第11話 お茶を飲もう!
「よう、弟君。」
「遅いよ、弟君。」
あ、どうも・・・。
あの、なんていうか・・・。
「弟君って、止めて欲しいんですけど・・・。」
特に【アイゼルの】弟って所が・・・。
あの赤い手紙騒動から数日。以外にも俺はあの騒動の張本人、マグ=メーク、マグ=キーク兄弟と仲良くなっていた。
きっかけはたまたま。現代のケーキのような菓子を発見した俺は買おうと思い店員に声をかけた。それと同時に声をかけたのがマグ=メーク。マグ兄弟の兄だったんだ。
俺は現代において朝昼晩ケーキ生活を夢見、一時はケーキ屋になろうかと夢見た程の甘党だ。そして以外にもメークもごっつい見た目と反対に甘い物が大好きなのだそうだ。
そんなこんなで意気投合した俺達は俺の買い物帰りに待ち合い時たまこうやって喫茶店にて優雅なティータイムを過ごしているのだ。
出会うたびに嫌がらせ計画に加担してくれと言われなければもっと良かったんだけどなぁ・・・。
何故か毎度赤い物を送ってくるのでゴミ箱が赤い物で溢れかえってるんだよな。そのうち某赤い悪魔でも送ってくるんじゃないかとヒヤヒヤする。
そして、冒頭の【弟君】発言についてなんだが・・・。
「しかし、まさかアイゼルに弟がいたとはな・・・。」
「しかも性格破綻者じゃない結構誠実な人間だしね。本当に血繋がってんの?」
繋がっとりません。しかし声にだして言えた言葉じゃないので心の奥底に閉まっておく。
先日の騒動で一番の問題になった事が彼等に俺をなんと紹介するか。だ。
俺は前々気付かなかったんだがメリカナさんに言われた。アイゼルの家に、アイゼル以外の人物が居候している事が正常な事だと思うのですか、と———。
思わない。真顔で答えられる。答えるとアイゼルになんだか不服そうな目で見られたがそれは友人の少ないあんたが悪い。
まず友人関係の狭いアイゼルに家に入れる程親しい者が居る事自体驚きだ。あまつさえその親しいと思われる者は家の勝手に詳しく家に招き入れ茶までだしてきた。
居候というにはアイゼルの性格からして理由が作りにくい。まさか本当の事をいうわけにも行かないし・・・。
今までの市場での会話で俺はアイゼルの名を出した事は無い。ただ同居人がいると話した程度だ。まさかそれがアイゼルだとは微塵も思わないだろう。
この問題を解決する為にメリカナさんが出した答えがそう————【弟】だ。
幸いな事にアイゼルは一人で王都に、いわば上京したような立場らしくアイゼルを知る人間は極端に少ない。
しかも【アイゼル】の名は———俺もそのとき知ったのだが———なんでも通り名らしく名前に融通が利くと言うのだ。
俺はもう他の人にも「ヤマウチケイスケ」と名乗っているので変えれないがアイゼルは通り名。本名の姓が「ヤマウチ」になったところで誰も何もつっこまないだろう。
髪は黒で同じだし、目の色は母が黒で父が緑でしたとでも言えば大丈夫らしい。
そういうわけで俺は今日から、アイゼルの【弟】ヤマウチケイスケとして生きる事になったのだ。
・・・え?名乗り心地?いや、それは・・・・ご想像にお任せします。
「・・・繋がってますよー。(繋がってないけど)アイゼルのあの性格はいまさらどうしようもないし。変える気力も起こらないっすよ。(こっちは本当に)」
「大変だなー。あんな性格破綻者の弟なんだもんなー。しかも血繋がってるんだろう?人生最初から転落人生だな。」
実に良い笑顔でそんな気が重くなるようなこと言わないでくださいよ・・・。
乾いた笑いが口からでる。
「まぁ性格は駄目駄目でも仕事はできるからね。あいつ。」
「んまぁな。遺跡関連の仕事の成功率はかなり高いからなー。」
「・・・遺跡関連の仕事?」
「あぁ、あいつ遺跡関連の仕事を良くとるんだけどよ。ほとんどの割合で何かしら成功して何か持って帰ってくるんだ。」
「代わりに護衛の仕事は必ず失敗して帰ってくるけどね。」
「・・・あらま。」
うん、護衛は仕方ないさ。そう言う性格なんだから。
それにしてもアイゼル遺跡関連の仕事なんかやってたんだな・・・。
そういえば家でなんかみた事あるのが載ってる資料みてたような・・・。アレが遺跡の仕事関連だったんだろうか。
あまりにも分厚い書類で見ただけで読む気を無くしたんだよな・・・。
しかし遺跡関連の話題がでると思わなかった。だからアイゼルは王家の騎士のメリカナさんと仲が良いんだろうか。俺を拾ったのもその為・・・?
