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天の衣に竜の煌めき  作者: 陽向未来
第壱章 出会い
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第陸話 片鱗

壱与(いよ)様。何故、私にこの使命が与えられたのでしょうか?」

 ずっと疑問に思っていた。けれど今までは質問するのは(はばか)られた。


 自愛と懐かしさを兼ねた目で私を見つめながらお答えくださった。

「いくつかの理由はありますが今は、一つだけお教えしましょう。(しず)は私が地上に降りていたときの愛弟子だったのです。あなたの過去世でね」


『私が壱与様と一緒に地上に生まれていた!?』

 驚きつつも更なる質問をさせて頂いた。

「過去世ですか! 神道に転生輪廻の概念はなかったと記憶しております」


「そうですね。神道は仏教や、旧約のユダヤ教、新約のキリスト教、イスラム教と違って教えという形式で教義を残していない特殊な宗教ですから、そう思うのも無理はありませんよ。でもね、事実は事実です。地上で人気の漫画? アニメ? で有名な作品に”真実はいつも一つ!”と名セリフがありますが、その通りです」


「え? 壱与様、知っておられるのですか?」


「地上の様子は見ていますよ。どういったものが流行なのか? 人気があるのか? ってね」


「意外でした。いつも凛とされ厳しく、そして優しい壱与様からは想像できませんでした」


 壱与様は、楽しそうにほほ笑む。

「ふふふ。意外だったかしら? さて話を戻すと、この日本という国は天照様の肉体的子孫である天皇が、高天ヶ原からの神々からの啓示を受け(まつりごと)を行ってきたので教義、教えという形式ではないのです。だからといって神道は転生輪廻を否定はしていないでしょ? あと仏教も受け入れてきたわ。疫病退散の願いから奈良の大仏を建立したのは時の天皇の聖武(しょうむ)ですよ」


「納得いたしました」


「さて休憩時間は終わりよ。次は金縛りの舞を身につけましょうね」

 そして修行が再開された。


***


正義(まさき)、なんか今日一日ぼーっとしてたな。何かあったのか?」

 終業後の部活で、徹が俺を心配して声を掛けてきた。いい奴だ。


『う~~~ん。俺自身でもまだ整理できていないんだから話のしようがないな』

 せっかく心配してくれたのだからと、これだけ答えた。

「まだ今は話せないんだけどさ。この数日、色々と驚きの連続だったんだ。落ち着いたら言うから聞いてくれな」


「そっか、わかった。それでいいぜ」

『親友っていうのはいいもんだな』

 心の中で感謝した。


 帰宅しシャワーを浴びながら、

『今日から千葉先生直々の刀の稽古が始まる。凄いな……何故、俺のかはわからんが光栄なことだよなー。そして(ごう)、本物の竜を見ることになろうとは人生何が起こるかわからんな」

