冀求
君は俺を太陽だと言った。
俺こそ君を太陽だと思っていたのに。
二人とも自分を月だと思っているなんて、こんなことあるのだろうか?
君が照らしてくれるから、俺は安心して輝いていられる。
俺が君を欲して君が俺を求めた結果だったらいいのに。
自分にないものを相手に補って貰えるその関係が理想?
君が相手なら何だって差し出すけれど、君も俺を第一に考えてくれる。
君が居ないと、満たされているはずの現実が何故か色褪せて見える。
叶えたい夢に向かってしがみついているのに、望んだ幸せのはずが何か噛み合わない。
進んでいるのを実感しているのに、後退している気がするのはなぜだ。
後ろから恐怖が来てるのを感じては、捕まらないように前に向って逃げている。
何かが必要なことはわかるのに、何を求めればいいのかが分からない。
ただ明確にやらなければならないことが目の前にあるからクリアしているだけ。
これで本当に到達できるのか。
この道で合っているのか。
刺激的な毎日が楽しいはずなのに、なぜこんなにも虚無を感じる?
君を知る前の俺はぐちゃぐちゃだった。
表面は取り繕っていたけど、日々余裕がなくなっていることにすら気付けてなかった。
違和感くらいは感じていたけど、不安感を解消できなくて、頼りたい気持ちはあるけど言葉に出したら止まれなさそうで、だからこそ言葉に出すことはなかった。
周囲は変化と成長を遂げていくのに、俺だけが足踏みしている。
もっと理想は高いはずで、実現出来ると思っていたのにこんなにも苦しい。
努力を積み重ねた先にあるのは?
それでやっと追いつけるのに、積み重ねた時間だけ差が開く。
それでもなんでもないような顔をしていないと俺が俺で居られない。
ここにいる意味が分からなくなる。
君を感じたあの時に、少しだけ救われた気がした。
このままで、そのままでいいって。
タイミングも良かったから勘違いして感極まってしまったけれど、あの安心感は君が齎してくれたと気付いたんだ。
君にあの時の俺が「淡すぎて少ししか伝わってこない」と言われて悲しかった。
君はそんな思いの乗っていない言葉の羅列に反応している感覚が理解できないけど、その感情自体はは分かるみたいだった。
感情が入り混じりすぎて、思いをのせきれなかったからそんな結果になったのだと今なら解る。
君が近くにいると俺はオカシイ。
気持ちがふわふわして、いつも以上に心の中は声を上げてるのに口数が減る。
伝えたい感情が湧き上がってくるのに、それが何か自分でも理解できない。
自己の状況に恐れを感じて、君を求めてるってわからなかったんだ。
本当に簡単なことだった。
君は少しずつ傍に来てくれたのに、でも俺だけを見ている訳じゃなかったから。
俺の近くに来るのは君だけじゃないから、何が違うのか理解するのに時間がかかった。
君の言う無意識ではとっくに理解してたのだろうけど。
意識と無意識の差ってこんなにもあるんだと知れた。
無自覚の行動を俯瞰できればすぐに分かったかもしれない。
俺には君ほど俯瞰できる力はないんだよ。
俺から見た君は冷静だったから。
君は最初から俺を中身を読んでいた。
それだけは間違いない。
だってなんとなくか分からないけど、その先も知っていたんだよね?
それとも俺との関係が変化してから想い出したのかな。
それにしては今でも出来過ぎなことが多くて辻褄が合わない気がする。
ああ、君と話して回答が欲しいよ。
「貴方なら解るから考えて、理解している範囲に状況は揃っているよ?」
そんな風に俺に答えを逆に聞くかもしれない。
やっぱり君は俺から受け取った先のビジョンだって言うけど本当は違うのかな?
なんでもっと早く気付けなかったんだろう。
君が居なくなってからしか、俺は深く考えることが出来ない。
君が隣にいるときだって考えてはいたけど、今思えばもっと違う浅い考えだった。
あの時の俺に出来る精一杯じゃなくて、考えるってこれくらいと思えた程度の思考。
それ以上に君がずっとずっと傍にいてくれるように、焦っていたから。
君への想いと状況が終わらないようにするために力を注いでいた気がする。
いつの間にか君の言うように、仕事に対する不安はなくなった訳じゃないけど、これでいいって思えた。
君はいつでも俺を信じてくれたし、導いてくれたから。
そのままの俺でいいって言ってくれたことが、本当に響いたんだよ。
それからは無理をしなくなった。
キャパシティーオーバーなことにも気付けてなかったから。
歪んでしまった心の内を解決してくれた君を手放せなくなるのは当然だよね?
