異星人は第3の性
少年はアルトの歌声で歌っていた。
初老の女性が監督していたが、音程はしっかりしていて、申し分なかった。
宇宙船内部の湾曲している向こう側から彼女が降ってきた。瞳は猫のように縦長だった。
僕は彼女を正面からキャッチすると、どっと冷や汗が出た。彼女の腕の表面が溶けて、僕の腕にまとわりつく。
「びっくりした」
「ごめんなさい」
そのままたゆたんだ腕の部分から僕を包み込むようにするので、
「やめてくれ」
と思わず叫んだ。
第3の性を持つ異星人である彼女は、地球人の男女両方と結合して子どもをなすことができる。
でも、本能的にうけつけきれない。僕は、彼女が僕から離れた後も怖気で震えていた。
アルトの歌声が響く。
地球人はこの宇宙船の人口の何%まで減ったのだろうか?
僕は危機感を抱く。
宇宙船が方向転換するたびに誰かと接触しなきゃならない。しかもそのほとんどが前に不時着した惑星から乗り込んできた異星人で、僕はこのままじゃ気が狂いそうだった。
アルトの歌声が響く。
どっちがいいだろうか?
身も心も委ねてしまう方が楽かもしれない。
だが、深層心理で、僕は地球人の女性を本能的に求めているのがわかっていた。
彼女!僕の求めている条件を満たした彼女はどこにいるのか?
ソプラノの女声が切れ切れに聞こえた。
僕は漂って行って、相手を見定めた。
プラチナブロンドの髪がふわふわしている。瞳は僕と同じ。
一縷の望みを込めて、声をかけてみた。
「はあい。何か用?」
「その、君は地球人?」
「地球ってなに?」
玉砕。打ちひしがれている僕に
「ウソウソ。嘘だってば。あなた、地球人?」
「そうだよ。君は?」
「私も地球人よ」
「時代遅れだと思われるかもしれないけれど、地球人の彼女を募集中なんだ」
「それで私?」
「うん」
「でも私、付き合ってる人がいて、その人地球人じゃないし、その人込みで良いんなら付き合えるけど?」
無理だー。
僕は頭を抱えてしゃがみ込んだ。