 まだ十六歳の俺は大人びたことを考えていた。

 次第にワクワクしてきた。

『いかんいかん。興奮して眠れなくて朝になっていたらシャレにならんぜ』


 部活も徹に指摘されたように集中できずにいたから運動不足だ。

『寝れるように少し体を動かしておこう』

 竹刀を手に庭にでてホームセンターで購入した太い木の杭にぶっ刺した古タイヤに向かって打ち込みを始めた。

 またお風呂に入るつもりだったから、これでいいさ。

 そのお陰か思いの外、早く眠りにつくことができた。



 気づくと剣道場に俺はいた。目の前には千葉先生が正座をして待っていてくれていた。

「関心関心、今日も遅寝だろうと思ったが関心なことだ」

 千葉先生から褒められ照れてしまう。


「ニヤニヤしておるな。さて気合を入れるためにも、早々に修行に入るか」

『めちゃめちゃ開始早くない?』

 と思いつつも「よろしくお願いいたします!」と威勢よく頭を下げた。


「では、すり足からだ」

『え? いやに現実的な……肉体がないから刀術からだと思った』


 千葉先生が気が飛んでくるのが見えた。

「まずは基本からだ!」

「は、はい!」

 こうして予想は裏切られ、本当に基本からの修行が始まった



「ハァハァハァ……」

 汗こそ出てこないが肉体はないのに肩から息をしていた。

『こんなに厳しいなんて……』


「正義は自覚しているように、剣の道と書いて剣道だ。精神鍛錬の方が大切なのだよ。そして技は本当に基本ができていないと本来の威力を発揮しない。ましてや敵は悪霊だ。精神的に弱くては戦う前に負ける。わかるかね?」


「はい!」

 千葉先生直々の修行なのだ。光栄で堪らない!


 そうした思考を読みとってだと思うけど、ニコッとしてくれた。いや、してくださっただな……

 このように地味に修行が始まった。



 数日後、剣道部の青木部長が不思議そうな顔をしながら、

「正義、急にすり足が上達したな。なにかコツでも掴んだのか?」

 そう言われ嬉しくなった。


「言葉には出来ませんが、そうですね。少し感覚的なものが掴めた気がしています」


「そうか、それは良いことだ。次の大会も期待しているからな」


「はい!」

 いいことばかりだ。

 でもたった数日だけど、ここで浮ついた気持ちにはならなかった。

 何と言っても千葉先生は厳しい。

 もう、こんなことで浮つくようにはならなくなっていた。



 今日から、楽しみにしていた弓道の授業が始まる!