君の支え方に問題があった訳じゃない。
いや、俺の暗くて怖い感情すら受け入れてくれてしまったからこそ、さらに君にのめり込んだ。
俺の弱さが原因。
あの醜い感情を君は感じ取って、表層に出して俺に自覚するように促した。
そんなことできる人なんていなかったんだよ?
君は丁度いいタイミングが来たから、今しかないってわかったからって言っていたけど。
まさか君を傷つける程執着してるなんて思ってなかった。
あの時君はこんなことになるなんて信じられないってニュアンスだったけど、これも可能性として読んでた?
ただ俺がそこまではしないだろうって思ったのかな。
それとも跡が残る程君を強く思ってしまった感情を出させてでも、表面化させたかったのかな。
君が傷付くこともわかっているのに?
君は俺について自分を犠牲にすることが多かったのかもしれない。
そんな君に俺は無意識で惹かれて、愛を感じていたけど、意識してそこまで理解して欲しかった希望を持ってたりしたの?
君から見たら子どもだった俺にそこまでは難しい。
君のことを考えて求めて、欲して仕方ない俺こそがわかってあげないといけなかったことかもしれないけど。
君から与えられる感情にただ一喜一憂しているだけで、君はずっと傍にいてくれたから、俺を選んでくれたから、無自覚に君を傷つけ続けていたのかな。
だからそんな俺たちをみていたあいつを次に選んだの?
あいつは君と性質が似ていたと思いたくはないけど、近しいところがないとは言えない。
きっと君が感じて理解して欲しい俺への期待をあいつは理解してたんだね?
第三者からみると解ることってあるからなのか、君があいつに話したからなのか、真実はわからない。
俺の想いだけでは君に届かない?
君を傷つけたくないのに、なぜこんなことになってるのかな。
痛みや跡はすべて取り去ってあげたいのに。
でも君は俺のこの好意を全て受け入れてくれるから。
だから俺は君に求められないと不安になる。
君は俺を求めているようで、俺が想っている程は求めてくれない。
だって選ぶのは貴方って最後に君は言うから。
選択肢をくれたり、新しい方向性に気付かせてくれるのは嬉しい。
でももっと俺だけを君が、君の感情で求めてよ。
俺の気持ち以上に、君の心を俺に譲らないで欲しかった。
きっと君は、俺を尊重したい思いからそうしていたんだろう。
俺が君を求めなくなることなんてないけど、もしそう表現したら君は去っていくんでしょう?
俺のためにならないなら、辛くても君はそうする。
君の心は、感情は?
俺にいくらでもぶつけて欲しかったのに。
だからあの子のことだって、俺に言えなかったんだよね?
俺の現実に影響を及ぼす可能性が高すぎて、君は自分が悪者で責められればいいって。
俺は知らなければ動くことはないし、君は俺の行動を制御してたとも言える。
君が見た先で俺は何をしてたの?
きっと俺の理想ではない環境になっていたか、君が求めてない状況だったんだよね?
根本の原因が俺にあったとしても、君はそれで本当によかったの?
俺を責めても良かったのに、飲み込んで受け入れて背負わなくても。
そういうことを君がしてしまうから、俺は図に乗ってしまう。
君のことだからそこも理解して、俺に然るべきタイミングで代償を与えた。
でも君は優しいから俺と君だけの範囲内で治めたんだね。
今思い返してみると、君は俺に対する自己犠牲が過ぎる。
あの時の俺は自分のことで精一杯で、君を求めることはしても、そこに気付くことは出来てなかった。
君から言われれば気付いたかもしれない。
言って欲しかったような、でも言っても俺は変わらない?
君はタイミングがズレると効率を求めて今じゃないって言うから。
今じゃなくても君の話なら聞きたい。
でもきっと君の声を聴いているだけで、話を聞くことは出来ない気がしてきた。
やっぱり君の言う通り、俺にはタイミングが来ないと響かないのかもしれない。
そんな俺をずっと好きでいてくれる君がちょっとわからない。
何処が良かったの?
俺は君が居ないと本当にダメだけど、手放すことなんて出来ないけどさ。
君は一体俺に何を求めていたんだろう?
君を好きで愛してる一方、君を傷つけて理解しなくて傍にいる俺。
やっぱり君がまだ理解できない。
もし君が去る選択をしたとしても、俺は君のその決断を飲むことは出来ない。
「衝動で動く貴方はとても乱暴、そんなに思い通りにしたいの?」
君はそういいながら、なぜ俺がこんな行動にでるのかわかっていたよね?
