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ちょっとした日常

 翌日は器具の追加と材料の追加もまだだったので、アリエス一人に薬室を任せて、クララはリリンの監視の下、運動をさせられた。普段のクララの姿も見せようとサーファが、少しだけ扉を開けて運動をさせられているところをアリエスに見せると、アリエスはかなり驚いていた。


「ク、クララも運動するんですね」

「どちらかと言うと、無理矢理させているんだけどね。クララちゃん、ここに来るまで栄養失調とかで大変だったからね。ちゃんとした食事も摂れるようになったから、運動して筋肉も付けようとって話になったんだ。それと脂肪落としね。クララちゃん、沢山食べるから」

「へ、へぇ~……」


 世間で広まっている魔聖女像とかけ離れた姿に、アリエスは少し驚きつつも親近感を抱いた。

 その翌日は、器具が届いたものの、まだ材料が増えないので、アリエスにまた薬室を任せて、ベルフェゴールによる講義を受けた。旅行を挟んで久しぶりの講義なので、ベルフェゴールが興奮している可能性もあったが、思いのほか落ち着いていた。


「これはこれは、旅行にてまた一段と成長されたようですな。魔力暴走は起こりませんでしたかな?」

「あっ、そういえば、起こりませんでした。でも、私、魔力の使いすぎで倒れましたよ?」


 魔力の使いすぎで倒れたのだから、魔力暴走が起こっても不思議ではなかった。治療を終えて部屋に戻った時は、魔力暴走を起こすのではないかとサーファと話してもいた。だが、実際には魔力暴走を起こさなかった。


「ふむ。聖女殿の話を踏まえて考えますと、魔力暴走によって増えた魔力許容限界が思っていたよりも大きく増えているのやもしれません」

「おお……それって良い事ですよね?」


 自分が思っていた以上に成長していると考えたクララは、少し嬉しそうに両手を握っていた。それを見て鼻血を出しているベルフェゴールは、そのまま難しい顔をしていた。


「いえ……そうとも言い切れませんな。魔力許容限界がこちらの予想よりも伸びているのであれば、聖女殿の成長限界はまだまだ先という事になります。そうなれば、歴代の聖女の魔力量を超える可能性も出てきます」

「それは悪い事なんですか?」


 クララからすると、魔力量が増えるのは良い事なのではという認識だった。だが、ベルフェゴールは違う。


「強大な魔力量を持つと言う事は、それだけ強大な魔法を扱えるようになる可能性が高いということです。これを聖女殿限定に置き換えれば、より強大な聖女の力を使えるようになるという事です。聖女殿は良い事とお考えのようですが、世の中同じ考えばかりとは思わぬ方が良いかと」

「私の力を疎む人が出て来るって事ですか?」

「まさに、その通りです」


 敵対していた時のクララの力は、魔族を若干弱体化させる程度だった。その事自体は、魔族間で共有されているが、それに加えて魔聖女になった後の力も知れ渡っている。だが、それは回復の力。そして、勇者の力を無力化するという力。ここまでは魔族ともっても良い事なのだが、それ以上の力となると魔族も不安になる者が出て来てもおかしくない。いずれは、自分達に返ってくるかもしれないからだ。

 ベルフェゴールと話して、その可能性に気付いたクララは、一瞬悲しげな顔になったがすぐにまっすぐ決意のある目になった。


「私は、それでも力を上げたいです。もし私の力を疎む人が出て来るのなら、その人も安心させられるような聖女になります。だから、これからもご指導お願いします」


 そう言って頭を下げるクララに、ベルフェゴールは大きく頷く。


「決意は固いようですな。良いでしょう。聖女の力に関しては、私の方でも情報を集めます。それが実るまでは、通常の魔法を使えるように指導していきます。その他基礎知識の方は、リリン殿に任せましょう。その方が、聖女殿もやりやすいでしょう」


 そう言われて、クララはリリンを見ると、リリンは頷く。その後に、リリンはジト目でベルフェゴールを見る。


「それは引き受けますが、取りあえず床に落ちた鼻血を綺麗にして貰えますでしょうか?」

「おっと、これは失礼」


 その後、クララはいつも通り、ベルフェゴールの魔法講義を受けた。その様子もサーファと一緒にちらっと覗いていたアリエスは、昨日に引き続き世間に広まった魔聖女像とは違う地道な姿に驚いていた


「いつもああいった講義を受けているんですか?」

「いつもってわけじゃないけど、日程を決めて受けてるよ。クララちゃんの持っている知識は偏っていたからね。こうして通常の魔法も覚えていこうって話になったんだ。一応自衛のためだけど」

