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攫われた聖女~魔族って、本当に悪なの?~  作者: 月輪林檎
聖女の旅行

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水上スキー

 ジェットコースター、バンジージャンプと絶叫系のアトラクションを続けて楽しんだクララ達は、別のアトラクションの場所に来ていた。そこは、船が振り子のように揺れているアトラクション。名前を振り子船という。これは、複数人で乗る物なので、三人一遍に楽しむ事が出来た。


「リリンさん! サーファさん! 次はあれに乗りたいです!」


 リリンの手を握りながら、クララが指を指したのは、ブランコだった。だが、ただのブランコではない。紐が繋がっている先は、棒などではなく、背中から羽の生えた魔族だった。


「へぇ~、鳥族が持っているブランコに乗るんだ。名称もそのまま空中ブランコだね」

「一応、体重制限もあるようですね。私とサーファは、制限に引っ掛かるので、クララさんお一人で乗ってください」

「分かりました!」


 クララは係員のところに向かって、ブランコに乗り上空へと上がっていった。


「クララちゃん、大丈夫でしょうか?」

「今までで、一番不安になるアトラクションですね。クララさんの体重は、制限よりも軽いので大丈夫だとは思いますが」


 二人の心配そうな眼差しが、クララに向けられる。一方、クララは、上がっていくにつれて良く見えるようになる景色を楽しんでいた。


「わぁ……綺麗……」

「噂の魔聖女様ですか?」


 景色を楽しんでいると、上から声を掛けられる。声の主は、当然鳥族の係員である。クララを担当してくれているのは、女性の鳥族だった。犬族同様鳥族も獣族なので、身体強化が使える。そのため、女性でもある程度の体重であれば、持ち上げられるのだ。


「そうです」

「では、特別サービスで、いつもより高く飛ばせて頂きます。島を一望出来ますよ」

「うわぁ……ありがとうございます!」


 クララが真上を向いてお礼を言うと、係員は、笑顔で頷いた。そして、徐々に他のブランコよりも高く飛ぶ。それにつれて、クララが泊まっている宿よりも高くなっていき、島の全貌が見え始めた。


「正面に見えますのが、マリンウッドの中でも最大の砂浜である三日月浜です。三日月の形をしているところから、その名前が付きました。続いて、右側をご覧ください。遊園地から湖を挟んでありますのが、魔物動物園です。様々な魔物と動物が暮らしており、その姿を見る事が出来ます。左側には、海があります。この遊園地には、海に面している事を活かして、アトラクションとして、水上スキーが出来ます。男性の人魚族であるマーマンが力強く引っ張ってくださるので、とても楽しいですよ」

「へぇ~、ちょっと気になりますね」

「ふふふ、是非、体験していってください」


 空中ブランコのアトラクションだったはずが、いつの間にか、マリンウッド名所紹介になっていた。係員の話は、クララにとって興味深いものだったので、全く退屈ではなかった。

 そんなクララをリリン達は、下からずっと見上げている。


「クララちゃん、全く漕ぎませんね」

「そうですね。それに、他のブランコよりも高いところに行っているようです。このアトラクションなりの歓迎の仕方なんでしょうか。まぁ、鳥族が係員なら、万が一という事はないと思いますが」

「ちょっとだけ心配になっちゃいますね」


 リリン達の心配に気づくはずもないクララは、係員による名所紹介を楽しんだ。

 係員に地上まで下ろされたクララは、係員にお礼を言って、リリン達のところに向かった。


「楽しそうでしたね」

「はい! 色々と教えてもらいました! あっちに面白そうなアトラクションがあります! 行きましょう!」

「分かりました」


 クララは、リリンの手を引っ張って先程教えてもらった水上スキーの場所に向かう。子供らしいクララの姿を見て、リリンとサーファは、思わず笑ってしまう。

 そんな二人に首を傾げつつも、クララはまっすぐに水上スキーの場所へと歩いた。


「水の上を滑るアトラクションですか。念のために、パンツ型にしておいて正解でしたね」

「そうですね。一応、濡れないように特殊なスーツを着るみたいですよ」

「それなら着替えがなくても大丈夫そうですね。行ってきて良いですよ」

「やった!」


 リリンから許可を得たクララは、すぐに係員の元に向かった。


「サーファも行ってきて良いですよ」

「うぇっ!? か、顔に出てました?」

「顔というより、尻尾に出てます」


 そう言われて、サーファが自分の尻尾を見てみると、無意識にぶんぶんと激しく振っていた。サーファは、少し恥ずかしそうにしつつも、リリンの言葉に甘えてクララの後を追っていった。


「あれ? サーファさんも乗るんですか?」

「うん。面白そうって思っていた事が、リリンさんにバレちゃって、行ってきても良いって言われちゃった」

「……本当ですね。尻尾が凄く揺れてます」

「うっ……意識して抑えてるんだけどなぁ」


 クララにもバレバレだったため、サーファの頬が少し赤くなる。そして、照れ隠しのためにクララの頬を摘まんで少し引っ張る。


「なにふるんでふか……」

「何でもないよ。それより、係員さんに話を訊きに行こう」

「はひ」


 クララとサーファは、係員に水上スキーに関しての注意を受け、防水のスーツを服の上から着る。密閉されているため、若干暑いのだが、これは仕方ないだろう。クララとサーファは、マーマンに繋がっているハンドルの付いた手綱を握る。


「嬢ちゃん達、準備は良いかい!?」


 マッチョなマーマンが、クララ達に確認してくる。


「はい!」


 クララが元気に返事をしたのを聞いて、マーマンはニッと笑って、泳ぎ始める。少し進んだ所で、クララ達が乗る板も進み始める。


「おっとっと……」


 不安定な板の上なので、バランスを取るのが難しく、クララは板の上でぷるぷるとしていた。逆に、サーファの方は全くブレがなかった。サーファとて、伊達に軍に入っていた訳では無い。クララの護衛になった後も自主トレーニングは、欠かさずにやっていた。そのおかげで、全くバランスを崩す事なく板の上で立つ事が出来ていた。


