幕間:天空の鏡
「今、光ったの見た?」
美しい漆黒の角を持った青年が、現在途轍もない輝きを放っていた光について問う。
「また流れたの?」
耳長の碧く長い髪をした女性が、光について意識はしていなかったようで、漆黒角に回答する。
新しい構想を練って頭を捻っていたところだったので、想像に集中していたらしく空を見てはいなかった。
漆黒角と碧髪耳長は星々が幻想的に浮かんで見えるアメパーズに居を構えている。それは碧髪耳長が幻想的な紫色から藍に見える空に文字って名付けた模様。その美しい空に強烈な青白い光が勢い良く降り注いできたのに、興味のないことにはあまり意識を向けない性格の様だ。
「転生者来たみたい」
軽い口調で漆黒角が呟く。マット感のある漆黒角をちらりと見て、今日も漆黒さ加減が綺麗だなと感じながら碧髪耳長は答える。
「また……。今度は何処の星についたの?」
強い光を放ちながら、自らの意思で選んだ星に降り立つのが転生者だ。漆黒角が分かりやすくするために通常より輝きをプラスしたとも言うが。
転生者と言っても種類がある。過去世を覚えているものは特に少ない。が、覚えている者ほど問題が起き、結局のところ原因となって星に影響を及ぼす。
漂白期間が足りなかったのか、よほど強い思いでもあったのかそこはわからない。一定期間は魂の漂白が行われるはずだが、一定期間以上必要な者が振り分けられることもあるのだ。
二人には管轄外の為、口を出すことはできない。管理中の星に良い影響を及ぼすならば構わないが、悪影響になる場合も多々あるため、最初から何処に所在しているのかを分かりやすくするために漆黒角が調整したのだった。
「グラワァーネット」
「あらまあ、辺鄙なところに……」
アメパーズでは、管理中の星を全て見ることができ、位置を変更して詳細確認に使ったりしている。あまり星の位置をずらすと生物に影響が出ることもゼロではないが、星の破壊を制御するためには必要だったりもする。調整の為位置をずらさずとも、本人たちの視点を変更すれば問題はない。ただ調整後は、アメパーズに近い位置にいた方が快癒に向いやすい理由もある。
「凝りに凝って弄ってたじゃん?」
グラワァーネットは、所謂ファンタジー世界がベースでどこかゲーム風に碧髪耳長が構想を練った。管理世界はほぼそれに類似してはいるが、個々特徴を出して二人は密かに楽しんでいるのだ。
生きとし生ける生命に手を貸すことはほぼない。星が存続できない時、原因を排除し、調整を行い別の星で同じことが起きないようにする。ゆったりと碧髪耳長が好きな傍観者視点で過ごしている。
「まあ、そうなんだけどさ。楽しんでくれるといいよね」
「そうだね」
転生者が来たことが分かっても、何処の星のどの時代の転生者なのかはわからない。二人のような管理者がどれだけいて、どれだけの星がありその中の生を終えて漂白期間をクリアした生命が振り分けられるのであるのだから。
◆◆◆
「夜にさ、いい場所みつけたからオーロラ見に行こう?」
漆黒角は結構なアクティブでアメパーズの探索日々していたりする。要所、要所が管理世界に繋がっていたりもするのでその辺りの封や確認をしているのだ。
「背に乗ってならいいよ」
「飛べるじゃん?」
「白いふわふわの羽が理想なのよ。この妖精の光る羽は……。なんか違うのよ。綺麗ではあるんだけどさ。」
漆黒角の聖体の背はとても大きく碧髪耳長の好きな美しい鱗があるのだ。縦割れの金の瞳もとても美しく碧髪耳長はいつまででも見ていられる。碧髪耳長に聖体を見られるのも少なからず好ましく思っているので漆黒角は拒否はしない。
「光加減によって虹色に光って綺麗なのに」
漆黒角は碧髪耳長の羽を美しいと思っていた。碧髪耳長程はっきりと感情を表現はしないため、あまり碧髪耳長には伝わってはいない?
