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天の衣に竜の煌めき  作者: 陽向未来
第壱章 出会い
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第拾壱話 生霊戦

 (正義)の周りの空気の流れが止まった。

 聞いていた通り、三次元と四次元の狭間に来たのだ。

 いわゆる幽体離脱で肉体は、剣道場に立ったままの状態。


 俺自身は、霊体で服装は和装。

 白を基調にした(ほう)と濃紫の袴が、カッコイイ!

 ちゃんと腰には、大和守天翔やまとのかみてんしょうが掛かっている。

 ワクワクしてくる。

『来る!』


 目の前に黒い(もや)が集まってくる。そして、どんどん凝縮していき人型になった。

 見覚えのある顔だ。

『こいつ違うクラスの奴だな。確か(ひいらぎ)組の名前まで知らないが、苗字は佐藤だったか』


「熱田! お前、()()椿(つばき)さんを誘惑したな」

 声には恨みつらみがこもっているのを感じる。

『俺の……か、こりゃ重症だな。こうやって生霊になって目の前にいるくらいだし、当然か』


「柊組の佐藤だったかな?」

「そうだ! お前を俺は許さない」


「まてまて、俺は誘惑もしていないし、椿さんとは単なるクラスメイトであってそれ以上の関係ではない」

「だが、彼女のお前を見る目が変わっている!」


「確かに弓道が上手にできたことで椿さんの俺への評価が上がったのはある。だが別に、俺に惚れた訳じゃないぞ」

「嘘だ! 彼女を誘惑し、俺から奪った!」


『待てよ。椿さんだってお前の女じゃないじゃんかよ!』

 その思いは飲み込んで、(さとし)に入る。

 これは昨夜、そう指示されていたからだ。


「奪ってない! 彼女とは付き合っていないし、彼女だって今、彼氏しないだろ?」

「彼女だと? やっぱり自分の女だと思っているんだな」


「なんで、そうなるだよ。普通の形容詞だろうに。冷静になれ」

「お前が憎い! お前を殺してでも椿さんを取り戻す!」


『支離滅裂で話にならん。困ったな』

 初めての霊体験なんだが、高天ヶ原に慣れているせいか冷静でいられた。

『だから、そろそろって話だったんだな』

 俺は冷静だった。


「もし、佐藤が俺を殺しても椿さんが、佐藤の彼女になる訳じゃないぞ。冷静になって考えてみろ」

 佐藤の生霊は、頭をかきむしる。

「あぁぁぁ! 椿さんを奪ったから余裕があるんだな。お前は!」

 最後は怒気を爆発させ、そして俺に向かってくる。


『武器もないのに、どう攻撃してくるんだ?』

 そう心配までしてやったが、その手にはサバイバルナイフが握られていた。

『どこから出てきたんだ? 仕方ない、戦うしかないか』


 奴は隙だらけの大振りで、サバイバルナイフを振り下げてきた。

 とっさに、天翔(てんしょう)を鞘から抜く。

 その刀身は虹色に輝いていて何度みても美しい。

 そして、刀背打(みねう)ちのため刀をくるっと回し刃を上にした。

『生霊に攻撃を加えると肉体にまで影響がでる。だから斬ってはダメだ』

 千葉先生の言葉が頭によぎる。



 キンッ!

 ナイフを天翔で受ける。

 すかさず連続攻撃を仕掛けてくるが、大振りばかりの隙だらけ、先生の修行を受けている俺には簡単に(しの)ぐことができた。

 避ける、天翔で受ける。だが、まだ俺からは攻撃しない。


 奴の攻撃は単調だが、怒りに身を任せの火事場の馬鹿力は凄かった。

 ナイフが天翔の刀身にそって降りきて、徐々に(つば)にまで迫ってくる。

『神様方、簡単のからって言ってたよね? 生霊相手は、こちらから攻撃しづらいのに、これが簡単なのか?』

 修行の成果か、心の中でそう文句を吐いた。


「熱田ーーー死ね!」

 さらにナイフに力をこめられる。


 俺は、ナイフの刃に天翔の(むね)を回し、弾いて後ろに下がった。

「なぁ、佐藤。もうやめないか? すべてはお前の誤解だし、思い込みだ」


「うるせぇぇぇ!」

 まったく言葉が通じない。困った。


 俺は相手に向けた刃の先を上下に微妙に動かし、相手の距離感を麻痺させる。

 これは北辰一刀の流派の技だ。

 奴も、俺の動きが変わったのを察し、攻めあぐね始めた。


「ちきしょーーーーー。俺は椿さんのことを一年のときから好きなんだ。同じクラスになって、直ぐに一目ぼれした。それを、それを、よくも簡単にかっさらっていきやがったな!!」

