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クララの治療

 リリンを見送ったクララは、看護師の猫族と向き合う。


「私の能力は、重傷者でも治す事が出来ます。なので、そちらから優先して治療をしたいのですが」

「分かりました。ところで、魔聖女様は、死者を蘇らせる事は出来るでしょうか?」


 そう訊かれた瞬間、クララの表情が強張る。


「もしかして、もう死者が……」

「い、いえ! まだ死者は出ていません。ですが、そうなってしまいそうな重傷者が何人かいるので……」

「それなら良かったです。私の能力では、死者を蘇らせる事は出来ませんが、死ぬ手前であれば、引き戻せます。手遅れになる前に急ぎましょう」

「は、はい!」


 クララは、看護師の猫族に案内されて、診療所に収容されている重傷者の元へと向かった。


────────────────────────


 街の外に出たリリンの元に、周辺の情報収集を終えたサーファが合流した。


「早いですね」

「全力疾走で回りましたから。森の火災は、西側から南北に広がっているようです。火山から溢れた溶岩が、そっちの方に流れているのが見えたので、それが原因で間違いないかと。東側は、話通り土砂崩れが起きていました。ただ、そこだけではなくて、他の箇所でも土砂崩れが起こっているみたいです」

「それは、本当ですか?」

「あくまで予想です。土砂崩れ現場の傍に、川があったんですけど、そこに大量の樹木やらが流れていたんです。という事は、上流でそれらが流されるような事があったと考えられるかと」

「本当に、こういうところでは頭の回りが早いですね。頼もしい限りです。私は、北から消火を行っていきます。あなたは、街に入り、クララさんの手伝いを。そして、北の消火が終わったと判断でき次第、そこから避難誘導をお願いします」


 東側と西側からの避難は難しいと判断したリリンは、自分達が入ってきた北からの避難を進める事にした。そのために、まずは北から火災の鎮火を行わないといけない。現在も燃え広がっているため、鎮火など容易ではないはずだが、サーファは、そこを心配する事はなかった。


「わかりました。北の森の様子を窺いながら、クララちゃんの手伝いをします。ですが、向こうの用意は出来ているでしょうか? そのままでしたら、砂浜に皆を待たせる事になってしまいます」


 北から大回りで避難所まで移動する事も出来なくはないが、安全性を考えるのであれば、海から避難していく方が賢明だ。問題は、その準備が調っているかどうか。


「そこら辺は、メイリーが手配しているはずですから、心配せずとも大丈夫です。では、後は頼みます」

「はい」


 リリンとサーファは、それぞれの仕事をするために別れた。

 リリンは、まっすぐ街の北にある森に到着する。


「火災の範囲は……少し広がっていますね。さて、少々荒っぽくなりますが、最短でやりましょうか」


 リリンが手を軽く振う。すると、目の前に広がっていた燃え盛る木々が切り倒された。それは、リリンの視界外の木々にも及んでおり、一気に広範囲の木々を切り倒す事に成功している。そして、その直後に燃えていた倒木が鎮火される。

 風魔法で広範囲の木を切り倒し、さらに周囲の酸素を断つ事で鎮火させたのだ。最初から酸素を断つ事も出来なくはないが、切り倒した方が上の範囲を狭める事が出来るため、リリンはその選択をしたのだ。


「ふぅ……現場を退いてから、実力が上がったというのは、少々複雑な思いですね……まぁ、クララさんに感謝しておきましょう」


 リリンは、少し口角を上げながら、次の木々を鎮火しに向かった。


(そういえば、勝手に伐採して、メイリーに怒られないでしょうか……まぁ、その時は素直に怒られましょう)


 リリンはそう思いつつ、目の前の木々を切り倒し、鎮火させた。


────────────────────────


 看護師の猫族に案内されて、重傷者の元に来たクララは、その状態を見て眉を顰める。重傷者は、噴石を受けて身体の一部がひしゃげていたり、森林火災に対処しようとしたのか重度の火傷を負っていたりと本当に死に近い人達が多かった。


「大丈夫ですか……?」


 看護師の猫族は、クララの様子を見て確認する。魔聖女だなんだと言っても、クララはまだ子供と認識していたからだ。


「大丈夫です。すぐに治療に取りかかります。『神の雫よ・彼の者の傷を癒やせ』【治癒】」


 クララは、重度の火傷を負った患者から治療を始めた。


「火傷に効く軟膏を持ってきてください。完全に治療する前に、次の患者のところに行きますので」

「わ、分かりました!」


 看護師の猫族は、急いで軟膏を取りに向かった。

 時間を掛ければ、完全に治療する事も出来るが、クララは重傷者の数を減らす方を優先する事にした。他の患者を治療している間に、亡くなってしまえば、取り返しが付かないからだ。そのくらい重傷者が多い。


「これでこの人は大丈夫です! 残りの治療をお願いします!」

「はい!」


 軟膏を塗っていれば治る程度の火傷まで持ち直したところで、クララは別の重傷患者の治療に向かう。基本的には、重度の火傷を負っている者から治していく。骨折などの重傷者は、他の医者でも延命が出来ると判断出来たからだ。