二人ともが相手の聖体を好ましく思っているお似合いだった。
「オーロラなんて久しぶり、ここに来た頃はよく探したけど、何色でドレープはどんな感じかな」
「この間見た時は、白と碧の混ざりあった綺麗な感じだったよ」
寒い場所でしか出会えないと思っていたが、暖かい場所でも見えることを碧髪耳長は知識として知っていた。ここで次の生?とはちょっと相違があるが、暮らすことに成り行き上なり当初は知っているものを探して心を埋めようとしていた時期が遥か彼方にあったのだ。
碧髪耳長には好みの色合いとドレープの形があるようだ。漆黒角にも多少の好みはあるが、碧髪耳長程激しくはない。碧髪耳長がオーロラを好きだから見つけたら夜の散歩に誘っているだけである。
「夜、楽しみにしておくね。夕ご飯そこで食べる?」
「最近さ、いいお店が出来て美味しいの見つけたから買ってくるよ」
生憎アメパーズには二人しか暮らしていない。お店が出現している訳もなく、管理世界へ行ったと白状しているのだ。
「また、遊びにいったの?」
「ちょっと調整が必要だったから、周囲の確認ついでに」
管理世界の調整のために、現地に赴くこともあるが、漆黒角が星に存在すると、別の影響が出るので分体での対応になる。当初は分体での作業もまるで手袋をしているようで繊細なことがし難かったが、今では分体でも問題なく出来る。さらに別分体で周囲の確認をしつつ、近くの町でちょうど良い時間だったため、お昼をいただいただけである。
「呼んでよ。たまには観光したーい」
「一応仕事なんですけど?」
「別にノルマがある訳でもないし、目標は掲げてるけど、遊びの延長みたいなものじゃん」
碧髪耳長は結構お家スキーだったりするので、出かけることは多分少ない……。いや、気が向いたら行動するので、正確には何とも言い得ない。
ファンタジー世界をゲーム風にしてあるので、時代的にゆっくりしか進まない。が、二人と時間軸が違うため、その辺りを説明するのは難しい。
時折その星にあった分体よりも虚弱なその星の生命体に在り得そうなモノになり、現地調査という名の慰労観光を開催している。本体はアメパーズに居るため、端的に説明すると精神体をアバターに入れているのだ。碧髪耳長が遊びから作り出したので、漆黒角はこれについて称賛してくれた。
現地調査をしていた名残で、金銭などは持っている。金銭などなくとも、その地で仕事をする、もしくは所持している品を売りに出せばいい。
原産種はアメパーズにいるので、モンスターから得られる属性石を売るのが一番楽だ。ただアメパーズにいる原産種の上位になると、管理中の星では幻や、希少種だったりするので、属性石の色合いが濃すぎてしまい逆に問題になる。
中位や下位でも似たようなものなので、劣化属性石などがあればいいのだが源であるアメパーズに属する属性石を売買するのは危険である。
毎回その時の運に任せて、二人はアバターの属性も決めたりする。本体では全属性使えるのが日常なので、不自由ながらもやり遂げることが出来る楽しみを……。碧髪耳長が「縛りプレイで行こうよ」との軽い発言から始まっただけである。
現地調査も年季が入っているので、今は出来ないことを楽しみつつ観……調査しているのだ。調整の把握や、いつ頃変化が起こるかなども確認し、星の生命体たちの活動状況なども調査する。
食については二人とも煩いので、美味しいお店は見つけたら御贔屓にさせてもらうことにしている。これはアメパーズにいても日常でよくあることだ。
「目標ってあの”心身ともに余裕と安らぎを”と”心がやりたくないことはしない”のことだよね?」
「そうだよ。生き急いでたんだから今回はこれでいいんじゃん」
漆黒角は、家にある額に飾ってある文字について、あれは目標だったのかと遠い目をしたが、ここに呼んだ当初にそんなことを発表していたのを思い出した。碧髪耳長が居てくれれば多分この地の活性化を促すことは出来ると考えたのだ。碧髪耳長には「確実ではあるが、狡い手を使ったな!?」と責められたが。
「確かに、忙しくて楽しい日々だった」
「今は?」
「忙しくはないけど、好きなこと出来るのは楽しいよ。一人じゃないし」
「そう。なら来た意味があったようで、良かったわ。」
