籠鳥
「貴方が求めるから、ゼロ距離でいるけど、その意味について理解してるの?」
君が俺の……俺たちの家に居るとき、俺は君を抱きしめて過ごしている。ソファーは空いているのに、君の後ろに座るのが定位置になっている。なるべくくっついていたいし、君の体温や存在を感じていたい。出来る限り近くで見ていたいからかもしれない。
「好きだから、傍に居たいからいいでしょ?」
君が拒否出来ないの解り切って言っている。俺の事好きなのも、何度も何度も聞いているから知ってるし、気分のいい時は自信すらある。でも時々嫌がられることもあったけど、君の勘なのかな、怖いって言われて傷ついたのを思い出した。君はすぐ謝って少し待ったら問題がなくなったから良かったけれど。あれは君が飲み込んで受け入れてくれただけだったんだろうな。
君が俺を拒絶したら、俺は君を許せない。本当を理解してくれるのは君しかいないのに、俺から逃げないで。深い悲しみと執着が廻る。たどり着く先は君への衝動だと君は瞬時に理解したから、俺に謝って俺の中に見えた怖さを飲み込んむことを選んだんだよね。自分がこんなこと考えていることにすら気付けてないのに、君は俺との今後の事まで考えてる。
「貴方のためにこの状態だけど、行動と感情が伴っているようで真逆なことに気付いてる?」
やっぱり君の言葉は理解するのが難しい。君は俺の精神バランスのためにゼロ距離を受け入れてくれてるってこと。そこはわかるけど、行動と感情の真逆の意味は理解できない。
「根本的な解決以前の問題だったから、貴方の精神バランスのために傍に居るようになるべく心掛けたけれど、それ以上の解決策を自身で用意してるのに、それを否定するのはなぜなのかな?」
答えになってないんだけど……。気になることがまた出てきた。俺の状態を正常値もしくは不安定じゃない方へ調整するために、君はゼロ距離を拒絶しない。それ以上の解決策ってなんだろ? 君を否定した記憶があまりないんだけどな。
「自覚ないのね。最近は私が傍にいるより解決策に対応した後の方が貴方安定してるのよ?」
ええ。最近調子はいいとは思うけど、君が家にいるのに傍に居ないのは悲しいし、触れていたいって思うから。それ以上の解決策なんてないと思うんだけど。あ、君が俺に嬉しいことしてくれたり、言ってくれるとか?
「あはは、全然違う。無自覚さんだとは思ってなかった。当初からしてたじゃない。準備万端で。」
めっちゃ笑われた。君に「自己理解を深めまましょう」って何度言われたかわからないけどさ。君が言うように自分の事って自分が一番理解できないこともあるんだよ。君といてそう思うことは増えた。いや指摘されるから知った事実だけども。結局自分では答えが解らなかった。
「私が、私の部屋にいることよ?」
ある程度バランスが戻るまでは傍に居ないと不安で、仕方なくてゼロ距離でいたけど。ちゃんと流れに身を任せてるのか都合がいいからそのまま放置しているのかはわからないけど、貴方にもやることはあるからけじめをつけて、同じ家にいても私は私の部屋にいたでしょう?
「私が部屋で過ごしてた日と、貴方とゼロ距離でのみ過ごした日を比較すれば理解できる?」
ここまで君に言われてもさっぱり理解出来ないのは俺が変なのか。君が俺を理解しようと考えてくれてるのを自覚して其方に意識がいって喜びが生まれて、何を考えるのか一瞬わからなくなった。でも君は真剣に俺を見てたから、そろそろ頭を使わないと君に呆れられる。
俺が仕事しなきゃいけなくて、君は俺が集めた君の部屋でゆったり過ごして終わったらすぐ会えるのは嬉しかったけど、仕事じゃなくてずっと君の傍にいれた方がより長く君を感じていられるから辞められないんだけど、精神的にバランスが取れてるのは逆?