「徹~~~、早く五時限目にならんかな」

「今日、そればかりだな! 体中からウキウキしているのが伝わってくるぞ」

「徹だって、そうじゃんか」

「まぁな! 楽しみだもんな!」

「最初から、そういえよ」

 俺たちだけでなくクラスの大半は楽しみにしているのが空気でわかる。

 一部の運動嫌いな奴は別だが。


 授業中、教卓の方を見れは自然に視界に入ってくる、あの転校生(伊勢さん)の様子はというと落ち着いていた。

『彼女、運動系が得意って感じじゃないしな』

 勝手にそう思っていたのだが、意外にそうじゃなかった。

 彼女は弓道部に入部していたのが、五時限目に判明したからだ。


『へぇぇぇ、意外に運動系なんだ』


「ん? 正義、どうした?」

 俺の視線に気づいたのか、目を細めて茶化してきた。

「あれれ~~~正義くんや。伊勢ちゃんに興味あるんだ」

 ニヤニヤしてくる。


「いや。運動系苦手なんだろうと勝手に思っていたから弓道部に入部していたのが意外だけなだけだ」

 こちらも椿(つばき)さんに視線を移して反撃する。

「椿さんも弓道部だったよな。室長の部活に合わせたのかな?」


「さ、さぁな……まぁ……なんだ、気が合うみたいだから椿さんが部活に誘ったのかもな」

 歯切れが悪い。

『これさ、絶対に本人にバレてるよな。でも避けられていないから頑張ってみてもいいのにな』

 急に親心がでてきた。

「徹さ、頑張って誘ってみたら?」


「な……何のことかな? お! 呼ばれたから俺いくわ」

 そそくさと別の友人の元に行ってしまった。


『本人は見えていないんだよな。周りからはバレバレだってーの。せっかく背中を押したのに。今度、徹に直球で言ってやるか』

 親友を取られるのは嫌だが、嬉しそうにしているのも見てみたい複雑な気持ちだ。

『そういえば俺も自然と、伊勢さんのことを気にしているな』

 徹は単に俺を冷やかして遊んでいたのだろうが、確かに気にはなっている自分に初めて気づいた。

『転校初日でああだったから気になるだけかもな』

 あまり深くは考えなかった。


 それはさておき、弓道の準備開始だ。

 当然、いきなり矢を射ったりはしない。まず射法八節(しゃほうはっせつ)といって基本の型を矢は持たず弓だけで学ぶ。

 しっかし、弓の長いこと。学内に弓道部があるのだから見慣れてはいるが持ってみると予想以上に長いと感じた。

 部活ではないため本格的なことまではいかないが、こうした変わった授業があるということで生徒を集めようとの学校側の考えは理解できる。

 実際に弓道部があるからとか、授業があるからこの学校を選んだ生徒もいるのだ。


 射法八節の説明が始まる。教師は道部顧問の鈴木(すずき)裕子(ゆうこ)先生。

「いいですか基本の型である射法八節は、1.立つ位置を決める足踏み、2.姿勢を整える胴造り、3.弦に指をかける弓構(ゆがま)え、4.弓を持ち上げる打起(うちおこ)し、5.弓を引く引分(ひきわ)け、6.狙いを定める(かい)、7.矢を射る離れ、8.矢を射た後の姿勢の残身(ざんしん)とあります。はやる気持ちはわかりますが、徐々に身に着けていきましょうね」

 流石、顧問。教えるのは慣れているしわかりやすい。


「でも、そうね。みんなも見てみたいでしょうから、椿さん、実際に矢を射てみせてあげて」

 

「は、はい!」

 椿さんも意外だったようで返事がどもった。

 緊張した面持ちから腹式呼吸をし精神統一をしたと思ったら顔から緊張が解け、凛とした表情になった。

 腹式呼吸とは、1.深く息を吸い、2.腹の下の丹田(たんでん)まで息を降ろし、3.ゆっくりと息を吐く呼吸法だ。

『俺も良く使うから解る。でも徹じゃないが、こんなの見たら惚れるな』

 性格良し、ルックスも文句なし、成績もそこそこ良い。人気が出ない訳がない。

『徹は競争率の高いから大変だな、でも俺から見ると意外に告白したらOKしてくれるかも』

 と感じている。

 でなけでは徹にあんなことは言わない。

 親友の泣き顔こそ見たくないのだ。


 椿さんの矢は、的の右下に当たった。

 みんなから、「おぉぉ!」と声が上がる。

正鵠(せいこく)(的の真ん中)を射てカッコイイところ見せたかったけどね」

 恥かしそうに、照れながら笑っていた。

『可愛いな!』



 授業は終わり近くになり片付けに入ると、クラスのやんちゃ者が決まってなんの練習もせず矢を射って遊びだす。

 まぁ。お約束だな。

 鈴木先生も、それは理解していて、

「いい? 壊しちゃダメよ。弓道は甘くないって体感してみるのも悪くないわ。今日は初日だから許してあげる」

 授業で使用する弓は、当然学校の備品だ


『剣道だってそうさ。そんな簡単で出来るもんか』

 俺は冷めた目で、その光景を見ていた。

 隣には徹がいる。

『徹も冷静だな。椿さんの評価もあがるってもんだ。そんなこと考ないだろうけどな』


 そうした生徒が一通り矢を射てみようとして失敗するのを見て鈴木先生が言う。

「いい。この通り簡単ではありません。だからちゃんと基本から身につけましょうね」


「はーーーい」

 体感して納得したのだろう。みんな、そう返事をしたのだが、鈴木先生からは意外な言葉が飛び出した。

「それはさておき、こうしたサービスは今日だけだから、やってみたいと思うなら今ですよ」

 驚いた。


 徹が、その言葉に好奇心を刺激されたのか、

「正義、一度やってみないか?」

 と言うもんだから更に驚いた。


「徹がやるなら、俺もやってみるかな」

 だから賛同してみた。


「俺たちもやってみていいですかー」

 決めたら行動早いな!


