外伝 【夢見ることり】—人—
*この話は外伝です。本編をお求めの方はすっ飛ばしても可。
「よいか。この任務は絶対に果たさねばならない。それが我ら一族が使える主の命。失敗は許されぬ。」
「御意。」
「・・・良かろう。***よ、次ぎ合う時は成功の証しを持ってだ。・・・行け。」
「———」
暗闇の中での会話。
聞こえる音も無し。
見やる影も無し。
残るは混沌の闇のみで。
影も残さず闇に溶ける——
静かな暗闇に住む彼にとって、その任務は珍しいと言えるものだった。
任務の内容は他言無用。いつもと変わらぬ裏の仕事。
ただ、いつもは彼に否応につきまとう暗闇の中ではなく、日の当たる場所での仕事であった。
「————」
顔に【思い】の無い彼は一人山道を歩んでいた。
その姿はいつもの服装では無く、山道で良く見る旅装束であった。
共に歩む者も同じ服装。旅は本来一人ではなく大勢で歩むもの。珍しい複数の任務であったが彼は特に気にするそぶりも見せず、ただただ山道を歩んでいった。
「・・・無表情で面白みのない奴だな。お前。」
「———」
無表情、無言で答える彼。共に歩く者はまた珍しくおしゃべりの様だ。ただただ山道を登り続ける事に変わらぬ景色に飽いたのか、続けて喋りだした。
「俺の名前は聞いてるんだろう?+++だ。あんたは***。短い付き合いだが宜しくやろうぜ。」
「———」
おしゃべりな相手を気に入らないのか、彼は無表情、無言で答える。相手は気にする素振りも見せず話し続ける。
一件不思議な光景だが、二人の旅人が何の会話も無いまま山道を歩き続けるのは不審。そう相手が思った為の行動だろう。彼は特に気にせず。止める事無く山道を歩んでいった。
しばらく、その山道には山道を歩む音と相手の話し声だけが響いていた。
時たま出会う旅人に軽い挨拶。それ以外はただ山道を登り続けるだけであった。
・・・一刻、二刻と時間が過ぎた頃、彼等はようやっと目的の場所に着いた。
———そう、山道に忽然と出現した【遺跡】へと———
「?」
最初に異変に気付いたのは以外にも話し続けていた相手であった。
もうじき目的の場所へとたどり着くだろうという時に足を止めた。続いて彼も足を止める。
彼等の前には【遺跡】が鎮座している。
「・・・様子がおかしい。」
「———」
無言で、肯定の意を告げる彼。
彼等にもたらされた情報では【遺跡】は完璧な形でそこに鎮座しており、役目が終われば崩壊する手筈となっていた。
しかし彼等の目の前にある【遺跡】は既に崩壊した後である。
ときおり【遺跡】の崩れる音が聞こえる。
「崩れたという事は役目を終えたって事だ。・・・遅すぎた?いや、【遺跡】が早すぎたようだな。」
「———」
見解が同じなら発言は無し。彼はまた無言で同意と告げる。
まったく、情報は確かであって欲しいもんだ。そんな軽口を吐く相手に軽く言葉を告げ彼は今すべき最善手に着手した。
【遺跡】の崩れ具合を確認する彼。この【遺跡】の具合により今回、彼が【回収】すべき【目標】が今何処にあるのか今後の動きを図れる筈との考えである。
崩れかけた【遺跡】を慎重に調べる。相手は山道の入り口にて待機。この【遺跡】の出現時期によっては【騎士団】が来る可能性がある為だ。仕事の邪魔はされたくない。
「来た。」
「———」
相手が言葉を発言したと同時に彼は手を止め手早く山道を降りる。それに続く相手。
【騎士団】が来たのだ。
【騎士団】の来る方と逆の道を降りる。しばらくは行きと同じで他愛無い話をまるで先程みた【遺跡】にたまげたような話を相手は続けたが、やがて山道の出口付近までくると休憩と称して近くの開けた所に座った。
それに彼も続く。
疲れた素振りを見せながら休憩をする相手。森をぐるりと見渡して、彼に声をかけた。
「どう思う。」
「———」
「そうだな。俺も【ルーク】が崩れたのはついさっきだと思う。それにしては【ナイト】の動きが速過ぎる。」
「———」
「・・・確かに、ここまで【目標】の気配も感じなかった。誰かに【目標】を発見された可能性が高いな。」
「———」
「あぁ、わかってるよ。・・・面倒だな、おそらく確保されたのだろう。」
「・・・」
「一度、報告に戻らないとな。かなり【上】の描く【絵】とずれてきてる。俺が戻る。あんたは【目標】の追跡を頼む。」
「———」
短い会話の後、彼等は立ち上がる。
突然、突風が吹いた。
流れる風に木の葉が舞い散る——
——風が止んだ頃、その場には何もなかった。
休憩をする二人の旅人も、その為に取り出された二つの水筒も。
影も形も残さぬ彼等、その痕跡は一切その場になかった。
相手と分かれ【目標】の追跡、捜索を続ける彼の脳裏に一つの言葉が木霊していた。
彼等共通の言葉。知る人ぞ知る闇の掟。
多くない言葉に秘められた闇は、闇に生きるものさえも闇に返す言葉。
———失敗には、死を—————
その後、彼は夜の王都にて思わぬ出会いをする事となる。
上よりの一報で任務を放棄した【裏切り者】として追っ手を放たれる彼は、夜の王都にて力つきる。
その【彼】に差し伸べられる【手】、彼がその【意味】を理解するのは一体何時の事であろうか———
何処にいれるか悩んだのですが、時間軸重視で7話と8話の間に入れさせて頂きました。だいたいこの辺りの話。作者だったら情報提供者に一発お見舞いしたくなりますね。
以下恒例の補足事項
■ルーク=遺跡、ナイト=騎士団、彼等が出発前に決めた隠語。
■「目標確保が任務」→「目標確保ならず」→「失敗と上は判断」→「裏切り者」といった流れで追っ手を放たれる事に。オウ人事。
■それなら報告しに行かずに捜索して挽回を→報告は大事です。上の思惑と違ってますし、怠るとやっぱり「裏切り者」扱いでしょう。上にとって彼等は「道具」です。
■作者のイメージは「伊◯の影◯」ですのでシビアな職業に。不快になった方は申し訳ありませんでした。が、今後もこの扱いは変わりません。(本編ではそう言ったモノは皆無でしょうけど)
■追っ手仕事遅くね?→騎士団配備が7話の2日後(山道まで2日です)として同時間軸の外伝は8話の3日前と過程する、9話と10話を同じ1日の出来事と考え、11話の表記は数日後なので2〜3日、ここまでで6〜7日ですが、更に報告と道のりの日数を考えると・・・4〜5日でしょうか。
・・・逆に考えるんだ、追っ手が無能なんじゃない、計画性の無い作者が無能なんだ!