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攫われた聖女~魔族って、本当に悪なの?~  作者: 月輪林檎
聖女の旅行

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ウォータースライダー!

 リリンと一緒に浮き輪で遊んでいたクララは、ある事に気が付いた。


「あれ? サーファさんは、泳がないんですか?」


 こんな風に遊んでいる中で、サーファはずっとプールに脚を浸けるだけで、中には入っていなかった。基本的に、クララ達を見ているわけでもなく、周囲を見回している。


「いえ、そろそろ泳ぐはずです。周囲を警戒してもらっているのです。あれもサーファの仕事ですので」

「なるほど」


 そんな話をしていると、サーファが、クララ達に向かって手を振り始めた。


「何も問題無かったようですね。次は、流れるプールに行きましょう」

「はい」


 サーファと合流したクララ達は、流れるプールの方に移動する。スロープを使って、中に入っていく。深さは、先程のプールと同じくらいの深さとなっている。


「クララさん、絶対に手を離さないようにして下さい」

「はい」


 プールの中に入ったクララは、身体で水の流れを感じていた。その流れで、身体が持っていかれそうになるが、リリンが支えてくれたため、ギリギリで耐える事が出来た。


「リ、リリンさん……」

「大丈夫ですよ。しっかりと掴まっていて下さい」


 リリンは、クララが流されないようにしっかりと支える。


「こんな流れのある場所に行く予定はありませんが、こういうところもありますので、覚えていて下さい」

「は、はい」

「それでは、こちらに乗って下さい」


 リリンは、クララを持ち上げて、サーファがプールに浮かべて支えているマットに乗せる。クララは、上手くバランスが取れず、少し慌てる。


「クララさん、落ち着いてバランスを取って下さい」

「は、はい」


 サーファと同じくリリンも一緒に支えたため、ようやくクララもバランスを取れるようになってきた。


「サーファ、そっちの浮き輪を繋げてしまいましょう」

「分かりました」


 サーファは、紐でマットと浮き輪を繋げる。これで、流れるプールの中でも離れる事は無いだろう。その浮き輪の上にサーファが乗り、マットの方にリリンも乗る。支える人がいなくなったため、マットと浮き輪が流れ始める。


「わわわわ……」

「大丈夫です。そのままゆっくりと横になって下さい」


 クララは、言われたとおりに横になる。同じように、リリンも一緒に横になった。


「これが流れるプールの楽しみ方の一つです。ただただ流されるだけ。それでも、結構楽しいものですよ」

「そうですね。サーファさんは、大丈夫ですか?」

「ん? 楽しんでるよ。ちょっと浮き輪が小さいけど」


 サーファは、手で軽く漕いで、クララ達の隣に付ける。


「クララちゃんの方こそ、水には慣れた?」

「ちょっと楽しくなってきました」

「良かった。これなら、海も楽しめそうですね」

「ええ、そうですね」


 そんな調子で流されていると、クララの視界に一際高い山が映る。その山からは、細い煙が上がっていた。


「あの山って、宿の裏にある山ですか?」

「いえ、あれはさらに奥の方にある火山ですね。私達の宿の裏にある山は、ここからでは見えませんね」

「へぇ~……あれが火山なんですね。てっきり燃えているのかと思ってました」


 火山を実際に見た事がないクララは、その言葉から燃えている山を想像していた。


「ある意味では合っています。火山は、マグマと呼ばれるものが噴き出す山の事を指します。あの山も時折マグマが噴き出して来ます」

「へぇ~、マグマって何ですか?」

「簡単に言えば、液状になった岩です。かなり熱いもので、触ってしまえば火傷どころではないでしょう。仮に落ちてしまえば、確実に死んでしまいますね。もしかしたら、痛みを感じる暇もないかもしれません」

「こ、怖いですね」


 クララが不用意に触らないように、念入りに危険性を伝えた結果、目論見通りになった。これで、不用意にマグマに近づくという事もないだろう。


「でも、カタリナ様と同じ龍族の方々は、マグマの中にお風呂感覚で入ったりするんだって」

「うぇっ!?」


 リリンの話でマグマを怖いものと認識していたクララは、そんなものにお風呂感覚で入るという話を聞いて、目を見開く。


「魔族の中には、特定の環境に適応した種族もいます。ただ、龍族あらゆる環境に適応するので、氷山が浮かぶ海でもお風呂感覚で入ったりするそうです。魔王様と同じ鬼族の方々は、マグマは無理ですが、炎の中を平然と歩いて行けるらしいです」

「へぇ~、魔族の人達って、本当に凄いですね。人族とは違うっていうのがよく分かります」


 そんな事を話しながら、流れるプールを流されていると、クララは、火山の他に気になるところを見つけた。


「リリンさん、あれって何ですか?」

「ああ、あれはウォータースライダーですね。水が流れていて、かなりの速度が出ます。やってみますか?」

「ちょっと気になります」

「怖がりなクララさんが珍しいですね」

「えっ……怖いものなんですか?」


 ただただどんなものだろうという風に気になっていたクララは、リリンの言葉で怖いのかと思い始めていた。


「気になるなら一緒に行ってみる? もしかしたら、一緒に滑られるかもしれないし」

「サーファさんと一緒なら行けると思います」

「では、行ってみましょう。サーファ、向こうに寄せますよ」

「はい」


 リリンとサーファは、浮き輪から降りて、クララの乗るマットをプールサイドに寄せていく。


「クララさん、そのまま上がって下さい」

「あ、はい」


 二人の支えを信じて、クララは、マットからプールサイドに飛び移る。その後、サーファが先に上がって、リリンからマットを受け取り、浮き輪も受け取ったのを確認して、リリンも上がる。


