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攫われた聖女~魔族って、本当に悪なの?~  作者: 月輪林檎
聖女の旅行

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遊園地!

 翌日。夕方からずっと寝ていたおかげか、あれだけ遊んだというのに、クララは元気一杯だった。

 そんなクララを連れて、リリン達は遊園地へと来ていた。その入口は、パステルカラーで彩られており、派手な感じが全面に出ていた。


「ここが遊園地ですか?」

「はい。そのようです。思ったよりも派手ですね」

「あっ。あそこで、券を買うみたいです」

「そのようですね。私が買ってきますので、ここで待っていて下さい」

「分かりました」


 サーファは、クララを後ろから抱きしめるようにして待つ。


「中はどんな感じなんだろう。楽しみだね」

「はい。楽しみです」


 二人がウキウキでリリンを待っていると、三人分の入場券を持って戻ってきた。券の形は紙では無く、リストバンドのようになっていた。


「二人とも楽しそうですね。これで入場出来ますから、手首に付けて下さい」


 リリンは、二人に入場券を渡す。サーファの方は、自分で手首に付ける事が出来たのだが、クララの方は少し苦戦していた。それを見かねて、リリンが手首に巻いてくれる。


「ありがとうございます」

「いいえ。では、中に入りましょう」

「はい」


 クララ達は、入場口で係員に手首のリストバンドを見せて遊園地の中へと入っていった。


「うわぁ……」


 クララは、プールに来た時と同じような反応を見せる。その理由は、プールの時と同じだった。入口からでも多種多様なアトラクションが見えていたのだ。一際目立っていたのは、タイヤの付いた乗り物でコースを滑るジェットコースターだった。


「あれって、プールのと同じ感じですか?」

「どうでしょう? 私もここは初めてですので、分かりませんが、見た感じでは同じかと」

「じゃあ、あれに乗りたいです!」

「本当に気に入ったのですね。では、最初はあのアトラクションに乗りましょう」

「今日は、浮き輪もないし、皆で乗れるよ」


 サーファがそう伝えると、クララは嬉しそうに笑った。ウォータースライダーには、二人ずつでしか乗れなかったので、三人で乗れるのが嬉しいのだ。

 クララ達は、ジェットコースターの乗り口まで歩いていく。その間にも様々なアトラクションがあり、クララ次々に目移りしていた。

 そんなクララを見て、リリンとサーファは、互いに顔を合わせて笑みを零した。

 そして、ようやくジェットコースターの乗り口が見えてきた。そこには、結構な長さの列が出来ていた。


「わぁ……凄く並んでますね」

「そうですね。恐らく、この遊園地の目玉でしょうね」

「目玉?」

「はい。遊園地で、一際目を引くものという意味です。取りあえず、さっさと並んでしまいましょう。まだ開園して少ししか経っていないので、今はまだ短い列だと思いますから」


 現在並んでいる列でも、まだ短いと言われ、クララは少し驚いた。そんなクララの背中をサーファが押して、列に並ばせる。


「一回に十二人ずつというところでしょうか」

「三人で乗れそうですか?」

「はい。三人で一席みたいですから、乗れると思います」

「やった」


 クララは嬉しそうに二人の手を握る。クララ達の番は、三十分程でまわってきた。三人は、クララを真ん中にして座席に着く。


「意外と早く乗れましたね」

「そうだね。でも、運が良かったみたいだよ。ほら、今の列、凄く長くなってる」


 そう言われて、クララが列を見てみると、先程の三倍の列になっていた。ここを後回しにしていたら、二時間近く並ぶはめになっていたかもしれない。


「やはり開園直後だったからみたいですね」

「そうみたいですね。そろそろ動き出すようですよ。しっかり手すりに掴まって下さい」

「はい!」


 安全バーが降りてきて、身体を固定されたクララは、目の前にある手すりに掴まった。その直後に、ジェットコースターが動き出した。ジェットコースターは、すぐに上り坂を上がっていく。


