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攫われた聖女~魔族って、本当に悪なの?~  作者: 月輪林檎
聖女の旅行

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水龍のお守り

 クララの頬の感触を楽しんでいたメイリーは、ふと何か思いついたように両手を叩いた。


「そうだ。ちょうどいいから、彼にも魔聖女ちゃんを紹介しましょうか」

「彼?」


 にっこりと笑ったメイリーは、海の方を指さす。そこでは、水龍がゆったりと泳いでいた。


「彼?」


 クララは、さっきと全く同じように聞き返す。だが、その表情は最初が疑問だったのに対して、今は若干の恐怖が含まれていた。


「そうよ。ちょっと待ってて。呼んでくるから」


 メイリーはそう言うと、水龍の方に泳いでいった。


「あっ、メイリーさん……」


 さすがに止めようとしたクララだが、それが聞こえるはずもなかった。クララは、横にいるリリンを見る。


「そういえば、水龍と友達だと聞いた事がありますね。幼少期の時に知り合ってから、親友になったらしいです。今まで本当かどうか分かりませんでしたが、どうやら本当のようですね」


 そう言うリリンの視線の先で、メイリーが水龍に向かって手を振りながら近づいていた。水龍はそれに気が付くと、メイリーの方に泳いでくる。心配になったクララは、思わず隣にいるリリンの手を握る。それに気が付いたリリンの方からもクララの手を握った。

 心配そうに見守るクララの先で、メイリーは水龍と身振り手振りで会話して、少し戯れていた。そして、メイリーと水龍は、マーメイディアの方に向かってきた。


「連れてきたわ。この時期は、ここら辺を回遊しているから、たまに遊んでいるの。ほら、魔聖女ちゃんも挨拶しましょ」


 建物の中に戻ってきたメイリーは、クララを手招きする。


「メイリー、絶対に安全なのですか?」

「安全安全。彼が、私やこの街を害した事は一度もないんだから」

「そうですか。恐らく、大丈夫でしょう。メイリー、クララさんを守って下さい」

「お任せあれ」


 メイリーがそう返事をしたので、リリンは、握っていたクララの手を放して背中を押した。クララは、不安そうにしていたが、リリンの後押しもあり、風玉を使って海中に出た。

 街から少し離れた場所まで来たクララは、下から水龍を見上げる。水龍は鋭い目でクララを見ている。かなり緊張するクララだったが、水龍から敵意というものを感じられないので、ちょっとだけ緊張が緩み始めていた。

 それを見たメイリーは、水龍にもう少し海底まで降りてくるように伝える。それを見た水龍は、伝えられた通りにクララのすぐ近くまで降りてきた。


「ほら! 触ってみて!」


 メイリーは、クララにも聞こえるように大声でそう言いながら水龍に触れる。水龍は嫌がる素振りも見せずに触られていた。それを見て、クララも水龍に触れる。

 鱗の硬い感触の中に、生き物だと認識させられるような柔らかさを感じた。


「凄い……」


 魔物動物園で、動物を見て触れあったクララも、これには感動していた。クララが水龍から手を離すと、水龍は低い声で鳴いた。本人としては、小さな声で鳴いたつもりだが、その身体の大きさから発せられる声は、遠くまで響く。そのため近くにいたクララには、身体に衝撃を感じる程の声に聞こえていた。


「……!」


 怒らせてしまったのかと思い、クララは涙目になる。


「大丈夫! 大丈夫よ! 怒っているわけじゃないわ! 魔聖女ちゃんを歓迎してくれているの!」


 メイリーは慌ててクララを慰める。水龍も、クララを怖がらせたと気が付いたのか、ゆっくりと頭を下げた。


「ほらね! 見た目は怖いけど、根はいい子だから!」


 メイリーは、水龍を撫でながらそう言った。水龍は、低い声で唸りながら、メイリーと会話し始めた。


「え? 魔聖女ちゃんに? 友好とお詫びの印に? うん。良いと思うわ」


 メイリーにそう言われて、水龍は一度身体を捩る。すると、クララの元に何かが漂ってきた。クララは、その何かをキャッチする。それは、水龍の鱗で作られた腕輪だった。魔法で作られたのか紐が通っており、着け心地も悪くはないはずだ。