どっちがいいのかと聞かれたら、迷わず仕事しないでずっと一緒に居れる日がいい。でも君の回答は逆で君からみた俺は仕事した後に会うくらいが俺の精神バランス的にはいいらしい。君が君の部屋にいることになんの意味があるのか、わからない。
「腑に落ちてない表情ね。そもそもなんで私の部屋を作ったの?」
君が俺の家にいるのが嬉しくて、君の居場所が在ったらもっと俺を好きでいてくれるかなって思ったのと、ずっと傍に居てほしかったから、君が居れる空間を作りたかった、君と俺の家にしたかったからかな。
「そこまで答えが解ってるのになんでわからないのかしら?」
俺の理解と君の理解は違うようだ。位置情報のアプリの話に近いかもしれない。俺は自己愛が強めで、あと自覚なく君を手に入れて離したくないって思ってるから部屋を作って「ここに居て、いつ来ても受け入れるられるから大丈夫」って行動で示してる。恥ずかしいけどそういうことだよね?
「そう。でもね、中からはよくあるけど、外からもあの部屋鍵がかかることも私知っているのよ?」
君の言葉に少し顔色が変わったのを感じた。表情が抜けたかもしれない。君に気付かれているなんて思わなかった。それは怖いって思うのも仕方ないのかな。でも怖がられたくない。君に離れていってほしくない。自分でもなぜあんなことをしたのかわからない、君の部屋だけドアが違う。オシャレな外観だけど頑丈でちょっとやそっとじゃ壊れない。
「不安になってるの? 鍵を外からかけないで開けておいてさえくれるなら止まり木にはくるから心配しないで。あの部屋を見た時私が感じたのは籠の鳥なの、でもいつでも扉さえ開いておいてくれるなら、遊びにくるから大丈夫よ」
冴えてる君が俺が用意した部屋に注視しない訳がなかった。俺はいつでも君が、君の部屋にいるときに鍵をしめて、閉じ込めることが出来る。だから俺は君が君の部屋にいるときに精神バランスが安定しているのだろうか?
根本的な解決にはそれでなるのだろうか、わからない。自分でも君を閉じ込めたい欲求は抑えているつもりだけど、スマホの操作一つで君が俺の家から俺が居ないと出られない状態が多分歓喜に近いから、ただ今のところそういう状態をつくれるけど、鍵をしめたことはないからまだセーフのはず。
君に俺の恥ずべき部分を知られてることに気付かされて、自分の小ささとでもこれも君が好きだからしょうがないと開き直りたい気持ちでいっぱい。そんな俺をまだ好きでいてくれるなんて君はすごい。本当に許容範囲を越えなければ俺を見ててくれる?
こんな俺でも大丈夫なのだろうか。君への想いは強め……。相当執着してるし、どうすれば普通の関係になれるのかはよくわからない。ただ想いがあってその心のまま動いたらこうなってたんだ。止まり木でもいい。君が俺の家の部屋にいてくれるなら、どうかずっとこのまま君が俺の傍にいてくれますように。
酷い夢をみた。君がいたから素晴らしい夢であることは間違いない。でも俺自身が酷すぎると客観的にみると思えるけど、今君がここに居たら同じこと繰り返していると解るから、成長はしてない。君はそんな俺のどこがよかったのだろうか? 俺が逆の立場だったら君が感じた怖さも理解出来る。その件について話そうとよく思ったよね。俺が君を閉じ込めてしまうリスクを考えなかったのかな?
知られてしまったらタガが外れることもあるかもしれないよ? 君の事だから俺がそんなことしないタイミングさえ理解していたのだろうけどね。君って結構石橋を叩いて渡る人だから、問題がない先が視えてたから話す気になったんだろうな。
確かに俺は自分で君がゼロ距離にいるのから、部屋に行くのを止めることが多かった。だって傍に居れるなら出来る限り一緒に居てくれてもいいじゃん。あいつらがいようが居まいが俺の家だしいいよね? なんだかんだ君は俺を宥めていつの間にかケジメをつけて仕事をする流れになってたけどさ。
でも可愛い。こんな俺でも本当に本当にその先まで君は俺を見ててくれたから。まだ不安がってすべてが満たされてないあの時の俺に言いたい。恥も全て君に曝しても問題はないって。ここまで受け入れてくれる人に今後出会える確率って何パーセントあるかわかるのかって。だからなるべく怖がらせず優しくして君の心を癒せる存在になれるように努力した方がもっと好きなって貰えるはず。
そうか、今はもっと君に対して別の対応を出来るように成長することも大切。一方的な感情を君に伝えて飲み込んでもらうだけじゃなくて、何事も相互理解出来るように徐々にでもしていけたらいい。少しは酷い夢から学べることがあってよかった。
