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攫われた聖女~魔族って、本当に悪なの?~  作者: 月輪林檎
可愛がられる聖女

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浴場での遭遇

 あまりにも早い入眠に、リリンは少し呆れたような表情になったが、二人ともベッドにいれば掃除の邪魔にもならないので、ちょうどいいと考え、自分の仕事を続けていった。

 そして、掃除を済ませたリリンは、薬室に入りアリエスの様子を確認する。


「順調ですか?」

「あ、はい。作れなかった期間の分を補填は出来ませんが、ある程度持ち直せたと思います」

「数的には、まだ余裕はありますので、そこまで焦る必要はありませんよ。今日は、後片付けをして下さったら、帰宅して頂いて大丈夫です。ご苦労様でした」

「は、はい!」


 アリエスの様子を確認し終えたリリンは、クララの部屋に戻って、寝ている二人を見る。クララもサーファも、全く起きる気配はなかった。


(夕食を持ってくれば、起きるでしょう)


 そう判断して、厨房に夕食を貰いに行って戻ってくると、夕食の匂いに反応したサーファが起きる。


「もう夕食の時間でしたか……?」

「ええ。クララさんも起こして下さい」

「はい。クララちゃん。ご飯だよ」

「むぅ……? お肉……?」

「お肉と言えばお肉だけど、違うよ。ご飯はあっち」


 寝ぼけているクララを、サーファが席に持っていく。そして、寝ぼけながら食事を始める。


「サーファもご飯を食べて来ちゃって下さい。この後のお風呂は任せます」

「分かりました」


 サーファは、夕飯を食べるために自室に戻っていった。


「そろそろ皆で一緒に食べられるようにはなれないんですか?」

「そうですね……三度の誘拐があり、常に動ける態勢を保つ必要がありましたが、そろそろ良い機会かもしれませんね。ライナーに折り畳みのテーブルを注文しておきます」


 リリン達と一緒にご飯を食べられるようになると分かり、クララはご機嫌に身体を揺らしていたが、行儀が悪いので、リリンによってすぐに止められた。

 そうして、夕食を食べ終わったクララは、同じく夕食を食べ終えたサーファを一緒に浴場へ向かう。その道のりで、先程リリンと話した内容を、サーファともしていた。


「へぇ~、じゃあ、今度から皆でご飯を食べられるようになるんだね」

「はい! 楽しみです!」

「だから、ウキウキだったのか。クララちゃん、ご飯好きだもんね。それに、皆で一緒に食べた方が楽しいしね」

「はい!」


 るんるん気分のクララと浴場に入り、いつも通り、サーファがクララの事を洗う。いつもなら、この後は湯船近くでクララが待っているのだが、今日は違った。


「今度は私が洗ってあげます!」

「えっ? クララちゃんが? う~ん……じゃあ、お願いしようかな」

「はい!」


 サーファから許可が出たので、クララはサーファの後ろに移動する。


(前にサラさんと洗いっこしたって言っていたし、また洗いたくなったのかな?)


 唐突にクララが洗いたいと言い出した事を、サーファはそんな風に考えていた。

 クララは、まず最初に、サーファの頭を洗う。そこで、クララは一つ気になった事があった。


「耳の方はどうしたらいいんですか?」


 サーファの頭には、クララやサラにはない犬の耳がある。その取り扱いが分からなかったのだ。


「強く触られると痛いけど、それくらいだから、普通に洗って良いよ」

「分かりました」


 クララは、耳の周辺を特に慎重に洗っていった。頭を洗い終えた後は、いつもやって貰っている髪の手入れもしていく。


「それじゃあ、次は身体ですね」

「じゃあ、このタオル使って」


 ボディタオルを渡されたクララは、首を傾げる。


「手で洗うんじゃないんですか?」


 いつも手で洗われているので、てっきり手で洗うものだと思っていたのだ。


「ああ、まぁ、そうだね。クララちゃんの肌を考えて手で洗っているけど、こっちの方が洗いやすいと思うよ」

「そうなんですか?」

「うん。ちょっと貸して」


 クララからボディタオルを受け取ったサーファは、石鹸を使って泡立てていく。


「もこもこです」

「ね?」


 泡立ったボディタオルを受け取ったクララは、サーファの背中から洗っていく。そして、腕を経て前を洗い始めた時、クララの表情が無表情になった。


「やっぱり大きい……」

「クララちゃん? 揉むのは構わないけど、洗ってからにしようね?」

「あ、そうでした」


 無心で胸を揉み始めたクララにそう伝えると、我に返ったクララは、すぐにサーファの身体を洗い始める。自分がやって貰っている通りに洗っていき、最後の泡を流して終わりだ。