「ウォータースライダーと違って、最初に上るんですね」

「そうだね。何かで引っ張ってるのかな。あ、でも、それも終わりみたいだよ」


 上りきったジェットコースターは、一気に下っていく。クララの身体に浮遊感が生まれる。それはウォータースライダーでも感じたものだ。

 その浮遊感も束の間、今度は身体に強い圧力を感じる。下りきったジェットコースターが、また小さな上り坂を上がったのだ。その後も上がったり、下がったり、曲がったりと繰り返し、また長い上り坂に突入し、やがて下る。

 そうして下った先で、小さなジャンプ台が現れる。クララ達が乗っているコースターは、そのまま空中に投げ出される。


「ええ~!?」


 予想だにしない展開に、思わずクララの口から悲鳴が出て来る。そして、反射的に両隣のリリンとサーファの手を握った。

 コースターは、そのまま自由落下に入る直前に、レールへと着地した。魔法により脱線すること無く着地出来たコースターは、何事もなかったように走り続け、元の場所まで戻ってきた。


「お疲れ様でした」


 係員がそう言って、安全バーを上げていく。リリンから順番にジェットコースターから降りていき、地上へと戻った。


「ふぅ……まだ身体がふわふわしてます」


 地上に戻ったクララは、まだジェットコースターの感覚が抜けきらなかった。


「そうですね。思ったよりも強烈な乗り物でした。ジェットコースターの方は、お気に召しませんでしたか?」

「いえ、凄く楽しかったです! まさか飛ぶとは思いませんでしたけど」

「あれはびっくりしたね。魔法があるからって、さすがにあそこまでするとは思わなかったよ。あれでも安全面の基準は突破しているんですよね?」

「そのはずですよ」


 最後のジャンプには、リリンもサーファも驚いていた。


「それでは、次は何に乗りますか?」

「えっと……あれが良いです!」


 続いて、クララが指を指したのは、バンジージャンプだった。


「最近のクララさんは、恐怖感を味わえるようなものを好みますね。だからといって、本当に危険な事をしてはいけませんよ?」


 リリンはこう言ったが、実際の考えでは、クララが変わったとは思っていない。元々好奇心の塊である事は、魔族領に来てからよく知っている。ウォータースライダーを経験してから、他の絶叫系アトラクションを味わってみたいという好奇心が疼いているのだ。

 ただその好奇心が、悪い結果を出す事も知っている。魔力注入器を使った時の事故や魔力酒を飲んでの失敗だ。

 だからこそ、リリンはクララに釘を刺しておかなければならなかった。


「分かってます」


 胸を張ってそう言うクララの頭を撫でて、リリンはクララの手を取る。


「では、行きましょう。人も多くなってきたので、移動する際は、私かサーファと手を繋いでください」

「分かりました」


 クララの迷子防止のために、リリン達がクララの手を取る事になっていた。この前の誘拐も考慮に入れて、トイレにも付いていく事になっている。

 そうして、バンジージャンプのアトラクションがある場所までやって来た。そこでは、ちょうどバンジージャンプをしている人がおり、悲鳴を上げながら落ちていき、ゴムで引っ張られ、弾んでいた。


「おぉ……ジェットコースターよりも怖そうですね」

「一人用みたいですし、やめておきますか?」

「う~ん……やります!」


 一人用と聞いて、少し気後れしそうになったが、やはり好奇心を抑えきれず、バンジージャンプの乗り口に向かう。一応、サーファも一緒に向かっていった。


「リリンさんはやらないんでしょうか?」

「う~ん……そもそも飛べるから、やる意味もないんじゃない?」

「!?」


 まさかの真実に、クララは目を見開いた。そんな話は聞いた事がなかった。そもそも、リリンの背中には羽など生えていない。そんな跡もないつるつるの背中なのだ。クララは、いつもお風呂で見ているので、その事をよく知っている。