・・・いや、その辺は全部「面白そうだから」だろうな・・・。アイゼルだし・・・。
ふぅ。
思わず溜め息が出た。幸せが逃げる。
「へん。その調子じゃアイゼルの弟も大変そうだな。アイゼルの弟が嫌になったらこの赤い箱をアイゼルの枕元に・・・」
「起きませんて。毎度言ってるじゃないっすか、そんな危険物持つのも持ち込むのもその後のアイゼルさんの説教も全部嫌って!!」
「じゃぁこっちの赤い液なんてどう?あいつの紅茶に一滴混ぜるだけでたちまち・・・。」
「劇物も却下!!」
俺を犯罪者にしないでください!隣の家に騎士さん住んでるんです!ちょっと清純派じゃない騎士だけど!!
兄弟の陰険な「アイゼル抹殺計画」に駄目出しをする。本当にこの兄弟の頭の中には何が詰まってるんだろうか。さっきから水道管にトマトジュースが流れてくるようにしようだのそれならサビた水を流して体調を崩させようだの、尖った紙飛行機でアイゼルの額を刺そうだのそれならアイスピックを付けた魔術装置を動かして額を刺し貫こうだの・・・。ちなみにより凶悪な方は弟キーク案だったりする。
黒い、この弟。
さて、このヒートアップする兄弟をどうしようか。そろそろ黙らせないと店に迷惑だし俺もこの後図書館へ行く予定がある。
今日はアイゼルが仕事で遠出してるから家でゆっくり本を読むチャンスなんだ。このチャンスを逃したく無い。
どうしたものか、と考えあぐねているとふと前方に見知った人を見つけた。
天は俺を見捨てていなかったようだ!
そして俺はその人物の名を叫ぶ。
「メリカナさん!」
そして同時に兄弟の動きが止まった。
・・・?
不信に思いつつもこちらを見たメリカナさんを手招きする。
どうやらパトロールの最中だったらしい。今日はメリカナさんに着いて行くと言ってここで帰らせてもらおう。
そう言おうと思い、兄弟の方へ目線を移動させると・・・。
「・・・あの、どうしたんっす?」
冷や汗だらだらの兄弟が見えた。
「ケイスケ。お前知り合い?」
「お隣さんですけど・・・。」
「アイゼルはそれ知ってるの?」
「知ってますけど・・・。というかよくご飯作って貰ってます。」
・・・何故この兄弟はこんな今にも死にそうな顔をしてるんだろうか。
言うなら蛇に睨まれたカエルのような。押しつぶされた饅頭のような。
いつの間にかすぐ側まで着ていたメリカナさんが兄弟の肩にすっと手を置く。
その瞬間、兄弟は完全に固まった。
「・・・ご、ご機嫌麗しゅう騎士様。」
「いやー・・・。こんな所で会うとは奇遇だなあー。っと、俺達はちょっとこの辺で・・・。」
「・・・先日は、知り合いがお世話になったそうで。」
暗い。暗いよ雰囲気が。重い、重いよプレッシャーが!!
なんでそんなに重い雰囲気なんだ!?なんかやったんかマグ兄弟!!
メリカナさんは兄弟の肩をひき、自分の方を向かせると目を座らせてこう言った。
「残念ながら私は仕事中です。軽犯罪の常習犯【空翔のマグ兄弟】しょっぴかせて頂きます。」
メリカナさんのその言葉が合図だったようでその言葉を聞くと同時にマグ兄弟は脱兎の如く逃げ出した。その勢いは木もなぎ倒すんじゃないかという勢いで、途中からは屋根の上に登りまるで空を翔るように屋根伝いを飛んで行った。なるほど、【空翔】はここから来たのか。もうちょっとかっこ良い知り方も合ったろうに。
メリカナさんもマグ兄弟が逃げ出すのを見るや俺に一言「仕事優先です」と断ってマグ兄弟を追いかけて行った。
屋根伝いに繰り広げられる鬼ごっこは【空翔】と騎士というよりは凄い形相で襲ってくる熊から逃げる兎のように見えた。
後で聞いた話ではどうもマグ兄弟の嫌がらせはアイゼルだけでなく他の傭兵や騎士も被害にあっていて地味ながらもその数と質の悪さから指名手配をされているそうな。
その額わずか2万Vこの世界の金は現代と対して変わらないのでその安さが良くわかると思う。
しかしこの安さとは裏腹に嫌がらせを受けていた者達から大人気で特に————
———その筆頭メリカナ=エジットからは相当の報復をされたそうだ。
ちなみに何度も捕まっているが懲りずに脱走して同じ犯罪を繰り返すらしい。
でも多分メリカナさんも仕事の時間じゃなかったら追いかけないだろうな・・・。何でかって?簡単な事だ。
家に帰ってきたメリカナさんがへろへろながらも実に良い笑顔で———良いストレス発散運動をした後の用に晴れやかな笑顔だったからだ。
一度消して書き直した作品。消えた瞬間の気持ちが偉いこっちゃだった。
マグ兄弟のお話。兄メークは甘党でケイスケも甘党です。彼等の名前では名字は前ですが基本この世界の名字は後ろです。彼等が特殊なだけで。