第12話 忍びの道は辛く険しく
暗闇————
闇に住む者達が居た———
彼等はけして日に姿を移す事無く影に「生き」影に「行き」影に「逝き」し者達————
空に月が輝く夜。
いつも平和な王都の夜を駆け抜ける一つの「影」がありました。
その影は暗闇の中を明かりを持たずに駆けきます。
さっ。影は瞬く間に王都の市場を駆け抜けてゆきました。
・・・おや?
影が駆け抜けた後。点々と赤い雫が市場に跳ねています。
コレでは長く駆け続ける事は出来ませんね。
あぁ、やはり倒れてしまいました。
力つき天を仰ぐ影の瞳には未来は無くただ満天の空だけが写っています。
濁り行く、閉じ行くその瞳には絶望?孤独?いったい何が写っているのでしょうか。
ただ終わりを待つ影に、赤い雫は流れてゆきます。
さて、本来ならただこのまま崩れ落ちるのを待つのみ。なのですが赤い雫は影にとあるプレゼントを連れてきました。
「アイゼルさんこれってペンキ———じゃない!なんか黒赤いの倒れてるぅう!!!」
「ふむ、土左衛門か。(違う)金になら——「んなこといってる場合じゃねぇっすって!」・・・(怒)」
今回のお話は、王都で今話題沸騰のとある兄弟———に拾われた【影】のお話でございます。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・っ!
ガバッ
スタッ
・・・・・・?
静かに立ち上がり現在の状況を確認する。
ざっと見渡す限りここは拷問部屋や捕虜の部屋等ではない一般家庭の部屋と推察する。
部屋の中には窓、扉、机、本棚、そして先程まで自分が寝かされて居たであろうベットがある。部屋は掃除が行き届いており部屋の主の几帳面さが垣間見える。
次に自身が今もつ武装を確認する。
今自分が手に持つ物は先程枕元に置いてあった愛刀【小松】だ。枕元には他にも本来着ているはずの服が畳んで置いてある。今着ている服は自分の物ではない、このサイズの服がすぐ用意出来ると言う事はこの建物内には自分と同じ身長、体系の男が住んでいると言う事だろう。
服———忍者装束を確認すると流石に火薬類等の武器は全てはぎ取られていた。
窓から見える景色は空ばかり。ここは2階の高さに位置する部屋のようだ。いつもなら2階程度から飛び降りるのは雑作も無いがこの怪我では美味く着地するのは難しいだろう。よしんば着地出来たとしても音は完全には消せまい。
————怪我?
怪我が治療されている。少なくともこの部屋の主は自分を殺すつもりは無いようだ。・・・いや、情報を吐かせてから殺すというのもあったな。思ったよりも丁寧な扱いにらしく無い事を考えたようだ。
———そう、自分は忍び。
何時殺されてもよい。なぜなら我らは人間では無いのだから———
・・・・!
窓の方へ向いていた体を扉の方へ向ける。怪我のせいかいつもより少し反応が遅い。
すっすっす・・・誰かがこの部屋に向かってくる気配がする。
素早く、音も無く部屋の扉のすぐ横まで移動する。右手にはむき出しの刀を持つ。
すっすっすっすっす・・・・・・・・・。
止まった、この扉の前だ。
コンコン。
「あのー。起きてますー?」
返答は無い。相手の出方を待つ。
不思議と刀を握る右手が汗ばむ。馬鹿な。自分は一度は死を覚悟した忍びであろう。今更何を恐れていると言うのだ。
「・・・。やっぱり起きてないよなぁ。アイゼルは起きてるだろうって言ってたけどあの傷じゃ無理だよなー・・・」
ガチャ
ドアノブに手をかける音がした。
体勢を低くしその時を待つ。
ガチャ
「・・・・・お邪魔しま————
扉が開くと同時に動く。まずは口———叫ばれると不味い。
素早くドアノブを掴む手を掴み部屋に引きずり込む。声を出される前に腕を掴んだ手を離しそいつの口を塞ぐ。
倒れ込む背後に回り込み後ろ手で扉を閉め刀を首筋に当てる。
・・・パタン
この間1秒———
「・・・!?!?・・・△◉○□〜!!!」
騒がしい。
首筋に当てる刀に力を込める。少し首筋が切れたのだろう、血が伝っている。
「・・・・。」
静かになった。とりあえず今はコレで良い。
どうやらこの建物にはもう一人誰か居るようだ。窓から逃げれない以上この建物のせめて一階に向かわなければならない。出会わずに行けるのだろうか。
そこまで考えてすべてが馬鹿らしくなった。
自分は何をしているのだろうか。何故生きる為に動いているのだろうか。
自分は何故かわからないがこの者達に救われたようだ。たとえそれが捕虜の為であろうと拷問の為であろうと生きる時間が延びた以上それは「救われた」というのだろう。
それにどうせここを抜け出しても死ぬのだ。【抜け忍】となった自分を殺す為に送られる暗殺者によって————
「・・・?」
刀を当てるのを止め後ろへ下がる。
圧迫感が無くなったのを不信に思ったのか先程捕らえた者がこちらを見た。
何をする気力も無い。動く気もない。殺すなら殺せば良い。
この部屋に来たと言う事は何か自分に用事があったに違いない。全てを諦めた自分に何をしろというのだろうか。
向かい合う相手が口を開く—————
そしてこの時、私はこの【場所】に来て始めて言葉を発するのだった。
「・・・ご飯の時間なんですけど。食べます?」
「・・・・・・・めっそうもない。」
・・・何やらわからぬが、死ぬような事はないような・・・・・?
「・・・って言う事で、今ここに桔梗さんが居ます。」
「とりあえず経緯はわかりました。で?」
「ふむ?居たのかメリカナ。喜べ、2階の隣人が増えるぞ。キキョウと言うらしい。あまり喋らんが面白い奴だ。」
「・・・むぅ。(宜しくお願いしますの意)」
「いや、あんた抜け忍なんじゃ・・・。・・・はぁ、もういいか。(なんでも)」
■めっそうもない
とりあえず相手の言葉を否定する意味です。とんでもないとか、あるべきことではないとか、そう言う意味。
今回はなんか気分でいつものアパートに忍者が増えました。忍者良いよね忍者。
アイゼルのお隣、角部屋に住む事になりました。怪我が治るまでしばらくアイゼル宅に厄介になるそうな。ご飯食べてるうちにコイツ等(主にアイゼル)が生きてけるんなら自分も生きてけるかなという気持ちになったんですねわかります。
飛び跳ねる雑誌の忍者よりLIVE◯LIVEのバー□ー丸をイメージしてます。最後のめっそうもないとかむぅとかまんまっすね。