「ここに来る前のクララって、あまり良い環境にいなかったんですよね?」

「うん。だから、余計にああいう事に向き合えるんじゃないかな? 今のクララちゃんは、どちらかというと恵まれているからね」

「確かに、そうですね……」


 アリエスは、こんな魔聖女に助けられて仕事まで与えて貰えたのだから、自分が返せるものは全部返そうと、改めて自分の心の中で気合いを入れた。そんな様子を傍から見ていたサーファは、小さく笑う。


(クララちゃんの影響力は、やっぱり大きいな。傍にいるだけでも、周囲を鼓舞出来ちゃうんだから。もしかしたら、こういったところも聖女として選ばれた理由なのかも)


 そこまで考えてから、サーファは音を立てないように扉を閉める。


「それじゃあ、私達も仕事の続きをしようか」

「はい」


 アリエスとサーファは、薬の調合を再開した。そのやる気は、先程までよりも高い。それは、さっきのクララの言葉と姿勢に当てられたからだった。

 さらに、その翌日。これまでよりも量の増えた材料が届いたので、クララも一緒に薬室で薬作りに励んだ。モイスの実も届いているので、そちらの処理などもアリエスとしていく。その中で、クララはある事に気付いた。


「何か張り切ってるね。何かあったの?」


 アリエスが妙に張り切っているのだ。それをおかしいとは思わないが、なんでだろうと不思議に思っていた。


「ううん。ただクララの役に立とうと思ってるだけだよ」


 これは、アリエスの本心だ。きっかけは言っていないが、きちんと嘘は言っていない。だから、クララも素直に納得した。


「それは嬉しいけど、あまり無理はしないようにね。定期的な休みは取れるようにしているから、その時はしっかり休む事」

「あ、うん」


 一応、一週間に一日は休みを設けている。二日の方が良いかとクララは思っていたのだが、少しでも貢献したいというアリエスの意志で一日だけになった。

 その休みは明日になっている。というのも、明日はクララも魔王軍の演習を手伝いに行かないといけないからだ。


「そういえば、アリエスは、そろそろ魔王城に慣れた?」

「えっ……あ……う、うん……」

「う~ん……もう少し掛かりそうだね。でも、近い内に、アリエス一人でも薬室で作業して貰う事になるから、頑張ってね?」

「う、うん。頑張る!」


 一人で魔王城に来られるかどうかが、アリエスにとって一番の難関になるだろう。だが、アリエスもここで躓いては、これから先やっていけないと分かっている。そのため、一日でも早く慣れようと、改めて決心した。

 翌日。クララは、リリンとサーファに連れられて、演習場へと赴いた。いつも通り観戦席から演習を見学していた。


「何だか、前よりも激しい演習が増えましたね」

「そうですね。今後、起こりうる戦闘に備えているのかと」

「勇者が、ここまで来そうなんですか?」


 戦闘が起こる可能性が高いという事は、必然的に勇者がここまで来ると考えられる。


「いえ、その可能性は、まだ低いかと。ですが、確実に近づいていると考えての演習でしょう。その分怪我も付きまといますので、クララさんの出番は多くなるでしょう」

「うっ、が、頑張ります」


 クララは、自分の杖を強く握りしめながら意気込む。


(恐らくはベルフェゴール殿の提案でしょう。この前のクララさんの発言を受けて、クララさんの成長を促すつもりなのでしょう。ついでに、軍の強化を兼ねているというところでしょうか。あの方は、本当にどこまで考えているのか分かりませんね)


 リリンはそう考えながら、クララ達と一緒に演習を観ていた。

 そして、案の定、クララは大忙しだった。ただ、それは治療に奔走していたというだけでなく、マリンウッドがどうだったなど、女子会に巻き込まれたというのもあった。

 その日の夜。クララは、ベッドの上でリリンの講義を受けていた。毎日という訳では無いが、この前のマリンウッドから定期的に講義をして貰っていた。当然サーファも一緒に受けている。魔王城での講義という事もあって、教材として地図や本などが持ってこられている。

 クララは、興味深そうに地図や本を見ながら、リリンの話を聞いていた。サーファの方もクララを後ろから抱きしめながら一緒に見ていたが、若干微妙に間違って覚えていたりもしたので、リリンから怒られていた。怒られる度に悲鳴を上げているので、クララも可哀想にと思うのと同時に、怒られないようにしっかりと勉強しようと決めた。

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