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攫われた聖女~魔族って、本当に悪なの?~  作者: 月輪林檎
可愛がられる聖女

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甘えん坊

 それから一週間。マーガレットとユーリーは、この期間にまたクララの部屋に来ることはなかった。つまり、いつも通りの時間が流れていたという事だ。ただ一つだけ違う事があった。それは、三人で食事を食べている事だ。ライナーに、足を折り畳めるテーブルと椅子を作って貰い、三人食べられるようにしたのだ。

 今も三人で朝食を食べていた。


「最近、マーガレットさんもユーリーさんもいらっしゃらないですね?」

「そうですね。お二人ともお忙しいのかもしれません。創作は時間が掛かるものですから」

「創作……あまりやった事ないかもしれないです」


 クララは、自分の人生を振り返って、絵画などの創作を一切やった事が無い事に気が付いた。


「そうですね。クララさんがやっている薬作りは、創作では無く既存の薬を作っている訳ですから」

「私もクララちゃんと同じでやったこと無いかも。リリンさんは、やった事ありますか?」

「いえ、私もないですね。学校でも芸術方面は学びませんでしたから」

「私も同じです。どちらかというと、運動の方を中心にやっていたって感じです」


 リリンもサーファもクララ同様創作に手を出した事はなかった。リリンもサーファも、どちらかと言うと、創作に興味がある訳では無く、リリンは勉学をサーファは運動を中心に学校生活を送っていた事が原因だ。


「あっ、でも、リリンさんの写真は創作に入るのでは?」

「写真ですか? そうですね。考えようによっては写真も創作なのかもしれません。という事は、私は、創作に手を出していたと考えられますね」


 リリンの趣味になり始めているクララの写真撮影は、創作と言えるだろう。少なくとも、クララ達はそう考えた。


「私も何か趣味を見つけた方が良いんでしょうか?」


 薬作りは趣味兼仕事と言えるが、どちらかというと仕事という側面が強い。新しい薬を作るなんて事は、まだクララにも出来ないので、普通の趣味を見つけた方が楽しいのかもと思い始めていた。それもこれも、魔族領での生活に慣れてきた事が要因だ。


「そうですね……クララさんが欲しいと思うのであれば、探してみるのも良いでしょう」

「クララちゃんがやりやすい物から攻めていくのが良いですよね。そうなると、お絵かきとかになるんでしょうか?」

「そうですね。道具を集めやすいものとなると、その辺になるでしょう。後日、城下町に降りた際には、そういったものを見に行きましょうか」

「はい!」


 また楽しみな事が増えたクララは、ウキウキとしなら朝ご飯を食べ進めていった。

 今日は、薬室での作業は休みの日なので、アリエスは来ていない。クララは、サーファと一緒に運動していた。


「ほらほら、頑張って」

「うぐぐぐ……」


 ノルマである腹筋十回と背筋十回と腕立て五回を二セット終わらせたクララは、そのまま倒れ伏した。


「段々と出来るようになってきたね」

「本当ですか!?」

「うん。後は、もっと体力を付けようね。今日は、演習場空いてますか?」

「ええ。確保は済ませてあります。お昼も用意しましたので、移動しましょう」


 クララ達は、演習場に向かう。そして、サーファとの追いかけっこを始める。サーファと捕まえれば、クララが要望するご飯が夕食で出て来るという約束があるため、クララは本気でサーファを捕まえようとする。だが、サーファも本気でやらないと意味が無いため、クララがサーファを捕まえた事は一度もない。

 それは今回も同じだった。


「はぁ……はぁ……」

「惜しかったね。でも、端っこまで追い込まれても、壁を使えば避けられる。また勉強になったね」

「それが出来るのは……一部……だけだと思います……」

「そうですね。少なくとも、クララさんには出来ない芸当でしょう」


 クララの元の身体能力では、身体強化を使ったとしてもサーファの様な動きをするのは不可能だ。クララはそれを痛感する。


「今日は上手くいくと思っていたのに……」

「うんうん。まっすぐ追い掛けなくなったのは良い事だよ。後は、相手の動きをもっと先読み出来ると良いかな」

「サーファの動きの先読みなんて難し過ぎですよ。左に行くと思ったら、右に跳ぶんですもん……」


 クララの言う通り、最近のサーファは巧妙なフェイントをいくつも混ぜている。そのため、先読みをしようにもしきれないのが現実だった。


「クララちゃんは、考え方が素直すぎるんだよ。根が良い子だからかな。相手の嫌がる事をしないとね」

「相手の嫌がる事……サーファさんの嫌がる事ですか?」

「うん。私がされたら嫌な事ってな~んだ?」


 そう問われて、クララはかなり悩む。サーファが嫌がる事が全く思いつかないからだ。


「全然分かりません」


 クララは、本当に何も思いつかずそう答えた。


「残念。正解は、クララちゃんなら何をされても、基本的に嫌じゃないでした」

「えっ……そんな答え有りですか?」

「有りだよ。事実だもん」


 サーファの反則的な答えにクララは、頬を膨らませて訴える。そんなクララの頭をリリンが優しく撫でる。


「サーファ、それでは意味がありませんよ。それは、あなた自身の嫌がる事の問題です。ここで考えなければいけない事は、逃げている相手が嫌がる事です」

「逃げている相手が嫌がる事ですか?

