階層
サプライズで合鍵を渡したときの事を思い出した。
俺には君しかいないから、初めて家に来た日に渡したら君は怒ったよね。
せめて3ヶ月……いや半年くらい経ってからにしたら?
危ないでしょう。私が悪い人だったらどうするの?
喜んで欲しかったのに、サプライズは失敗して君に心配される始末。
君が悪い人じゃないってことは知ってるから大丈夫とは怖がられそうで言えなかった。
ダンジョンで隠し階層にいけるようになった。
君はこういうギミックや謎解きが好きにだったから一緒に行ったら喜ぶだろうな。
休息日に隣の領まで行って、久々に顔馴染みに会いアクセサリーを作って貰った。
やっぱり色合いは綺麗で出来もいい気がする。
君に似合う美しいものが得られて満足できた。
あの男は耳長だからか見目の変化はなかったが、作りは一級なので良しとする。
いい仕事をしてくれたので色を付けて支払っておいた。
これで次も優先的に受けてくれるだろう。
大切に持ち歩いていたら、これがキーになったみたいで隠し階層に行けた。
君が俺に別のステージを用意してくれてる?
それとも偶然を俺が解釈に使っているだけだろうか。
5つを合わせて持ち歩くことなどなかったから、今まで行ったことがないのだろう。
だから隠し階層の転移部屋へ続く道に行けたのだと後から分かった。
久しぶりにワクワクが止まらない。
君はこういうのがとても好きだから、解説できるように徹底的に調べよう。
君が俺を導いてくれたみたいで楽しくて嬉しい。
こういうことがあるから君のことを考えるのをやめられない。
無くても君について考えない日なんてないけど。
君はきっと目の前にあるものを安易に結論付けるのが人間よねって言いそう。
君がそうしてしまっていたし、でもそれが必要だから見えているのか安易に考えているのか、どっちが正解かなんてわからないから、信じたい方を信じればいいとも言うかな。
進まないとどちらの答えも得られないから、お好きな道をどうぞって。
君の笑顔と声で再生される。
もっとはっきりと君が見えたらいいのに。
そんな魔法はこの世界には見つけられてない。
脳に描いたイメージを投影できるようになれば、それに音声を付けて再生したい。
俺だけが見えればいいし、どうにか出来ないかな。
魔法関連は学院都市に行かないと詳しい奴がいない。
遠いし面倒だから行きたくないが、君が再現出来るなら行くしかないかもしれない。
君に会えないなら君を創るしかない。
少しだけ生きる意義が見つかった気がした。
君は何処にいる?
俺のことたまにでいいから思い出しているかな。
あいつと俺について話したりしてるのだろうか?
あいつはあの子と仲が良かったから、あの子について話してるかもしれない。
あの子は俺たちが居なくなっても幸せでいられたのかな?
パートナーは居たから問題はないと思うけど、アレがパートナーだったし年齢差もあるから不安もある。何かあった時に君はあの子の助けになってって言ったけど、俺よりアレと居る方があの子が幸せそうだったからあまり手が出せなかった。
アレはいつでも笑顔だったし、毎日幸せそうだった。
俺は君が居なくてちょっとおかしかったからあの子とアレに迷惑をかけた気もしなくもない。
あの子は君の育て方が良かったのか、あまり手がかからなかったし、俺は距離感が多分下手だったと思う。その点はあいつとアレに負けてるんだろうな。
でも出会ったタイミングがあいつ等より遅いから仕方ないと言いたかったけど、負けを認めるみたいで口には出せなかった。
それを自分で理解した時に、あの子より君を優先してしまったから余計。
大切は大切だけど、君より大切な存在なんて俺には難しくて君を悲しませたかもしれない。
だから、今あの子を大切に出来たあいつといる?
あいつを凍らせて息の根を止めたい。
ああ、ああ、君へこの想いが届けばいいのに。
君のことだからもしかして俺のこと何処かで見てる?
今の俺も君が好きだよ。君しかいないから。
◆◆◆
君が星になって、最後の手紙にまた確認したいのにできないことを書いていった。
俺が次は世界が違うからって、君はあいつを選んだ。
でもあの時の君は「今の人生は全部貴方にあげるから……」って言ってくれたよね。
あの時はそれで君を独り占めできることに満たされて嬉しかったけど、君が逝ってしまって一人になってから次会えないことを知って絶望したんだ。
そして遅すぎるけど今だけじゃ耐えられないって君が居なくなってから気付いた。
-私達が一緒にいるの何回目か分かってる?
貴方は次もと言う意味で2回目も一緒がいいと言ったけれど、2回目はすでに終わっているのやっぱり覚えてないのね。
最初すら思い出せてないけれど、無謀だけど可能性はゼロじゃないから希望だけはもってたのよ?