「ありがとう、クララちゃん。おかげで綺麗になったよ」


 サーファがお礼を言うと、クララはやり遂げたという表情で笑った。そんなクララの頬に手を当ててうりうりと揉む。


「それじゃあ、湯船に入ろうか」

「はい」


 サーファが先に湯船に入り、クララが後に続いて入る。マリンウッドでのプールと海の経験から、魔王城の浴場でも浅い位置なら抱えられなくても入れるようになった。念のため、常にリリンかサーファと手は繋いでいる。

 一緒に温まっていると、浴場の入口が開いた音がする。リリンが来たのかと思い、クララがそっちを向くと、そこには一糸纏わぬ姿のユーリーがいた。ユーリーは、クララ達を一瞥した後、洗い場で身体を洗い始める。


「ユーリーさんも、ここを使うんですね」

「まぁ、カタリナ様も使うからね。ユーリー様やマーガレット様も使うよ」


 そんな風に話していると、クララ達の傍にユーリーがやってくる。


「ユーリーさん、こんばんは」

「こんばんは。あなた達も使っているのね。ああ、だから、女性限定の看板が掛けられるようになったのか」


 クララの入浴中に、間違ってガーランドなどが入らないように、女性限定という看板が掛けられるようになっている。そのため、女性であれば誰でも入れる状態ではあるということだ。


「魔王様が気を遣って下さいました」

「だと思った」


 クララの補足にユーリーは納得していた。自分の父親なので、やりそうな事は分かっているというところだろう。


「クララには大きいと思う」

「はい。なので、ちょっと前までは、サーファさん達に抱っこして貰わないと入れませんでした」

「そう。可愛い」


 ユーリーはそう言って、クララの頭を撫でる。


「そういえば、ユーリーさんがデザイナーをしているって聞きました」

「……言ってなかった?」

「ユーリーさん達からは何も聞かされてないです」

「あ、ごめん」


 自分で言っていなかった事を忘れていたユーリーは、素直に謝った。


「一応、服のデザイナーをしてる。今は、クララの服をデザインしてる。良いアイデアが出たから、期待しておいて」

「えっと、ありがとうございます。でも、何で私の服を?」


 クララは、気になっていた事を直接本人に問いかけた。


「クララは、妹みたいなものだから」

「妹ですか?」


 予想していなかった答えに、クララは面食らっていた。


「お母さんがクララの事を気に入ってる。多分、クララが死ぬまでは面倒を見るはず。ということは、クララが妹と言っても過言では無い。そういう事」


 ユーリーの言葉に、クララは唖然としてしまう。


「私も姉さんも最初は疑ってた。本当にお母さんの言うような人物なのかって。でも、実際は、それ以上だった。お母さんの手紙では、クララの可愛さを半分も表せていなかった。こんな可愛い子なら、私達も歓迎する。手紙の通り良い子だし」


 ユーリーは、クララを抱っこしながらそう言う。


「後、私と一緒で胸が薄い」

「え……そういう繋がりですか……?」


 服に隠れている時は、あまり分からなかったが、ユーリーは、カタリナやサーファと比べると胸が薄い。それは事実だった。だが、それでもクララよりはある。


「そういう意味では、サーファは敵になる」

「え!?」


 唐突な敵認定に、サーファも驚きが隠せない。


「取りあえず、後でサイズを測る。クララのに集中しすぎて、サーファの物を忘れていた」

「えっ!? わ、私のも作って頂けるのですか!?」


 今度は別の理由で、サーファが驚く。それも嬉しい方の驚きだ。その証拠に、サーファは目を輝かせている。


「うん。クララが世話になってるから。それに、その大きさの物はあまり作らない。だから、良い機会」


 ユーリーのデザインは、自分の身体を参考にして行われる事が多い。そのため、自分よりもスタイルの良いサーファのようなサイズは、あまり作った事がなかった。

 このことから、ユーリーのようなスレンダー体型の者からは、感謝の嵐だったが、ユーリーのデザインが良いものなだけに、サーファのような体型の者達からは、もっとサイズを増やして欲しいと要望を受けていたのだ。