二人目の治療を始めたところで。サーファが合流する。


「クララちゃん、私に出来る事はある?」

「大量の水が必要です。近くに井戸か何かありますか?」


 クララは、看護師の猫族に確認する。


「広場から北に行ったところにあります。飲み水として利用しているものです」

「らしいので、そこから水を持ってきてください」


 クララの治療は、あくまで怪我や病を治せるもので、水分不足や血液不足を補う事は出来ない。サーファは、血液の補給を頼む事は出来ないが、水分補給用の水を用意する事は出来るので、それを頼んだ。


「了解! バケツか何かはありますか?」

「あ、はい! これを使ってください!」


 木のバケツを渡されたサーファは、すぐに井戸の元に向かった。


「サーファさんが水を用意してくれるから大丈夫……避難路もリリンさんが確保してくれる……後は、輸血用の血液は?」

「ギリギリです」

「リリンさんの避難路は、そこまで時間が掛からないはずですので、何とか持ち堪えましょう」

「はい!」


 クララは、リリンの避難路がすぐに出来ると信じて、重傷者達の治療を進めていく。そこに水を持ったサーファがやってくる。水を飲ませるのは、看護師達に任せて、他の空っぽのバケツを手に持って、井戸へと向かって行った。

 クララは、どんどんと重傷者の治療を進めていき、火傷による重傷者は、全員軽傷まで持ち直す事が出来た。次にクララは、骨折などによる重傷者の治療を始める。

 その時、地響きと共に轟音が響き渡った。


「な、何!?」

「噴火です! 身を低くしてください!」


 看護師の猫族が、クララの肩を掴んで伏せさせて、その上に被さる。外も騒がしくなっていた。噴石から身を守るために、外にいた住人達が家の中に避難している声だった。

 噴石が近くに落ちたのか、鈍い音も聞こえてきた。


(サーファさんとリリンさんは無事かな……)


 恐らく大丈夫だろうとは思っているが、それでも、二人の事を心配していた。何度も鈍い音が聞こえ続けていたが、五分程で聞こえなくなったので、看護師の猫族は、クララの上からどいた。


「ありがとうございました。えっと……」

「あ、ニャミーです。自己紹介もせずにすみません」

「いえ、私の方こそすみません。クララです。ニャミーさんは、今の噴火でまた負傷者が出ていないかを確認してください。私は、重傷者の治療を続けます」

「分かりました」


 ニャミーに新たな負傷者が出ていないかを確認を頼んで、クララは治療に戻った。そうして、治療を進めていると、新たな負傷者が運び込まれた。


「噴石が肩に当たったようです。応急処置をしましたが、出血が酷く止まりません」

「分かりました!」


 クララは、今治療している患者を最低限治した後、すぐに新しく来た重傷者の元に向かった。ニャミーの報告通り、肩に噴石が命中したようで、右肩周辺がひしゃげていた。一部骨も見えている。クララが、ここまで治療してきた患者は、常駐の医者による治療を受けていたため、そこまで酷くなかった。


「骨を治してから傷を塞ぎます。その間の止血を頼みます」

「わ、分かりました!」


 ニャミーに止血を任せて、クララは、折れた骨を繋ぐ。骨を繋ぐには、多少強引に骨を動かす必要があるので、塞いでおいた傷も開く可能性があるからだ。骨の整形を終えたクララは、次に神経、血管、筋肉、内臓の修復に移る。ニャミーの手助けもあり、無事に治療を終える事が出来た。


「後は、輸血をお願いします」

「はい」


 ニャミーに輸血を任せたクララは、重傷者達が並ぶベッドをざっと見回して、治療の順番を決めていく。そこに、また多くの重傷者が担ぎ込まれた。その重傷者達を担ぎ込んできたのは、水を汲みに行っていたサーファだった。


「噴石があっちこっちに落ちていたみたい! 他にも負傷者はいると思う! 私は、街を一回りしてくるよ!」

「分かりました! ベッドに寝かせてください! 治療を終えた患者は、別の場所に移送を!」


 クララの指示に、医者達も頷く。ここを重傷者だけの場所にするためには、治療を終えた患者を、いつまでも置いてはおけない。幸い、クララの治療のおかげで移送しても問題はないので、医者達は看護師と協力して、移送を開始する。


「それと噴石のせいで、一部の家が燃え始めたから気を付けてね。一応、魔法が使える人に消火を頼んでいるから、こっちまで燃え広がる事はないと思うけどね」

「分かりました。サーファさんもお気を付けて」


 サーファにニッと笑いながら、クララにピースすると、診療所から出て行った。


(サーファさんが無事で良かった。リリンさんも無事……だよね)


 クララは、若干不安になりつつも、自分のやるべき事を続ける。

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― 新着の感想 ―
[一言] 人と魔族でここまで技術に差があるのに輸血の概念はあるんやな・・・そして保存してる輸血液あるんか
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