君が俺を少しでも見ていないのが分かったら、悲しくて俺に振り向いて欲しくて必死だっただけ。
一瞬でもいい、俺に目を向けてくれるように。
そうすれば俺を、俺だけを見てくれるし、絆されてくれるでしょ。
「力加減がいつも強くて、ゼロ距離にいるのに何でこんなに腕を締める?」
この距離にいるのに、君が遠く感じるから。
俺ばかり君を好きで好きで、君はなぜか冷静で。
俺を好きって言ってくれるけど、俺ほど好きじゃないって感じてしまって。
俺は君の傍にいるし、ずっと離れたくない。
もっと俺の存在を感じて欲しかった。ここにいるって。
君が居なければ、もう何もできない。
心が壊れることが分かっている。
それ以前に君が俺を見てくれない現実を受け入れることが出来るのか。
きっとできない。
だからそうなってしまったら。
君を傷つけたくないけれど、俺を受け入れないと居られない状況にするよ。
君に愛されないなんて考えられないんだ。
君のすべてが欲しかった。
君の心が得られないなら、それ以外は貰うから。
ゆっくりと君の心が変わるまで待つからね。
もう一度俺を、俺だけをみて愛してくれるように。
そんな風に思ってた俺の心を君は読んでいたから、こうならないように、この方向に俺が進まないようにしたかったんだよね?
お互い向き合っていい関係を築いていける方が、安心だから。
きっと壊れた俺に囚われてしまったら、俺は君の心を縛るんでしょう?
あの時の俺は時折そんなことを考えていた気がする。
君を君の部屋から出したくなかったし、ずっとここにいて欲しかった。
一緒に暮らしたかったけど、君とは遠距離だったから。
君は分かっていて距離感を保っていたんだよね?
近すぎると俺が暴走するのは目に見えてるって感じ取ってたんだ。
関係が変わっても、君は仕事の関係上俺との距離感は保ったままだった。
俺も仕事の関係上、ずっと同じところには居られなかったけど。
それでも俺の、俺と君の家にいて欲しい気持ちはあったんだ。
きっとあの時も俺の何かが不意に変化したら、君は危険と隣り合わせだって分かってた。
そこが穏やかにならないと、君は安心した生活が送れないから。
きっと君だけならそんな俺でも受け入れてくれたんだろう。
でもあの子が居たから、君はある程度距離を保っておきたかった?
そんな俺をあの子に見せたくなくて。
久しぶりにあの時の気持ちが戻ってきてしまった。
バランスさえ取れていれば、君は俺のその感情も否定しない。
受け入れてくれる。
そしてそんな俺を元に戻そうとまでしてくれる。
染まりすぎた俺にきっと君は敵わないことを理解してた。
だから行き過ぎて、君と向き合う気のない俺なら君は去るつもりだったはず。
俺が素直に君を手放すはずなんてないってわかってるのに。
君を離さないためにどうすればいいか考えたんだ。
君は許容範囲の話をしていたし、向き合って欲しいのは分かってた。
俺たちの関係に二人が努力するのは当然のことだから。
だから君を得るには結果がどうあろうと君が求めたことについて、努力する姿勢をみせれば君は去ってくことが出来ない。
狡いと解ってる。
でも君を怖がらせるよりはいいよね?
それでお互い幸せを感じあえるなら。
会ったらもう、君を手に入れないで居られることなんてないんだよ?
ここに君が居ないなんて考えられない。
きっとどこかで君は俺を見ている気がする。
君が言っていた、この肉体を早く脱ぎ捨てたいって言葉を思い出したよ。
次なら会えるのかな?
それまでに俺は何を思い出さないと君を忘れてしまうんだろうか。
俺は君に何をした?
どうしてこんなことになっているのか、答えを探さないと。
今度は一緒に考えてくれる君が居ない。
一人で考えて答えに行きつけるのだろうか?
俺は君ほど推理力がないのに。
君のことを考えていたら、3日程経過していたみたいだ。
部屋から出てこない俺を心配したリアムがドアの前にいた。
周囲に迷惑をかけないようにしないと君に嫌われる。
特にあの子に似ているリアムには慎重に優しく接する予定だった。
考え事や製作に没頭すると飲食を忘れることがあるし、部屋にこもる癖があると伝えて置いた。
食事は部屋の前においておくか、返事がなければ気にせず良いとも。
リアムの声が聞こえないほど、深く考えていて君への時間が壊されなくて本当に良かった。