砂遊び
クララ達は、メイリーが去った海の方を見て、呆然としていた。
「……何というか、嵐のような方でしたね」
傍で見ていたサーファが、そんな感想を零す。それに、リリンは縦に頷いて同意した。
「昔からあのような感じです。人や物関わらず、可愛いと思えば愛でるという悪癖があります。私もエリノラも、それで大変苦労しました。それ以外であれば、人の話はちゃんと聞きますし、頭もかなり良いのですが。取りあえず、クララさんを気に入って頂けたようで、良かったです。ちょっと面倒くさくなりそうではありますが」
「リリンさんと仲が良さそうでした。知り合いっぽい事は分かっていましたけど、友達だったんですね」
「ええ、学生時代からの友人です。私が通っていた学校は、あらゆる種族が学べるように、水路なども作られている場所でしたので、メイリーも同じく通っていたのです」
魔族領には、様々な学校があるが、リリンが通っていた学校のように、水路が巡らされている学校は少ない。単純に、水路の施工が大変だからだ。王都に移動用の水路がないのも、同じ理由からだ。
「これで明日、明後日は時間が出来ましたね。遊園地と魔物動物園を一日ずつ楽しみ、後は予定通りクララさんの行きたいところを周りましょう」
「はい」
「では、海を堪能しましょう」
「はい!」
クララ達は、再び浮き輪を使って遊び始めた。クララ達が楽しく遊んでいると、遠くの沖の方で、大きな音がした。
「わっ! な、なんのお……と……?」
クララの声は、段々と細くなっていった。その要因は、クララの視線の先にあった。クララ達から離れた場所。遠くの海で、空に向かって細長い何かが伸びていた。
それには、大きなヒレや角、鋭い牙などが付いていた。
「水龍……」
リリンが、そう声を漏らす。それと同時に、水龍の首がクララの方を向いた。クララは、水龍の大きく鋭い目と目が合ってしまう。
「ひっ……!」
恐怖を感じたクララは、近くにいたリリンにしがみつく。そんなクララと正反対に、リリンとサーファは、笑っていた。
「運が良いですね。クララさん、あの龍は水龍と呼ばれる水の守り神です」
「守り神?」
クララは、怖い見た目をしているので、とても守り神だとは思えなかった。
「はい。普段は、深海の奥深くを泳いでいるのですが、時折日の光を浴びるために水面へと顔を出すのです。その姿を見る事が出来れば、水難事故に遭っても無事に帰還出来ると言われています。そのため、漁師から神聖視されています。その事から、水の守り神と言われているのです」
「そうなんですか……」
リリンにそう言われて、よくよく見てみると、水龍は特に何かに攻撃をするわけでもなく、日の光を浴びているだけだった。
それを見たおかげで、クララの中の恐怖心が少しだけ和らいだ。
水龍は、充分に日を浴びたのか、海の中へと戻っていった。
「良かったね、クララちゃん。これで、溺れても助かる可能性が高くなったよ」
「はい。あれ? でも、それって結局一回溺れるって事ですよね?」
「…………」
クララに問われたサーファは、スッと目を逸らした。実際、水難事故に遭わないではなく、遭っても助かるという形なので、一度は溺れるという事になる。
サーファの反応で、そういう事だと分かったクララは、とても微妙は表情になる。
「助かるだけマシですよ」
リリンに頭を撫でられたクララは、嬉しそうに笑う。
「そうですね。助かるだけマシって考えます」
「はい。では、次の遊びをしましょう。せっかくの海ですが、海の中で遊ぶだけが海水浴ではありません」
「?」
どういうことか分からず首を傾げるクララを、サーファが抱き上げ、浮き輪をリリンが持ち一度砂浜に上がる。
「何をして遊ぶんですか?」
「この砂浜で遊ぶのです。所謂砂遊びですね。サーファ、道具を持ってきて下さい」
「はい」
クララを砂浜に下ろしたサーファは、更衣室に向かって布の袋を持ってくる。
「これがシャベルで、こっちがバケツだよ」
「さすがに、これは人族領にもありましたよ。薬草園でも使いましたし。でも、遊びに使うのは初めてです。砂遊びって何をすれば良いんですか?」
「そうですね。よく言われているのは、お城作りでしょうか」
「お城……」
城と言われて、クララが真っ先に思い出したのは、人族領の王都にある城ではなく、魔王城だった。
「凄く難しそうです」
「そこまで複雑な形にしなくて良いのです。ただお城っぽいものを作るだけで」
「私達も一緒に作るから、大丈夫だよ。超大作にしよう!」
クララよりもサーファの方がやる気満々になっていた。
三人は、それぞれシャベルとバケツを持って、砂浜で城作りを始めた。クララは、砂遊びも初めての事だったが、薬作りをしているからか手先は器用なので、あまり苦戦はしなかった。寧ろ、一番苦戦していたのは、リリンだった。形作りは無理だと判断したリリンは、模様係になった。
そんな調子で、三人は、黙々と作業を続けていった。
昼を過ぎておやつ時になったのと同時に、城が完成した。その城は、魔王城のように立派ではなかったが、それでも大きく見た目で城だと分かるものになっていた。
「お城になりました! サーファさん凄いです!」
「ふっふっふ、子供の頃に何度も作った事があるからね。でも、リリンさんの模様入れが上手くいってると思うよ。三人の力作だね」
クララとサーファが、出来た城を見ながらそう話していると、リリンが更衣室から何かを取ってきた。
「あ、それって私のドレスを撮ったやつですよね?」
「はい。正式に写影機という名前が付きました。クララさんとサーファで、左右に立って下さい」
リリンに言われて、クララとサーファが、城の左右に立つ。
「撮りますよ。三、二、一」
光がクララ達を包み、写影機から白い紙が出て来る。それに魔力を通して、撮った写真を写し出す。
「外でも問題無く撮れていますね」
「リリンさんも一緒に映りましょう?」
クララがリリンとも撮りたいと言う。だが、タイマー機能など付いていないため、誰かがシャッターを押すしかない。
「構造上、三人で映るのは無理ですね」
「じゃあ、私が二人を撮ります。このボタンを押すだけですよね?」
「そうです。お願いします」
サーファと交代して、今度はクララとリリンで城を挟み、写真を撮る。
「じゃあ、今度は私がお二人を撮りますね」
「いえ、私達は……」
リリンが遠慮しようとするが、クララのキラキラとした眼差しを受けて、遠慮しきる事が出来ず、リリンとサーファでも写真を撮る事になった。
「さて、今日はこれくらいにして、宿に戻りましょう」
「はい」
クララ達は、更衣室に備え付きのシャワーで砂を落として、水着から着替えた。その後、定期馬車で宿に戻っていった。宿に戻ったクララは、ソファに腰を下ろした五分後に寝息を立て始めた。
「普段よりもいっぱい遊んでいるからか、すぐ寝ちゃいますね」
「そうですね。今日は、昨日よりも長く遊んでいたので、もしかしたら明日まで眠ったままかもしれませんね。サーファ、疲れているところ申し訳ないですが、クララさんをベッドまで運んでもらえますか?」
「分かりました」
サーファは、クララを起こさないようにベッドへと運んでいった。そして、リリンが夕飯を作っている間に、サーファが水着を手洗いしていく。
結局、夜の内にクララが目を覚ます事もなく、リリンとサーファは二人で夕食を食べ、それぞれでお風呂に入り、明日の予定について話し合ってから眠りについた。