「これって、貰っても良いんですか?」

「うん! 彼は、友好とお詫びの印って言っているわ!」

「……ありがとう!」


 クララは、腕輪を手首に着けて、水龍にお礼を言う。水龍は少し眼を細めて頭を下げると、メイリーに顔を近づけてメイリーから撫でられてから、離れていった。

 クララ達も建物内に戻っていった。


「それにしても良かったわね。彼に気に入られたわよ」

「そうなんですか?」


 クララは、自分の手首に巻いた腕輪を見ながらそう訊く。


「水龍の鱗は、水の加護を得られるという話があります。それがどのようなものなのかは、分かりませんが、良いものだとは聞いています」

「加護系の話は、あまり出回らないから仕方ないわね。因みに、私も同じ加護を貰っているのよ」


 そう言って、メイリーは、髪をかき上げて耳に付いているイヤリングを見せる。それは、クララの腕輪と似たようなデザインとイヤリングだった。


「私の場合は、水魔法の強化と泳ぎの速度がかなり上がったわ。水の抵抗がほとんどないって感じよ」

「場合?」


 クララは、メイリーの話のその部分に疑問を持った。場合という事は、人によって加護が異なるとも捉えられるからだ。


「加護は、人によって内容が違うみたいなのよ。だから、魔聖女ちゃんと私の加護は、同じとは限らないの」

「へぇ~」


 クララは、腕輪を触りながら、心の中で水龍にお礼を言う。


「でも、まさか彼が人族を気に入るとは思わなかったわ。本当に凄いわね」


 メイリーは、また食事を再開したクララの横に来て、クララの頭を撫でながらそう言う。


「人族と魔族で変わるんですか?」


 クララは、口の中のものを飲み込んでから質問する。


「彼が言うには、人族領の方で顔を出すと、攻撃されるみたいよ。人族は水龍を敵と認識しているみたい」

「そうだったんですか。それなのに、私の事を認めてくれたんですね」

「魔聖女ちゃんに敵意がなかったからじゃないかしら。結構そういうのに敏感みたいだから。それともどこかで接点があったのかしら?」

「いえ、海に来たのは、これが初めてですので。あっ、でも、メイリーさんと初めて会った日に水龍が水上に上がったのを見ました。その時、眼が合った気がします」

「それなら、その時から魔聖女ちゃんの人となりを見抜いていたのかもしれないわね。可愛いだけの魔聖女ちゃんじゃなかったのね」

「可愛いだけ……」


 クララは、もしかしたら他の人達にも同様に思われていたかもしれないと思い、若干落ち込んだ。


「クララちゃんが可愛いだけじゃないのは、皆知っている事だから」


 サーファがすかさずにフォローに入る。サーファのおかげで、元気を取り戻したクララは、また食事を再開する。

 メイリーはといえば、リリンの学校卒業後の話で盛り上がっていた。サーファは、料理に夢中なクララのお世話をし続けていた。

 そんな風に楽しく過ごしているところに大慌てのマーマンが飛び込んできた。


「メ、メイリー様!」

「騒がしいわね。どうしたの?」

「そ、それが……中央のアローナ火山で噴火の兆候です!」

「!! 今日までに地震は!?」

「我々は確認出来ておりません!」

「感じない程の微細な地震があった可能性か……いや、今はそれを考えている時じゃないわね。噴火までの時間は?」

「およそ一時間です!」


 その報告に、メイリーは思わず舌打ちが溢れた。噴火した後の報告ではないだけマシだが、それでも島に居る全員が避難出来るかどうかは微妙なところだった。


「地上の職員と連携して、島に居る人の避難を進めなさい。島民は慣れているかもしれないけど、観光客は、どんな行動を取るか分からないわ。充分に気を付けなさい」


 メイリーにそう言われ、マーマンが返事をしようとした途端、地響きと共に大きな揺れが発生した。身体が少し浮き上がる程の揺れに、クララは少し驚く。すぐに移動したリリンがクララの身体を支えた。


「噴火したと考えて良いのですか?」

「この感じだとね。すぐに避難誘導を始めなさい!」

「はっ!」


 マーメイディアにいたほとんどの人魚族が、避難誘導のために動き出した。


「噴火がこれまでと同じであれば、ここまで溶岩が流れてくる事はないはずよ。だから、三人はここに居れば良いわ」

「分かりました。お言葉に甘えましょう」


 噴火の影響は、ここまで来ないので、しばらくの間、クララ達はこの建物で待機する事になった。

 メイリーもすぐに外に出たいところだったが、情報が集まるのはこの場なので、動くに動けない状況だった。


「メイリー、噴火はどのくらいで収まるのですか?」

「分からないわ。火山に訊くしかないわね」

「そうですか。何か手伝える事があれば言って下さい」

「一応、リリン達は客人って扱いなのだけど……」

「大変な時に客人も何もないでしょう。それに、あなた達人魚族は地上の誘導は不得意でしょう。私達にも出来る事はあります。特に、サーファと私は、危険地帯での行動も慣れていますから」


 リリンがそう言うと、サーファも頷く。リリンは、重宝任務で様々な場所に赴いている。サーファの方は、魔王軍の任務で一度、自然災害に対処した事があった。まだ新人だったので主に後方での作業だったが、人数不足で前に出た事もある。


「はぁ……分かったわ。何かあったら、頼る」


 リリンの言う事ももっともなので、メイリーは取りあえず頷いておいた。実際に頼るかどうかは、まだ分からない。今後の状況次第だ。

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