「リリンさんの分は……?」


 これまでの話にリリンが出てこなかったので、少し気になってクララが訊く。


「リリンは、何度か作ってる。メイド服も実は私のデザイン」

「えっ!? そうだったんですか!?」


 まさかの事実に、クララは目を剥いていた。リリンのメイド服は、かなり良い物になっている。服としての完成度が高いのだ。だからこそ、リリン自身も愛用している。


「因みに、私服のプレゼントもしてる。諜報部隊に入った時から知ってたから。とても優秀で、誰とも結ばれようとしない変わったサキュバスだったから、興味があった」


 ユーリーは、先にクララから質問されるであろう事も含めて、説明した。


「へぇ~、じゃあ、リリンさんとはお友達だったんですね」

「まぁ、そんな感じ。真面目だから、友達のようには接してくれないけど」

「意外な繋がりです」

「実は、私達がクララを信用している理由は、そこにもある」


 カタリナからの手紙の他に、傍にリリンがいる事自体が、信用に値するものとユーリー達は考えていた。そして、実際に触れあって本当に信用して良いと判断出来たのだ。

 そんな話をしていると、リリンが浴場にやってきた。リリンは、手早く自身を洗っていき、クララ達の元までやってくる。


「ユーリー様もご一緒だとは思いませんでした」

「偶々」

「クララさんは、のぼせていませんか?」

「はい。まだ大丈夫です」


 クララの言葉と顔色などの状態から、本当にまだ大丈夫だとリリンは判断する。


「リリンさんが、ユーリーさんと友達って聞きました」

「そうですね。畏れ多い事ですが、ユーリー様とマーガレット様は、私を友人として扱ってくださいます」

「友達って言うのに、こんなに堅苦しい」

「でも、リリンさんの良いところだと思います」

「さすがクララ。ちゃんと分かってる。ちょっと不満なところだけど、リリンの良いところ」


 ユーリーは、クララの頭を撫でてあげながら褒める。


「もしかしてですが、私の話で盛り上がっていたのですか?」

「話すなら共通の話題になる。当然、リリンの事になる。そういうもの」

「なるほど……クララさんが楽しんで頂けたのであれば良いですが」

「凄くびっくりしました!」


 クララは、少し興奮気味にそう言った。リリンの貴重な過去の一端を聞けたのが嬉しかったのだ。クララのその気持ちに気付いたリリンは、小さく笑う。それを見たユーリーは、少し驚いていた。リリンの笑った顔など、あまり見た事がないからだった。


「そうでしょう。私が変わり者のサキュバスだったので、ご興味を抱いて頂けたのが、始まりでした。最初は、それだけで終わりだと思っていたのですが、ほぼ毎日のように会いに来て下さった時は、嬉しさよりも先に疑問の方が強くなりましたから」

「あの時は、自分達の知らないものに興味があったから。リリンの事をよく知ろうとして、通ってた。そしたら、仲良くなれた」

「そういう縁で、服を作って貰っていたんですね」

「そういう事です」


 そこまで詳細な過去話ではなかったが、それでもクララは満足していた。


「さて、これ以上はクララさんがのぼせてしまいますので、お開きとしましょう」

「分かった」


 ユーリーも揃って、浴場を出たクララはリリンに身体を拭いて貰い、着替えもしてもらう。その間に、サーファはユーリーから採寸をされていた。


「サーファも服を作って貰えるようですね」

「はい。私の服ばかり考えて忘れてしまっていたらしいです」

「なるほど。ユーリー様らしいです」


 サーファの採寸が終わるのを待ってから、クララ達は部屋にも戻る。ユーリーは、クララの部屋の前で別れた。その後、リリンの講義を受け、クララ達は就寝した。

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