だとするとそうなってしまった原因も覚えている訳がないわね。
貴方の過ちはこういう形で課されてるのかしら?
決めるのは貴方だけど、知ってて言えない私も凄く苦しいのよ。
知ってても貴方の経験の機会を奪ってしまわないように、手を出さずに見守りつつ耐えることも沢山あったし。
仕事のストレスを私達の関係にのせて乗り越えるのもいつも通り。
今回は何で不安でいっぱいなの?
ゆっくりでも貴方に届いて心が軽くなればそれでよかったのに。
なぜいつもいつの間にか仕事のことより私のことで不安になってるの?
別の不安が増えると今までの不安や悩みって薄れるのね。
まるで痛みみたい。
それとも私の支え方に問題があるのかしら。
貴方の狂気の色合いがバランスを保ったまま増えた気がするのは、気のせいで流してはいけないのよね?
これが私でストレス解消してるといっていた意味だけど、貴方はどこまで読み取れてたのかな?
貴方は次も、ずっと一緒に居たいって心から言ってくれた。
それが可能なら私も同じ気持ち。
でも原因と結果によってこの状態になってることには気付いて欲しかった。
この手紙が残って読めているのなら、その点を考えて思い出してからの選択が先に繋がるはず、それがクリア出来ないと……。
答えを知っていても言ってしまったら、また次がマイナススタートになるのは避けたいから。
でも疲れてしまったなら、もう無理して思い出さなくてもいいからね。
私にとって重要なのは今の貴方があなたであれば、そのままの貴方で居て欲しいだけなの。
環境や周囲によって貴方は必要な成長を遂げられるから、私はそんな貴方が好きなの。
貴方が何度も何度も好意を聞いたり、求めて満たされない事もここから来てるって解らなかったのよね?
言えないけど私は貴方にあって思い出せていたから、いつだって貴方が満たされるまで伝えたけれど、私だって信じてくれなくて不安だったことに気付いて欲しかったのよ?
最近は流石に多少満たされてたみたいで、やっと信じてくれて本当に本当に心が救われたわ。ーー
君と何度出会って何度一緒に居たかなんて覚えてない。
ただ君が欲しくて、君を求めずにはいられなかったそれだけ。
いつでも君を望むことだけは変わらないならそれは嬉しい。
でも今みたいに君がいない時があるなんて考えたくない。
君が手紙で教えてくれてそれを俺が覚えている現在、どうにかして君が伝えたかった意味を理解しないと、多分同じことを繰り返してしまうってわかったよ。
答えを出さないと俺は君からのヒントを忘れるんだね?
君はいつもそう言っていた気がする。
俺の好きにすればいい。
決めるのは貴方、私は選択肢の一部を提示するだけよって。
でも俺はもっと君に求めて欲しかった。
俺と同じだけ、俺だけをずっと見て……。
◆◆◆
いつも通り君と自然に声が甘くなって会話していたら、
「ずっと続けたくなるように、甘いからほろ苦いを繰り返しくれない?」って可愛くお願いをしたんだ。俺があの時どれくらい嬉しかったか分かってほしい。
でも読まれたくはない。
君がやっと俺を見てくれたって感じられて幸せだった。
君を好きすぎる感情を読まれるのが恥ずかしい時がある。
いつでもこの気持ちを見て欲しいって時のが多いはずなのになぜだろう?
