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攫われた聖女~魔族って、本当に悪なの?~  作者: 月輪林檎
聖女の旅行

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避難所での手伝い

 クララ達を乗せた船は、一時間掛けて避難所近くの港まで航行した。住人達が、下船して避難所に向かっている中、サーファもクララを抱えて下船した。

 そして、近くに顔を出した人魚の元に近づく。


「すみません。今の状況ってどうなっていますか?」


 避難の手伝いをしていたサーファ達は、避難所周辺の情報を持っていない。そのため、今がどんな状況なのか分からないままだった。


「今来た船で、全ての街から避難が完了しました。後は、噴火が落ち着くのを待つだけです」

「そうですか。怪我人はどうでしょうか?」

「少なからず出ています」

「分かりました。クララちゃんが治療出来ますので、お手伝いします」

「それは頼もしいです。ですが、その……大丈夫なのですか?」


 人魚は、サーファに抱えられて眠っているクララを見てそう言った。


「はい。今は休んでいるだけですので、向こうに着いたら起きます。教えて頂きありがとうございました」

「いえ、こちらの方こそ、避難を手伝って頂きありがとうございました」


 サーファと人魚は、互いに頭を下げてから、それぞれ動き出した。人魚は、自分の仕事をしに、サーファは、避難所近くにいるであろう負傷者達の元に向かっていく。途中で、他の魔族に場所を確認して、そこにクララを連れて行った。


「クララちゃん、起きて」

「むぅ……」


 クララは目を開けて、サーファに抱かれたまま身体を伸ばす。


「サーファさんは、私の杖を持ってきてくれますか?」

「了解。効率良く治療するには必要だもんね。私が到着するまでは、能力は控える事。良いね?」

「分かってます」


 クララとサーファは、避難所近くで別れる。クララは、負傷者がいる場所に向かう。


「治療の手伝いに来ました」

「魔聖女様ですね。話は伺っています。ご協力に感謝します。向こうで、重傷者の治療をしておりますので、そちらの手伝いをお願いします」

「分かりました」


 クララは、すぐに重傷者達が寝かされている場所へと向かった。ここにいる重傷者は、避難誘導をしていた職員が多かった。火傷の患者が多い事から、火災現場での誘導をしていて炎に巻かれたものが多いのだろう。先程の治療もあり、火傷の治すコツを掴んだクララは、どんどんと火傷患者を治している。

 そこに杖を持ったサーファが合流する。


「クララちゃん、持ってきたよ」

「ありがとうございます。サーファさんは、避難所の方を手伝ってあげて下さい。まだまだ混乱の真っ只中みたいですから」

「そうだね。クララちゃん、無理はしないでね」

「はい!」


 クララと別れたサーファは、避難所の手伝いに向かって行った。それを見送ったクララは、すぐに治療を再開する。杖を手に入れたクララは、先程までの倍の速度で負傷者達を治していった。