「飛べるんですか!?」

「うん。サキュバスとインキュバスは、短距離だけど飛べるはずだよ」

「でも、羽はないですよね?」

「うん。羽は魔力で作るらしいからね。どんな感じなのかは知らないけどね」

「へぇ~、でも、見せてくれないって事は、あまり人に見せるような感じじゃないんでしょうか?」

「どうだろう? そこまで詳しくはないかな。ただ、さっきも言った通り、本当に短距離しか飛べないらしいから、使い時がないとは聞いたかな」


 サーファも詳しく知っている訳では無いみたいなので、クララは、バンジージャンプが終わったら、リリンに直接聞いてみる事にした。

 話が終わったところで、バンジージャンプの飛び降り台まで着いた。


「ようこそ、バンジージャンプへ。どちらから、ご利用なさいますか?」

「この子からお願いします」


 サーファが、クララの背中を押して、前に出す。係員は、金具を使ってクララに紐を付けていく。


「これで大丈夫です。一番下まで降りましたら、職員が金具を外しに参りますので、お待ちください」

「分かりました」

「では、ご自身のタイミングで飛び降り下さい」


 そう言われて、クララは飛び降り台の先端に立つ。そして、そのまま真下を覗きこむ。普通に飛び降りれば、死んでしまうであろう高さ。そこから自分の脚で飛び降りないといけないのだ。

 覚悟を決めるために深呼吸をしていると、視界内にリリンの姿が映り、そちらを見る。ちょうどリリンもクララを見ていたので、二人の目が合った。リリンは、それに気が付いて、手を振る。

 それを見たクララは、一度大きく深呼吸をしてから、意を決して飛び降りる。迫り来る地面。耳になる風切り音。もう地面と激突するというところで、身体が上に引っ張られる。ジェットコースターと似ているような似てないような圧迫感を受けて、クララは地上から少し高いところで止まった。

 すぐに係員が駆け寄って、クララを解放した。解放されたクララは、係員に頭を下げてから、リリンの元に駆け寄った。


「どうでしたか?」

「楽しかったです! ジェットコースターとかよりも怖かったですけど」

「言ってしまえば、落下体験ですから、根源的な恐怖が強いのかもしれないですね」


 リリンはそう言って、上を見上げる。クララも釣られて見上げた。その視線の先では、サーファが大きく手を振っていた。クララも同じく大きく手を振って応える。そんなクララを見てから、サーファは飛び降り台から落ちた。


「ひゃっほ~!!」


 元気に飛び降りたサーファは、クララと同じ位置で止まり、何度か弾んでから止まる。係員に下ろされたサーファは、係員にお礼を言って、クララのところまで走ってきた。そして、その勢いのままクララを抱き上げる。


「わっ!?」

「楽しかったね! クララちゃん!」

「は、はい! 楽しかったです!」


 人の邪魔にならないように、サーファは、クララを抱えてくるくると回る。


「あっ、そういえば」


 サーファに抱えられたまま、クララは、リリンの方を見る。


「リリンさんが飛べるって本当ですか?」


 クララがそう尋ねると、リリンは少し驚いた顔をした。だが、サーファを見て、すぐに納得したという表情になる。サーファに聞いたと気付いたからだ。


「はい。本当です。飛べるには飛べますが、十秒も飛んでいられません。空を飛んで移動するための羽というより、高いところへと移動するためのものですので」

「高いところですか?」

「そうです。サキュバスの先祖は、人の家に侵入して精力を頂いていたので、その際に使っていたらしいです」

「へぇ~」


 リリンの説明を受けたところで、サーファはクララを地面に下ろす。下ろされたクララは、ジッと上目遣いでリリンを見る。


「お風呂の時に」


 リリンはそう言って、クララの頭を撫でる。リリンの羽が見たいというクララの願いを察してくれたのだ。クララは嬉しそうな顔で笑う。

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