「はい。大事なのは、相手が誰であれ、逃げている立場の者が嫌がる事です。次からは、それを考えながら、動いてみましょう。はっきりと言って、かなり難しい事ですが、これが出来るのと出来ないのでは、捕まえられる確率が変わってくるでしょう」


 リリンの説明に、クララは納得する。そして、ある事にも気付く。


「サーファさん。絶対に意地悪しましたね?」

「あっ、気付かれちゃった。でも、ちゃんと本当の事は言ったよ? クララちゃんなら、基本的に何をされても嫌じゃないって」


 そんな事を言うサーファに対して、クララは両腕を伸ばす。何か分からず、サーファは、クララの手を取った。


「違います。サーファさんを追い掛けて、疲れたので抱っこしてください」


 クララがそう言うと、サーファはにっこりと笑う。


「全くもうクララちゃんは、甘えん坊だなぁ」


 サーファは嬉しそうにそう言うと、軽々とクララを抱き上げた。


「でも、クララちゃんを抱っこ出来るのも今の内かもしれないんだよね。これから、クララちゃんが成長したら、さすがに抱っこは厳しいし」

「えっ、でも、サーファさんは基本的に嫌な事はないんですよね?」

「どちらかと言うと、クララちゃんの方が恥ずかしくない?」

「…………」


 正論をぶつけられたクララは、そっぽを向く。そんなクララが可愛く思い、サーファは笑顔になっていた。


「そろそろお昼にしますよ」


 リリンがそう呼び掛けられたので、クララ達は一緒に観客席の方に移動する。そこでお昼を食べたクララ達は、少し休憩した後、また追いかけっこを始めた。

 言われた通り、クララは逃げ手が嫌がる事を考えながら攻めていったのだが、やはりサーファを捕まえる事は出来なかった。クララの考えが、かなり優しい方なので、あまり嫌がらせになっていない事とそもそも演習場という広く平らな場所では、あまり工夫が出来ないというのが大きかった。


(そろそろ街の外に出る許可を得て、森などで遊ぶようにした方が良いでしょうか。さすがに、ずっと同じ場所では飽きてしまいますし……)


 クララ達の追いかけっこを見ていたリリンは、そんな事を考えていた。マリンウッドは旅行という事で街の外に出る事が出来たが、今リリンが考えている事は、それとは大きく異なる。マリンウッドは一時的だが、こちらはいつでも出られるようになるからだ。


(マリンウッドでの功績もありますし、一蹴はされないでしょうが、クララさんの安全を考えると早すぎると思われるかもしれませんね。そこは、魔王様のお考え次第ですが、申請はしておきましょう)


 リリンはクララに内緒で外出許可申請をする事を決める。クララに黙っておく理由は、サプライズでクララを驚かせるためだ。

 そんな事を考えているリリンの元に、頬を膨らませて不機嫌になっているクララがやってきた。演習場での運動の日は、決まってそうなるので、リリンも心配などはせず小さく笑う。


「また駄目でした」

「はい。見ていましたから知っていますよ。そこまですぐに上手くいく事とは限りませんよ。ゆっくりと時間掛けて、どういう考え方が良いのか探れば良いのです」

「もっと早く捕まえたいです」

「焦っても仕方ない事だってあります」


 リリンはそう言いながら、クララの頭を撫でる。それだけでクララの機嫌も少しずつ直っていく。そこにサーファも加わって頬を揉む事で、完全に機嫌が戻った。


「では、魔王城に戻って浴場に向かいましょう。クララさんも汗だくですから」

「はい」


 魔王城に戻ったクララは、まっすぐに浴場に向かう。サーファと先にお風呂に入り、着替えを持ってきたリリンが後で合流する。汗を流して、十分に温まった後、またサーファと一緒に部屋に戻り、リリンが夕食を持ってくる。

 今日は運動の日だったので、いつもよりも多めに食事が運ばれてくる。その中には、リリンとサーファの食事も含まれている。

 三人の食事を楽しみ、食器を片付けた後、いつも通りのリリンによる講義が始まる。その予定だったのだが、それは唐突に開いた扉によって遮られた。

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