噴火の翌日
翌日の朝。クララは、昨日の疲れが取れておらず、ベッドの上でゴロゴロとしていた。
「クララさん、起きましたか?」
「は~い……」
ベッドの中で返事をすると、リリンに掛け布団を取り上げられる。
「そこに正座しなさい」
「えっ……?」
「正座しなさい」
リリンに命令されて、クララは、怖ず怖ずとベッドの上で正座をする。そして、昨日無理をして治療をしていた事について、こっ酷く怒られた
「怪我を負った方々を治したいという気持ちは大事ですが、それでご自身が倒れるなど、あってはならないことです。誰かを助けたいと願うのなら、まずは自分の体調を保てるようにして下さい。分かりましたね?」
「はい……すみませんでした……」
クララが反省の意思を見せると、リリンは小さく息を吐いた。
「反省したようなら良いです。朝ご飯も出来ていますので、歯磨きと洗顔をしに行きましょう」
「はい」
クララの背を押して、洗面所に連れて行くと、歯磨きと洗顔をさせた。ある程度すっきりしたクララは、居間の食卓に着く。
「おはよう、クララちゃん」
「おはようございます、サーファさん」
全員が食卓に着いたところで、朝食を食べ始める。顔を洗って、いつも通りに戻ったクララは、ある事を思い出した。
「そういえば、今日は、どうするんですか?」
「取りあえず、メイリーの元に行こうと思います。クララさんも一緒に来ますか?」
「行きます」
「では、全員で行きますか。サーファもそれでいいですか?」
「はい」
リリンは、元々一人でメイリーの話を訊き行くつもりだったが、クララも行くと言い出したので、結局全員で行く事になった。
朝食を食べた後、リリンが洗い物をしている間、サーファがクララの身支度を手伝う。今回は、昨日の反省を踏まえて、杖を一緒に持っていく事にした。
「準備は出来たようですね。それでは、参りましょう」
「は~い」
昨日メイド服はまだ乾いていないので、リリンは予備のメイド服を着ている。クララ達は、昨日と同じようにして、マーメイディアへと向かっていった。
マーメイディアの目の前まで来ると、メイリーが現れた。風玉で音は聞こえにくいので、メイリーが昨日も使った建物を指さす。そこで話そうという事だ。その指示通りに、クララ達は建物の中に入っていく。
「態々来なくても、伝令を頼んでくれたら、こっちから出向いたのに」
「伝令を捕まえるよりも、こっちから出向いた方が早いですから」
「まぁ、それはそうよね」
「それで、今後の動きはどうなるのですか?」
リリンは、すぐに本題へと移った。リリンの質問を、メイリーは最初から予測していた。
「まあ、それが気になるわよね。現状は、様子見というところよ。昨日発生した火災は、全て鎮火したけど、今朝方また発生したわ。しばらくは、似たような事が続くかもしれないわね。一応、あなた達がいた観光区は、被害がほぼないから、通常営業出来るけど、職員が足りないのよ。だから、しばらくは再開しないと思うわ」
「そうですか」
「じゃ、じゃあ、また怪我人が出たりしているんですか?」
二人の話に、クララが入り込む。また火災が起きているという事は、被害に遭っている人もいるかもしれないからだ。
「対処した職員にだけね。治療は間に合っているから、安心して」
「そうですか。それは良かったです」
「そうだ。まだ、ちゃんとお礼を言えていなかったわね。本当にありがとう。あなたのおかげで、被害が最小限に済んだわ」
メイリーはそう言いながら、クララを抱きしめる。
「いえ、自分の出来る事をしただけですから」
「本当に良い子ね」
メイリーは、クララを抱きしめたまま頭を撫でる。
「後、リリンには、悪いんだけど」
「消火活動を手伝って欲しいという事ですね。分かりました」
「悪いわね。複数の場所で、ほぼ同時に発生しているから、職員の手が回らないのよ」
「分かっています。取りあえず、詳しい場所を教えてください」
「分かったわ」
メイリーは、手振りで外にいる人魚に地図を持ってこさせる。それを受けとり、リリンに場所を示していった。
「なるほど。これだと人数が分散してしまうのも分かります」
「でしょ? それじゃあよろしく。その間、魔聖女ちゃん達はどうする? さっきも言ったけど、遊園地や魔物動物園は営業していないんだけど」
メイリーの腕の中で、そう訊かれたクララは、少し考える。
「リリンさんに付いていって、怪我人に備えます」
「その場で治療をしてくれるって事? それは嬉しいけど、安全な場所で遊んでくれていても良いのよ? そのくらいの事はしてくれたんだから」
メアリーは、招待して来てもらったというのに、そんな働きっぱなしで良いのかと思っていた。
「もう十分に楽しませて貰いましたから。そのお返しです」
「そのお返しが十分って事だったのだけど……まぁ、魔聖女ちゃんが良いならお願いするわ。怪我人が少なくなるのは、大歓迎だから」
「サーファは、クララさんに付いていてください」
「分かりました」
「それでは、私達は行って来ます」
「ありがとう。お願いね」
クララ達は、メイリーから教えてもらった火災現場に向かって、昨日と同じ風玉を飛ばす形で現場に向かっていった。
火災現場は、小規模な火災が起きているくらいで、昨日のような大規模な火災に発展しているという事はなかった。だが、所々で爆発が起きていた。
「な、何で爆発が起こっているんですか?」
「恐らく、可燃物が置いてあったのでしょう。急な避難で、安全な場所に移動させられなかったのかもしれませんね。危険ですから、お二人は少し離れたところで待機していてください」
「分かりました」
「では、私は消火に行ってきます。サーファ、頼みましたよ」
「はい」
リリンは、街の方へと向かった。それを見送ってから、サーファ達も移動を始めた。取りあえず、街の外で魔族達が集まっている場所に向かった。怪我人がいれば、早く治さないといけないので、サーファがクララを抱き上げて移動している。
クララ達が近づいていくと、一人の魔族がクララ達に気が付いた。
「魔聖女様。わざわざお越し頂きありがとうございます」
「いえ、そんなに畏まらないでください。それよりも私に出来る事はありますか?」
畏まってクララを歓迎する魔族にクララはそう言う。
「では、怪我人の治療をお願いします。先程の爆発で、怪我を負った者がいますので」
「分かりました。案内して下さい」
「はい」
クララは、案内して貰った場所で魔族達の治療を行う。その間、サーファは、クララの助手として、包帯を巻いたり、水を飲ませたりなど、自分に出来る事を手伝った。
ここの患者は、爆破の影響で火傷や裂傷を負った者がほとんどだった。昨日の経験で、また傷を治す速度が上がったクララは、次々に治していき、僅か三十分で全員を治し終えた。
「終わりました」
「は、早いですね……」
クララの治療を見ていた魔族達は、唖然としていた。昨日も避難所では無く、街の消火などに向かっていたので、クララの治療を初めて見たためだった。
「他に何か手伝える事はありますか?」
「いえ、今のところはありません」
「そうですか……じゃあ、リリンさんが戻ってくるまで、ここで待たせて貰いますね。怪我をした人がいたら、いつでも言って下さい」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きます」
それから滞在最終日までの間、クララ達は、街の復興に手を貸し続けた。これは、クララ自身が言い出した事なので、特に文句が出るという事もなかった。