 その治療速度に、近くを通りがかった医者と看護師は目を剥いていた。

 火傷の患者を全て治療したところで、ニャミーがクララに近づいてくる。その手には一本の瓶が握られていた。


「魔聖女様。こちらをお飲み下さい」

「これは?」

「魔力回復薬です。薬剤師から受け取って来ました。先程は倒れられてしまいましたので、こちらで魔力を回復された方が良いかと思いまして」

「魔力回復薬……確か、高級品だった気がするんですが」


 クララは、薬学書の内容を思い出しながら、ニャミーに確認する。


「えっと……魔聖女様の力を最大限活用するためと思って下さい。実際、そう言って交渉しましたので」


 ニャミー自身は、クララがまた倒れてしまうかもしれないと考えて貰おうとしたたのだが、それだけでは魔力回復薬を貰えなかったので、別の理由を作って貰ってきたのだ。


「それなら、有り難く頂きますね」


 ニャミーのそんな気遣いに気付いたクララは、ここで遠慮するのは悪いと考えて瓶を受け取り、栓を開ける。


「あっ、結構苦いので……お気をつけ……」


 苦い味だから気を付けろと言おうとしたニャミーだったが、その間にクララが口を付けてごくごくと飲み始めてしまったので、声が尻すぼみになっていった。

 そして、全て飲み干したクララは、なんともいえない表情になっていた。


「美味しくないです……」

「あ、はい。そういうものですから。ですが、魔力が回復している事が、実感出来るはずです」


 そう言われたクララは、自分の身体がぽかぽかとしてきている事に気が付いた。これが、急激に魔力が回復し始めている証だった。


「ありがとうございます。これで、また治療が出来ます」

「いえ。私に手伝える事があれば、なんでもお申し付け下さい」

「分かりました。取りあえず、今のところはないので、ニャミーさんのお仕事をしてください」

「はい」


 魔力が八割まで回復したクララは、次々に負傷者を治していき、一時間半で全ての重傷者の治療を終わらせる事が出来た。


「もう重傷者はいませんね?」

「はい。ここに収容された重傷者は、全員治療を終えました。お疲れ様です」

「それじゃあ、次は軽傷者の方々の治療に向かいます。軽傷者の方々はどういった形式で治療をしているんですか?」

「えっと、歩ける方は、列に並んで治療待ちをしてもらい、足を怪我して動けない人は、医者の方が出向きます。なので、作業分担して治療を行っています」


 全員のところに医者が回ると、治療したかどうかが分からなくなり、混乱が生じるという事になり、こういった形での治療形式となった。動けない程の怪我を負っている人数は、そこまで多くないので、そっちだけに絞れば混乱も少なくて済む。

 この理由から、クララは患者が来るまで待機して診療する事になった。ニャミーは、クララの補佐として一緒にクララのブースで働く。

 クララの治療は、【診断】と【治癒】の二つの能力で治していく他、薬だけで治療が完了する見込みのある患者に対しては、処方箋を書いて渡した。処方箋に関しては、ニャミーが書き方を教えてくれたので、最初以外手こずる事はなかった。薬は、薬剤師達が用意する事になっている。この状況下で薬を用意してくれる薬剤師には、医者達も頭が上がらない。

 聖女の能力という事もあって、通常の医者よりも遙かに早く治療を終えていった。


「魔聖女様。そろそろお休みしましょう。もう三時間も働きっぱなしです」

「えっ? でも、まだ患者さんがいますよね?」

「いるにはいますが、後は、他の医者でも対応出来る範囲ですので、大丈夫です。魔聖女様は、他の医者以上に治療をして頂いたので、先に休憩してください」

「そうですか? 分かりました」


 患者の数は、もう他の医者だけで治療が出来る数まで減っていた。つまり、この場でクララが出来る事は、もうなくなったと言える。

 ニャミーと一緒に救護用区画から出ていったクララは、ニャミーの案内で避難所まで向かい、手伝いをしているはずのサーファを探す。


「えっと……あっ、いた!」


 サーファを見つけたクララは、すぐに駆け寄っていく。


「サーファさん」

「ん? あ、クララちゃん。お手伝いは終わった?」

「はい」

「それなら良かった。私も、この荷物を運んだら終わりだから、ちょっと待ってね」

「分かりました」


 サーファは、少し早歩きで荷物を運び、所定の位置に置いて戻ってきた。


「お待たせ。ここにいたら、迷惑になるかもだから、外に出ようか」


 クララとニャミーは、サーファに背中を押されて外へと出て行った。


「クララちゃんの面倒を見て頂いてありがとうございました」


 外に出て、人の邪魔にならないところに移動した後、サーファはそう言って、ニャミーに頭を下げた。ニャミーは、慌てながら両手を横に振る。


「た、大した事はしてないです」

「魔力回復薬とか貰いました。それに、色々と配慮してくれたので、こっちでもやりやすかったです」

「本当にお世話になりました」


 サーファは、改めて頭を深く下げる。それに対して、ニャミーは、ペコペコと頭を下げていた。


「ニャミーさんは、これからどうするんですか?」

「しばらくは仕事もないので、避難所で休むと思います」

「そうなんですか。そういえば、私達は、これからどうするんですか?」


 ニャミーに予定を訊いた後で、クララは自分の今後の予定が全く分からない事を思い出したのだった。


「今のところ、予定はないかな。リリンさんと合流しないといけないから、ここか宿の方で待つって感じ。クララちゃんは、どっちが良い?」

「宿も安全なんですか?」

「今のところ大丈夫だよ。安全域には入っているから。火山灰も風向きの関係で西にだけ降り注いでいるみたいだし」

「それじゃあ、宿の方に移動しませんか? ここにお世話になり続けるわけにもいかないと思うんです」

「そうだね」

「では、私は、ここで失礼します。魔聖女様、サーファ様、失礼します」

「あ、はい! ありがとうございました!」


 頭を下げるニャミーに対して、クララも頭を下げた。そこで、ニャミーと別れて、クララ達は宿の方に戻っていった。

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