「クララちゃん、ビクビクしないで、視線はまっすぐ前! 足元ばかり見てても駄目だよ」

「わ、分かりました」


 ぷるぷると震えながらも、クララはサーファのアドバイス通りまっすぐ前を向く。その瞬間、つるんと板が飛んでいき、クララは海に落ちた。


「まぁ、いきなりは無理だよね」


 泳げないクララが海に落ちたというのに、サーファはあまり心配していなかった。それもそのはず。クララ達が来ているスーツは、服を濡れさせないようにする他に、救命胴衣としての機能も兼ね備えている。そのため、クララもぷかぷかと浮いてくる。

 ただ、泳げないのは変わらないので、クララは浮いているしかない。そこに板を持ったマーマンが泳いでくる。


「板を支えているから、上がると良い」

「あ、ありがとうございます」


 クララは、頑張って板の上に上がる。


「最初はゆっくりと動くから、頑張ってバランスを取りな」

「はい」


 そこから十分程で、クララもある程度のバランスが取れるようになった。


「クララちゃん、センスあるね!」


 サーファは、空中で一回転しながらそう言った。


「サーファさんには負けます」

「こういう分野では、負けられないからね。波をよく見て、どの向きに板が傾くか確認しながらやると良いかも」

「なるほど、分かりました!」

「そんじゃあ、少し速く動くぞ」

「はい!」


 マーマンが速く泳ぐ事で、クララの乗る板も速く動く。その分、波も立つので、クララの板もその影響を受けてしまう。サーファのアドバイス通り、波の向きに合わせて板を動かしていき、波に乗っていく。サーファ程自由自在に乗りこなす事は出来ないが、何とか海に落ちずに波に乗れるようにはなっていた。

 そんなクララの様子をリリンは、少し心配そうに見ていた。


(一応、落ちずに乗れるようになったみたいですね。運動自体は苦手のようですが、バランス感覚は優れているのかもしれませんね。これも、日頃の運動の成果でしょうか。サーファの方は、本当に凄い動きをしますね。マーマンの方に同情します)


 クララは、波に乗りながら、時折意図せずジャンプしているが、それでも何とか落ちないように頑張っていた。

 それに対して、サーファは、横に大きく振られようとバランスを崩す事なく、波に乗って大きくジャンプし、縦横無尽に回転していた。サーファがそんな動きをし続けるので、マーマンもより速く大きく泳いでいった。

 そんなアトラクションを三十分程楽しんだ。陸に戻ったクララ達がマーマンにお礼を言うと、マーマン達は、何故か自身の筋肉を見せて付けられながら返事をされていた。

 クララとサーファは、苦笑いをしながら手を振って、リリンの元に戻ってきた。


「楽しかったですか?」

「はい。ちょっと難しかったですけど、凄く楽しかったです!」

「それは良かったです。服も濡れていないようですね」


 サーファは海に一度も落ちなかったが、クララは何度も海に落ちていたので、スーツを着ていなければ、びしょ濡れ状態だったはずだ。ただ髪の毛はびしょ濡れなので、受付でタオルを買ってある程度水分を取っている。


「先に髪を洗ってしまいましょう」

「洗える場所があるんですか?」

「そこの水道が使えるそうなので、使わせて貰います」


 リリンは、クララの髪を軽く水で流して、タオルで丁寧に拭いていく。


「サーファも、波は被っているでしょう。洗っておいてはどうですか?」

「そうですね」


 サーファも自分で髪を洗い、タオルで拭く。


「さて、次のアトラクションは、あれに乗りましょう」


 遊園地に来てから、クララの行きたい場所を全力でまわっていたのだが、ここでリリンが次のアトラクションを指定した。


(リリンさんも乗りたいアトラクションがあったのかな?)


 クララはそう思いながら、リリンが指したアトラクションを見る。それは、ゴンドラに乗って園内を移動するというものだった。

 三人で一つのゴンドラに乗り、船頭がゴンドラを漕いでいく。


「何だかゆったりとしたアトラクションですね」

「ゆっくりまわる事が目的のものですから。このまま移動して、昼食が食べられるところまで行きます」

「もうお昼ですか?」

「はい。クララさんが思っているよりも、長く遊んでいましたので」

「楽しい時間は早く過ぎちゃうものなんだよ」


 もう昼を過ぎ始めていた事に気付いたクララは、心底驚いていた。ここのアトラクションがあまりにも楽しかったため、時間の存在を完全に忘れていたのだ。


「もしかして、そろそろ宿に帰ります?」


 お昼を食べたら、もう宿に帰ってしまうのではと思いそう訊いた。クララのもっと遊びたいという気持ちに気付いたリリンは、優しくクララの頭を撫でる。


「いえ、まだ遊んで良いですよ。行きたいところがあるのですか?」

「やった! 迷路が沢山あるみたいなんです。そこに行ってみたいです」

「迷路ですか。そんなものまであるのですね」

「みたいです。空中ブランコの時に教えてもらいました」

「全然漕がないと思ったら、アトラクションの紹介をして貰ってたんだね」

「はい。良い人でした」


 鳥属の係員からアトラクションの紹介をされた時に、迷路について聞いて、面白そうだと思っていたのだ。


「では、お昼を食べた後は、その迷路に行きましょう」

「はい!」


 三人は、ゴンドラによる遊園地遊覧を堪能して、終点にあるレストランで昼食を摂った。

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