碧髪耳長は以前とは違いすぎる現状が好きなことを本当にしているのか気になっていたので、漆黒角が今満足そうにしていて心からホッとしていた。多分ゲームは嫌いじゃないと感じていたからそれに合った星の構想を練って、協議して、特色を持たせて、漆黒角が日々楽しみながら成長していけるように考えて実行しただけである。
「じゃあ夜にね。いってらっしゃい」
「いってきまーす」
漆黒角は本日もアメパーズの探索に出かけて行った。
碧髪耳長は当番の家事をこなしてから、新しい星の構想に入ることにした。
◆◆◆
「暇~」
「いいことじゃん平和で。私達が忙しかったら星の危機だよ」
「そうなんだけどさ、そうえば星々のトレンド作ったよ」
「トレンド? また懐かしい単語を……。何か起きた時の逆引きには使えそうだから賛成しておきます。」
「有難う」
星の育成には端的に表現するとポイントが入るようになっている。調整もその育成を遂げるために必要だからしているのである。星消失の原因解明や事象についてありとあらゆることが管理世界に必要な情報になるため、碧髪耳長が交渉して現状の形になっている。
二人のすることはアメパーズの活性化が基本であり、アメパーズに居を構えてさえいればそれは成り立つ。ただしそれは二人だけの空間で長い歳月をかけて何方も心が折れないように過ごしていなければならない。地の活性化は精神に呼応するため、出来る限りリラックスしている状況が好ましいのである。
忙しい日々を送っており、過労死やブラック企業などと怖すぎるキーワードが聞こえる地で育ったのだ。何もせずただ日常を過ごして心穏やかに生活をするなんて漆黒角には厳しい。碧髪耳長も耐えられるところまでは耐えるが、きっと一人であれば早々に壊れるだろう。一応前の意識とは別の感覚に変化統合はされているので、通常人よりは心が壊れる心配は少ない。
ただ管理者の孤独は結構問題にもなっており、時折壊れる者が出ることもある。一見問題がなさそうに見える者ほどその傾向が強い。対応者と呼応者の行使力のバランスが強弱ある場合も壊れる危険が高いようだった。漆黒角は対応者となり、バランスは平等にしていた。碧髪耳長が呼応者となった時に強を譲ろうとしたが、碧髪耳長が頑なに拒んだためだ。長期戦と理解した碧髪耳長は平等である方がいいと直感で理解したようだったから、その考えを受け入れた。
対応者は地の活性化を促すため選ばれた者であり、呼応者は対応者を選ぶ自由がある。ただ意思確認は本核に委ねられるため、ともに孤独と戦ってくれる相手が理想である。碧髪耳長は心が壊れてしまったら止めて欲しいと漆黒角に伝えている。星の育成にも地の活性化にも影響が出るからだ。
個々としてアバターに精神体を入れリフレッシュ期間を作り、同属性の影響が強い星で過ごすこともある。その方が自身のバランスを取り戻しやすいため。一緒に居すぎても心身ともに穏やかでいられないタイミングが来るのだ。そういう時には現地調査であり心の洗濯へ出かけるのだった。
多分このような遊びとリラックスを他の管理者はあまり行っていないのだと思われる。常に対応者と呼応者がセットで居るかのような話をよく耳にするからだ。相手を縛り付けてもいいことはないとは思うのだが、意思疎通は出来ている甘すぎる関係が多いのだろうか?
行使力的に敵わない相手に身を委ねる決断をしてしまった本核を呪って壊れ、その後対応者が一人になって壊れていくのだろうか。他の管理者たちとの交流が盛んな訳ではないため中々他の地の話はわからないことが多いのだった。
碧髪耳長は波長が合うものと漆黒角は話せるからきっとその情報も教えてあげれば喜ぶと伝えられた。知っていることならその相手の意識確認でもよく、上手い関係が作れているものと交流を徐々に作っていけばいいとのことだった。
対応者は地の活性化状況を報告する義務があるため、時折集まりがあるのだ。その時に漏れ聞いた話だったりする。呼応者は集まりには参加しないため、交流は星の現地調査すらしていなければ対応者のみとなり病みやすいかもしれない。と碧髪耳長が推測したのだ。
ただ変化統合されているので、早々そんな弱く心が折れることはないだろうが、逆に耐えなければならい状況が日々続くのかもしれない。円満ではないビジネスライクな関係や割り切った地もあるりそうだ。
漆黒角は碧髪耳長が自分を受け入れて円満になる様に努めてくれて、日々楽しい日々を過ごせていることを感謝し、美味しいものを探して本日の一品を持ち帰るのだった。