい。

まぁ傭兵に回ってくるだけあって難しい仕事とか、やっかいな仕事なので嫌う人も多いとか。

アイゼルはむしろその【遺跡調査】を専門に請け負っている【歴史の探求者】と呼ばれる部類の傭兵に入るらしい。ちなみに変人が多いそうな。まぁ、そんな気はする。

さて、今回のアイゼルの仕事だが内容がいつもと違うだけではない。実は今回の仕事にはもう一人、身近な人物が同行する事になったのだ。

その人物とは——





「準備は良いか?」

「・・・むぅ。」





そう、桔梗さんなのである。

ほとんど傷が治った桔梗さんは生活費稼ぎの為にアイゼルと同じ傭兵になった。傭兵の仕事はピンからキリで危険も多く腕っ節が無いとできない仕事らしく、桔梗さんにぴったりで俺に不向きと言う、比べる対象が間違ってんな。

ま、確かに桔梗さんは、出来る!っていう忍者っぽいし、その辺りは大丈夫なんだろう。

でもアイゼルと同じ仕事を選ぶとは思わなかった。桔梗さんも、なんか【遺跡】に関した何かがあるんだろうか・・・?



カラン



そうこう思っている間に玄関の扉が開いた。メリカナさんが帰って来たらしい。



「ただいま帰りました。」



まさしく「くたびれた」という顔のメリカナさんは会社帰りのOLに見えて来る。

今日も上司と何か合ったんだろうなー・・・。最近変わった上司は依然の上司よりも馬が合わないらしく、必然的にストレス発散の為追いかけ回される事が多くなったとマグ兄弟がこぼしていた。

俺はその言葉に「生け贄になってくださってありがとうございます」と返した。兄メークさんに「お前ら兄弟って似てるよな」と返された。何故だ。



「おかえりです。今日は早かったですね。」

「最近は上司の仕事を請け負わされてたものですから。本日はすべて上司の机に放置して帰って来てやりました。ので今は大変良い気分です。」



・・・優秀だけど、出世しないタイプだよなーメリカナさんって。

言葉の通りの晴れやかな笑顔で笑ったメリカナさんは晩ご飯の準備に取りかかる。俺も手伝うべくまだテーブルの上にあった【将棋】を片付け始める。



「それでは出る。留守は・・・まかせられんので程々に過ごせ。」

「了解っすー。」



言われる前からそんな気は、1ミリも無い。


Q.変な人物が家に来たら?

A.即刻逃げる。


うん、当たり前の事だな。


玄関扉に手をかけるアイゼル。すぐ後ろには支度を終えた桔梗さん。

アイゼルが玄関の扉を大きく開いた。

ひんやりした涼しい風が家の中に流れて来る。



「いってらっしゃい。」

「いってらっしゃいっす。」

「・・・ではな。」

「むぅ。」






キィィ・・・



パタン





















「・・・・。」





アイゼル達を見送った俺は【将棋】の片付けを再び進める。

メリカナさんも止めていた手を再び動かしだした。

しばらく、部屋の中には無機質な調理と片付けの音だけが響いていた。



「あれ、一個たんない。」



思わず声に出してしまった。気を取り直してもう一度数を数え直す。うん、やはり一つ足りないようだ。

【香車】のコマが一つ足りない。俺はすぐに周りを見回しコマを探した。


ん、発見。テーブルの足下に落ちてら。


いつの間にかテーブルから落ちたらしい。【香車】のコマを拾い上げた俺は、そのコマを将棋のコマをしまう箱に入れる。

ふと、俺は先程の勝負を思い出した。確か最後【王将】にとどめを刺したのはアイゼル操る【香車】だったハズだ。

一瞬投げ飛ばそうかと思ったが流石に止める。八つ当たりにも程があるな。



「・・・そういえば【香車】の事を【槍】って言う人いたよな・・・。」



アイゼルが背中にしょっていた【槍】を思い出す。


さしずめこの【槍】はアイゼルの事で、何も出来ない俺はさしずめ1マスしか進めない【王将】ってところなんだろうか。ってことはメリカナさんは【桂馬】かな?騎士って馬に乗るし。


そんな事を思いながら俺は足を自分の部屋へと向かわせる。このアパートの部屋はそんなに大きくない、すぐに部屋についた。

俺は部屋の扉を開け、中に入って棚へと向かい、【将棋】を俺の部屋の棚にしまった。しばらくこれを使う事はないだろう。これだけ惨敗すればやる気も失せるってもんだ。

一つ、深く溜め息をつく。電気の無い暗い部屋に落ちた溜め息は部屋の様子をさらに暗くさせたような気がした。

俺の瞳に写るその暗い部屋に物はほとんどなく奇麗に整理されているように写る。別に奇麗にしようと思ってしたわけではない。ただ、私物を買わない、買う金も稼げない俺にはこの部屋に置く物がさして無いのだ。

白いシーツのベット。元々あった棚、机、椅子。それ以外の物はこの部屋には無く、俺がこの世界で過ごした時間を物語っているようにも思える。









俺はこの部屋が俺の私物で埋まるまで、現実の俺の部屋のようになるまで此処・・に居るんだろうか。それとも、俺、は———










俺は静かに部屋の扉を閉め台所へ向かう。俺が今考えるべき事はそれじゃない、まずはメリカナさんの手伝いをしないと。

パタパタ・・・っと俺が走り去った後、その部屋にはまた静寂で満ちた。

真っ暗になったその部屋には先程と変わらぬ様子で、変わらぬ空気が流れていて。

しかし、その中で一つ、先程と変わる物があって———


















棚の中に眠る【私物】は待っている。自身の存在が肯定される、その【時】を—————

今回は凄い難産な将棋の話でした。将棋ってわかる人居るんだろうか。個人的にチェスより好きな盤上ゲームです。

香車は真っ直ぐにしか進めないコマで良く槍と呼ばれます。使い勝手はなかなかに良いようです。作者はうまく使いこなせませんが。

桂馬はチェスのナイトの動きに似た動きが出来ます。前方のみで左右や後ろには移動出来ません。

王将はチェスのキングと対して変わりません。扱いも変わりません、個人的には。

ちなみに桔梗丸は香車です。陣営に入られると成金になって凄い強い所から、作者の主観なんですけどね。

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