「いいわよー」

 鈴木先生、ノリがいいな。

 ここで痛い目に合わせておくと後々、楽なんだろうな。

 だから弓道部員も文句を言わない。事前に話を聞いていたに違いない。


 まず徹からだ。

 矢を引くと、なかなか様になっていた。

 剣道で鍛えた筋力と体力のなせる業か。

 とは言え、そこまでだった。

 実際には矢は、びよ~~~んと空中を舞い、地面に落ちた。

『徹でも、そうは簡単にいかないか』

 でも他の生徒に比べれば立派なものだった。


 鈴木先生も関心していた。

「へぇ~~~、桜木くん、やるわね。確か剣道部だったかしら?」

「はい、そうです。わかっていましたが、やっぱり難しいですね」

 好青年みたいな返事だった。

 実際に、いい奴なんだが。


 徹が俺の近くまで戻ってきた。

「無様だった。剣道とは使う筋肉が違うから弓を引くだけで正直、力尽きた」

「いや、他の奴らに比べたら凄かった。俺は素直に関心した」

「え? 照れるじゃん。次は正義の見せてくれよ」

「はいはい。徹より無様になるが、これも体験だな。せっかく鈴木先生がOKしてくれたんだからさ」

「そうそう。頑張ってな」

「おうよ」


 そういい前に出て、弓を持ち、矢を手にした。

 前に出てから伊勢さんの視線を強く感じた。

『なんだろう? 不思議だな。高天ヶ原(たかまがはら)でも視線を感じるって強く実感したからかな? 感覚が鋭くなっているのだろうか?』

 そんなことを考えながら、的に向かって視線を動かした。

 その瞬間、何か例えようもない感覚に捕らわれた。

 白昼夢(はくちゅうむ)というべきだろうか。

 妙な光景を見た。

 燃える寺、必死に矢を射る視点での戦国時代の光景を!

 はっとして気を取り直すが、時間が止まっていたような感じで誰も表情をいぶかし気にしていなかった。

 そんな中、伊勢さんだけが鋭い目をしていたのは印象的だった。

『俺、伊勢さんに惚れちゃってる? いやいや、ろくに会話もしていないし気になるのは認めるが恋心ではない』

 実際にそうなんだが意識はしているなとも思った。


 腹式呼吸をして弓を引く。

『なんだ? この感覚は? 誰かが俺と一体になっている感じがする』

 不思議だった。

 そして身体は勝手に動いていた。


 的に集中すると当然のように自然に弓を引いた。

 的の真ん中が、大きくなっていく感覚がするとともに矢を射ていた。

 矢は、真っ直ぐに的に向かっていき正鵠(せいこく)を射抜いていた。


 自分自身が自分でないような感覚。

『え? 俺がやったのか? 当たってる!』

 誰よりも俺が驚いていた。

 先生を含め、俺もクラスのみんなも呆然(ぼうぜん)としている。


「凄い! 凄いよ! 熱田くん、剣道部やめて弓道部に来たら?」

 椿さんが興奮したのか、そう叫んでいた。


「い、いや。ビキナーズラックって奴だよ」

「弓道にはねビキナーズラックなんてないよ。弓道部おいでよ!」

 徹からの視線が痛い!


「いやいや、俺は剣道好きだから剣道部でいい」

 照れもあって、さっさと弓を戻し向かった。

 鈴木先生が目を丸くしているのがわかった。


『なんだろう、あの感覚。今夜、千葉先生に聞いてみようかな。千葉先生の修行が違った形で現れたのかも知れない』

 俺は冷静になっていた。


***


 (熱田くん)が、正鵠を射抜いたのには正直、(静香)は驚いていた。

 そして同時に壱与様からお聞きしていたことを思い起こした。

辰時(たつとき)様は刀の腕も立ち弓の名手でもあった。だから信長の近くに仕えることができ本能寺にも同行し亡くなった。とお聞きはしていたけど、今世でも力を発揮したのには驚いたわ』


『でも弓を手にしてから彼の周りの空気が変わったのを感じた。きっと辰時様の魂の部分が表層に浮いてきたんだわ。今夜、壱与様にお聞きしてみましょう』

 今夜の楽しみができたと嬉しくなった。

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