捜査は踊りされど進まず1
「…ええ、そうです」
「分かりました。事情聴取にご協力くださりありがとうございます。また何か分かり次第、こちらの連絡先に教えていただけると助かります」
頭を下げ、軽く一礼をしてから応接室を後にする。その際に改めて対応した教師の顔を伺うが、想像していた以上にその顔色は悪い。目の下の隈は勿論のこと、肌の張り艶は失われ、目は落ち窪み、淀んでいる。
東雲高校が連日マスコミからの取材に忙殺されていることは知っていたが、現場は俺の想像以上に混乱しているようだった。
「日日さん、思っていた以上に有益な情報は得られませんでしたね…」
「あぁ…そうだな…何か隠しているのは否めないだろう。
実際、警察側でもこれを失踪事件として疑問視している人は少なくない。特に一部のネット系の記事だと生徒のいたずらとしてまとめているところもある。まじめにこれを事件性のあるものだとして報道しているところでも、事件の全貌が掴めない今は、大体、生徒をまともに管理することのできない学校側への批判がほとんどだ。過敏になっているのかもな」
「でも、こっちは警察ですよ?事件が早期解決すれば、混乱も収まって、マスコミの殺到も収束するかもしれないのに…」
「まぁ、あくまでもそれは警察サイドの言い分だ。あっちにはあっちの理由があるんだろう。教師陣…というか学校側のスタンスが決まるまでは不用意な発言をしないように上から言われているんじゃないか…?きっと」
しかし結城の指摘通り、そういった様々な思惑があって口が堅くなっていることを鑑みても、出てきた情報が不自然に少ない。学校側、というより俺が事情聴取した失踪したクラスの担任は、事件に直接関わっていないだろう。しかし、失踪した生徒たちの関係性を聞いたときに違和感を覚えた。仲の良い、良いクラスだったと言っていたが、十中八九嘘だ。
これが生徒たちのいたずらで数日後にはひょっこり戻ってくるなら良い。大きな騒ぎを起こしてしまった以上、それ相応の、いやそれ以上の苦しみを味わうことになるかもしれない。それでも、凶悪な事件に巻き込まれてしまっているよりかはずっとマシだ。
「日日さん…やっぱり、この事件はアレだと思います…?」
結城が上目遣いで躊躇いがちに聞いてくる。その言葉で俺は現実へと意識が引き戻され、改めて質問に向き直る。「アレ」が何を指すのかは言われなくても何のことだがはっきりと分かっている。がしかし、マジかぁ…
「お前、あのトンデモ説を信じてんのか…?以外とファンタジーとか好きなタイプ?」
茶化して言ったつもりはなかったが、俺の言葉に結城の顔はみるみる険を帯びていく。
「そうじゃなかったら、この状況に説明つかなくありませんか!?確かに今、一番濃厚なのは生徒たちの自作自演です。そうすると、これはかなり計画的に行われたことが伺えるので暫くは発見できないでしょう。まぁ…あとは凄腕の工作員の仕業である説や集団誘拐の説とかも否定できませんが…
というか、私たちが組まされたのもまことしやかに言われているこれを解明するっていうのもあるんですよ!」
そうなんだよなぁ…俺は結城の言葉で改めてそれと向き合わなければならないのを思い知らされる。ただあまりにバカバカしすぎて向き合いたくなかったというのが、ほとんどだが。
「教室で授業を受けていた生徒たち、全員が『異世界転移』した…か」
時間は結城と俺の対面後、東雲署に戻り、逮捕した窃盗犯を引き渡し、田貫に呼び出された後まで巻き戻る。