隠し階層は、出現するモンスターのランクも違って剣や魔法の鍛錬にちょうどいい。
両方とも出来るように鍛えておいて良かった。
何方も使えないと進めないようになんているなんて凶悪なダンジョンだな。
嬉々として君が進んでいく幻影が見え始めた俺は最近ちょっと変かもしれない。
でも見えるのが君ならこのままでいい。
一応教会で聖魔法をかけて貰ったから、モンスターが見せている幻影ではないようだ。
下層の上層から隠し階層へ行くと、下層の下層くらいのモンスターランクになる。
2段階上がるからその分凶悪で、そして人気がない。
隠し階層への探索者が極めて少ないからなのか、宝箱の出が本当に良い。
通常のダンジョン下層だと、1日の利益として宝箱が1~2個出ればいい方。
ただ中身によりけりだから何とも言えない。
運が良ければ1日で5つ宝箱に出会えたこともあるが、中身は渋かった。
さらに俺には利用価値が少なく、買取額がいいものでもなかった。
隠し階層での宝箱は、探索して数時間経過した現在今までで運が良かった日の5つを越えている。
そして箱の中身も魔道具や高価なアイテムが豊富に獲得出来ている。
なかなか手に入らない素材類も大量に。
蘇生薬は一体いくらになるのかちょっとわからない。
この材料まで出てきてしまって怖いぐらい。
一流の冒険者が色々持っているのは隠し階層へのキーをもっているのかもしれない。
蘇生薬関係はこのままだと狙われることになりそうだから、アイテムバックの肥やしにするしかなさそうだ。
もう少し力をつけて自己や家の強化が済んでからしか色々出せないな。
能力上昇系のアイテムも高価買取して貰えるだろうし、もしかしたらオークションになるかもしれない。
今の成果だけで、ここ数年分の稼ぎになった。
君のためにもっともっと余裕が欲しかったからちょうどいい。
君を再現する魔法を研究するにはどれだけ資金があっても足りないかもしれないから、ここで少しの間鍛錬兼金策をすることにした。
君の幻影は本当に美しい。
君は自分の容姿があまり好きじゃなかったみたいだけど。
俺に好かれて嬉しそうにしている君を見れるのがあんなにも幸せなことだったなんて。
俺こそ君が君であってくれればそれでいい。
出来れば俺だけを見てくれて俺だけの声を聴いて欲しい。
それで俺を待っていてくれたら、君のそばを離れないのに。
俺が夢を叶える努力をする間、君は俺から離れていく。
自立なんてしなくていいのに。
なんで俺に囚われててくれないんだろう?
俺が年下でよかったって君は言った。
自分でしっかりしなきゃって思えるし、貴方って努力の塊みたいな人だから。
見ているだけで、私も何かしないとって気持ちになれる。
前向きになるのが私には難しいことだったけど、貴方が隣にいると自然に出来るみたい。
そんな今の私が少しだけ好きになれたから、本当にありがとう。
君に感謝されたけど、俺としては俺に依存して欲しかったんだよ?
貴方じゃない人なら、私は誰かに依存して生きていくか、誰も選ばないかしかなかったと思う。
貴方に出会う少し前に、誰かに依存してしまうことが怖くて、そんな自分が大嫌いだったから、そんな未来になってしまうならもう誰も選ばないって思っていたのよ。
だから本当に心を開きたいと思う人が居るなんて思わなかったし、そんな先なんて見えてなかった。
肉体を脱ぎ捨てるまでこのまま生きていくしかないんだろうなって考えてた。
まさか恋をするなんてね。
色んな感情を知れるのは嬉しい。
その分辛さもたくさんあるのは分かってる。
全て上手くいくなんてあるわけがないから。
君のリクエストに答えたかったのに、ほろ苦さをなかなか上手に表現できなくて困ったよ。
甘々には出来るのに、ほろ苦さってどうやるんだろう?
君への感情に苦味なんてなくて、暗さと怖さなら出せるけどきっと違うって分かってたから。
君に泣いて欲しい訳じゃない。
俺の怖さをみて、震えてたのにまた同じことをしたいなんて思わない。
君は全てを俺にくれているように感じるのに、俺は更に何を求めているんだろう?
まだ先があるって感じて君を求め続けた。
特に君は変わらなかった。
ただ俺に準備が出来てからしか提示しなかっただけで。
色々隠してたけど、全部俺の為だった。
多少は君の為かも?
それでもいい。
君が俺の隣で笑ってくれるのなら、それ以上の幸せは今のところ見つかってないんだ。
◆◆◆
見習いとして雇った孤児は、青墨色の髪にもう少しだけ明るい瞳のリアム13歳。
あの子に雰囲気が少し似ているような気がする。
君がリアムに会えばきっとそう言うだろう。
空き部屋を一部屋与えて、家事関連の細々とした事を頼んだ。
君と住むために買った広い屋敷の為、毎日全ての掃除をする必要はないとも伝えておいた。
数日一緒に過ごしてして業務内容について話し合ったので、何かあればその都度解決していこうと思ってはいるが、君との時間を割かれないかそれだけが心配。
君の部屋関連と工房室、保管庫は立ち入れないようにしたので、侵入は出来ないから安心。
比較的自由に生きてるのに雇った孤児にブラックを課すのは気が引けたから、ここにはない勤務形態の週休2日の短時間勤務からはじめることで飲み込んでもらった。
教会へも顔を出すこともできるし安心だろう。
君に最低限でもいいからコミュニケーションを取った方がいいと言われている気分になったから雇う事にしたが、よく働いてくれるので当たりだったかもしれない。
あの子があれ位の年齢の時如何していたかな?
なるべく優しく接しよう。
リアムから旦那様と呼ばれることになって驚いた。
そうすると君は奥様になるのかな?早く会いたいな。
君の骨が入ったネックレスもあの子は一緒にいれてくれたのだろうか?
君の一部だけでもいいから君の存在証明が欲しい。