 突進しながらナイフで突きにくる。


 俺は体ごと避けて、その手に向かって天翔の棟を軽く落とす。

『籠手!』

 剣道の試合なら、そう叫ばれるな……



 しかし、手加減し過ぎたためかダメージはなく、逆にナイフを握りしめたまま、こちらに突きを入れてくる。

「うわぁ」

 流石に油断し過ぎたせいで体勢を崩した。

 奴のナイフが、俺の左腕をかすめたと思ったら、血が流れてきた。

『霊体なのに、斬られた血が出るのか? 斬られるとやっぱ痛いんだな』

 俺は奴と距離を取った。


『どうする? 攻撃に転じるか? まだ説得を続けるか?』

 悩みの隙をついて、ナイフが迫ってきていたが天翔で捌く。


「佐藤、俺を恨んで攻撃してくるんじゃなく、椿さんに告白してみたらいいじゃないか」

「したさ! お前が椿さんを誘惑したから、焦ってしたさ。断られたよ。お前がいるからだ!」


「椿さんが、そう言ったのか?」

「ごめんなさい。と言われただけだ」


「なら、俺は関係ないじゃないか」

「いや。お前のせいに決まっている。だから殺す!」

 佐藤の生霊は、少し青白い肌をしていたが目が段々と赤く変化していく。

 その背後には、黒い影が見えるようになっていた。


『先生の言っていた正体はあれか!』

 先生の言葉が脳裏によぎる。

『生霊にも力があるが、同じ考え、思考の地獄霊が同調して、本人を更に狂わせる。今回は、まず相手の説得を試みる。ダメなら、その地獄霊が姿を現したときに、そちらを狙うのだ』


『しかし、佐藤が怒りに身を任せ荒れ狂っていて背後を狙えないな。佐藤自体は凌げるが、どうする?』

 ナイフ攻撃を受け流しつつ、作戦を考える。

『くそー、ホント自分の肉体へのダメージ無視の馬鹿力は厄介だな』

 斬ってしまうのは簡単だか極力、刀背打ちとはいえ攻撃したくない。

『とは言え、仕方ないか……できるだけ手加減しよう。先ほどのように甘くて反撃されるかも知れないが、少しづつダメージを与えていくぞ』


 そう思い攻撃に転じようとした瞬間、俺の背後の方から、

”シャンシャン”

 と聞こえてきたのだ。

『ん? なんだ、鈴の音?』

 確かに、聞こえてくる。


『こんなことは聞いてないぞ。背後に新手か?』

 しかし、ナイフで連続攻撃してくる奴の前にしては振り向けない。

『背後にも敵とは、ピンチだ』


 そんな不安は外れ、佐藤の生霊の足元から光の(つた)が急激に生えてきたと思ったら、あっという間に雁字搦(がんじがら)めにしていた。

『味方なのか? 神々の手助けだろうか? それにしても鈴の音と高天ヶ原のあの神々とは繋がらないな』

 佐藤からの攻撃は止んだというのに、俺は動けなかった。

 後ろの正体を見ようと思った最中、その後方から声がした。


「早く、早く! 地獄霊を斬ってください!!」

 凛とした女性の声だった。

 ちょっと聞き覚えのあるような声だったが、詮索する余裕は俺にはない。


 とっさに身体(霊体)が動いた。

 後方の地獄霊は人型をしていたし、目も鼻も口もあるがハッキリとした顔は見えない。

 地獄霊はハッキリとした形をしていなく、ユラユラした状態で浮いているが、その地獄霊も意表を突かれたらしく固まっていた。


 刀をくるっと回し、刃先を下にした。

「天翔、参る!」

 そう叫び、上段から地獄霊に刃を思いっきり振り下ろした。

「ぎゃぁぁぁーーー」

 身の毛もよだつ断末魔を残し地獄霊は四散し消えた。


 すると佐藤の生霊も四散し消えていく。

 その光景を眺め、ハッとした。

『あの鈴の音の正体。誰だ?』

 慌てて鈴の音がした方向を見ると丁度、濃紫の巫女装束の女性が向こうへ振り向いたところだった。

 ポニーテールが揺れている。

 

「あ! ありがとう。君は誰?」

 問いかけるが、そのまま去っていった。

 次の瞬間、空気が動くを感じた。


『あ……元に戻ったのか』

 俺は剣道場に一人突っ立っていた。

 手に天翔はない……あの刀は霊的存在だから元に戻れば消える。


『三次元と四次元の狭間と化したこの場に居られる人間が俺の他にもいるのか?」

 俺は、呆然としていた。

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