金銭的に隠し階層のドロップや通常ダンジョンのドロップ品他で稼げていたから、予定より前倒しで学園都市に行くことにした。隠し階層の転移部屋が別のダンジョンへとつながっていることに気付けたのも大きい収穫の一つで、個人情報が管理されてるとは言っても地球とはレベルが違い原始的な部分も多々あるから商人に真似事をしている俺でも乗り切れてる。
3つ先の領の大型ダンジョンから、さらなる隠し階層の発見と通過、転移部屋へさらに探索も少しずつだが行いつつモンスター分布やドロップなどの情報収集をする。隠し階層の更なる隠し部屋を探して色壁の転移部屋を見つけるたいが、俺にそんな鋭さはないからここは君の幻影頼みになる。
欲しいアイテムの時もあったが、隠し階層の更なる隠し部屋の宝箱を泣く泣くスルーして色壁の転移部屋へいけた日もあった。収支はトントンなのだろうか? 何か失った気がした。
そんな日々を送りつつ、色壁転移部屋であたりを引いた。目的の学園都市の隣の領地にあるダンジョンに出たのだ。これで行き来が楽になる。君を再現できる日も近づいたのではないだろうか。
そう思ったのは甘すぎた。固定観念に囚われすぎて、発展を目指さなくなったらしい魔法ギルドだったのだ。基礎や現状あるものに対し個々に追加を行ってブラッシュアップのような意味がある魔法になっているものとブラッシュアップ風の何か別物と分かりづらく、そして更に難解にしているのがよくない。
基礎を学ぶために講師を付けたのはよかったが、発展はなさそうである。これでは君の再現が出来ない。非常に芳しくない状況であるが、君の淡い幻影が歩き出しついていくと、学園だった。新しいことに挑戦しようとする想像し、創造することを模索する現在では頭のオカシイ人と認識しているような人材ならば可能性があるのではないかと、君の話を解釈するとそうなった。
俺がいろんなことを学んで独自に君を再現できるのが理想ではあるが、それではいつまでかかるのかわからない。出来れば今すぐにでも君に会いたいし、触れたいし、ああ。
学生でもいい。俺とビジネスライクでいいから相性さえよければそれで。あとは契約内容で縛ればどうにでもなる。商人的意識を多少経験したため、色々知ってしまったのだ。学生を使い捨てにするつもりなどないが、君を再現する魔法が公になるのは困るかもしれないから。
あとは、君の幻影がやっぱり地上では淡すぎて日々不安になるから、出来る限り下層のあるダンジョンへと探索している方が向いているし、いつ見えなくなるか分からない君を少しでも長く見ていたいから。必要なアイテムや素材を集めるのが俺で、再現魔法の基礎や構築の辺りの無から有を生み出す作業を頼みたいのだ。
それに伴って別の国や色んな所にいって資料を集めるのもいいかもしれない。君のために必要なら何処へだって行って手に入れてみせる。君はそこまで望んでないだろうけど。今だって眠いなら寝て欲しいし、無理をするのは拒否される。君が居るから俺は自身の限界が分かるから。
何も学生1人に課さなくてもいいか。と発想を変えた。契約さえあるならある程度縛れるから、複数人に依頼してよりいい結果を獲得するより、ブラックボックスになるように、一人には新しい魔法を作成する基礎から応用、一人には、投影のような魔法の手順、一人には、魔法構築の基本と応用……と分けることにした。
全てを集約して俺が再現魔法が使えるようになればいいのだから。すべてを押し付けるのは間違ってるかもしれない。その場合結局俺が学ぶことになるけど、秘匿したいことについてはガチガチに固めた方がいいかもしない。あるところにはどんなことをしてでも寄ってたかってくる虫が本当にこの世界には多すぎるからな。
早く君に会いたい。
待ちきれないけど、そのために生きてるからまだ大丈夫。
無から有を生み出すのは楽しいから、それを共感できる相手が見つかればいいな。
君ならそして、その行為が新しい魔法を生み出すことにつながるきっかけになればいいのにといいそうだ。俺との契約は話せずとも、流れは同じだから別の魔法でその件について考察と理解を深めればいろんなことに応用はきくはず。利益になる前に学生だとかすめ取られないか心配ではあるが……。
他人のことはいい。君の事。
明日も君の夢をみれますように。淡くとも濃くとも君の幻影と会えますように。
おやすみなさい。