「では、ウォータースライダーの方に行きましょう」


 クララ達は、ウォータースライダーの方に向かって行った。滑る場所に向かうには階段を使う事になるのだが、その入口に説明が書かれた看板が置かれていた。


「一応、二人一組でも滑られるようですね。楽しんできて下さい」

「い、行ってきます」


 クララは、先程流れるプールで見た時には、あまり実感出来なかったウォータースライダーの高さに圧倒されていた。そして、他の客の悲鳴が聞こえて尻込みし始める。そんなクララの背中をサーファが押していく。


「ほらほら、行こう、クララちゃん」


 クララは、サーファに押されて、どんどんと上がっていった。


(小さいものなら、魔王城の浴場に付けられるでしょうか? この体験で、クララさんが気に入ったら、ライナーに相談……の前にカタリナ様達に相談しましょう)


 リリンは、下からクララとサーファを見守った。

 クララは、サーファに背中を押されながら一番上まで上がった。


「結構高いですね……」

「その分長い間滑っていられるよ。あっ、二人で滑ります」


 係員に二人一緒に滑る事を伝えて、滑る準備をする。サーファの前にクララが座って、サーファが後ろから抱きしめる形をとる。


「そのまま滑って頂いて大丈夫です。滑り終えたら、速やかにプールから上がってください」

「分かりました。それじゃあ、行くよ、クララちゃん!」

「え!? まだ心の準備がぁっ!?」


 クララの返事を聞く前にサーファが出発させてしまう。クララ達は、水と一緒に流されていく。


「ひゃっほ~!!」


 ぐねぐねと曲がるウォータースライダーを二人で滑っていく。最初は、その勢いに恐怖を感じていたクララだったが、すぐ後ろのサーファが、楽しそうに声を上げるので、段々と楽しくなっていった。

 そして、ウォータースライダーの終わりにあるプールに二人揃って入っていく。プールの中は、サーファの太腿くらいの深さなので、そこまで深くはない。

 それでもサーファは、クララを抱き上げてプールから上がり、そのまま。


「ふぅ……どうだった?」

「ちょっと怖かったけど、それ以上に楽しかったです」

「良かった。全然声を上げないから、気絶でもしてるのかと思っちゃった」

「さすがに、声を上げる事は出来なかったです。ぐるぐる変わる景色とかで、それどころじゃなくて」

「まぁ、結構速かったもんね」


 そんな二人の元にリリンがやってくる。


「楽しそうでしたね。クララさんも楽しかったですか?」

「はい!」

「そうですか」


 リリンはそう言って、少し考え込み始めた。さっき考えていた事を実行に移すか考えているのだ。


「どうしたんですか?」


 リリンがそんな事を考えているなんて知らないクララは、リリンが考え込んだのを見て、首を傾げる。


「いえ、何でもありません。楽しかったのでしたら、別のところにも行きますか? 後、二種類程あるみたいですよ。一回転とかもあるみたいですね」

「一回転? 横にですか?」

「いえ、縦に一回転のようです」

「うぇっ!? それって、死んじゃうんじゃないんですか?」

「どうなんでしょうか。遠心力……いや、魔法によって水を沿わせているようですね。そう考えると、人も同じように吸い付けられるのではないでしょうか?」


 一回転しているところをジッと見てみると、水滴が一滴も落ちていない事が分かる。そこから、リリンは、一回転するウォータースライダーが、魔法を利用して作られていると考えた。実際、魔法によって、ウォータースライダーに沿うように滑る事が出来る。


「うぅ……ちょっと怖いですけど、興味はあります」

「では、参りましょう」

「今度は、リリンさんが一緒に滑ってあげて下さい。私は、下から見ています」

「そうですか? 分かりました」


 リリンは浮き輪をサーファに預けて、クララと一緒に一回転ウォータースライダーに上っていった。リリンと並んで上がっている時、クララは、ある事に気付いた。


「そういえば、腰に布を巻いたままですけど、大丈夫なんですか?」

「大丈夫ですよ。流れるプールでも、平気だったでしょう?」

「確かに……でも、何で流されないんですか?」

「気合いです」

「え!?」


 まさかの理由に、クララは驚いてリリンを見る。そんなクララに対して、リリンは、小さく吹き出す。


「冗談です。固定具を付けているので、自分の意思で外そうとしない限り、このまま脚に纏わり付く形になります。多少の融通は利くので、大して邪魔にはなりません」

「へぇ~、便利ですね」


 そんな話をしている間に、入口に着いた。


「二人で滑ります」


 リリンがそう伝えて、サーファと同じようにクララを抱える。


「では、行きますよ」

「あっ、ちょっと待って下さっ!!」


 またもやクララの心の準備を待たず、出発させられてしまう。先程のウォータースライダーよりも速いスピードで滑っていく。尚且つ、スライダーの長さと複雑さも上がっているので、先程よりも迫力満点のものとなっていた。

 順調に滑っていたクララ達は、一回転のエリアに入る。視界が上下逆さまになり、すぐに元に戻る。身体が浮くかのような感覚がして、一瞬放り出されるのではないかと心配になったが、そんな事もなく滑りが続いた。

 そして、最終的に二人はコースから投げ出された。


「え~!?」

「あそこで途切れていたようですね。着水しますよ」

「えっ!?」


 リリンは、クララの鼻を塞いで、しっかりと抱える。そして、自分の背中から入水した。破裂音のような音がする。サーファが慌てて、二人に駆け寄っていく。


「リ、リリンさん!? 大丈夫ですか!?」


 サーファは、クララを抱えて水から上がったリリンを心配する。あんな入水をしたら、背中がかなり痛いはずだからだ。


「ええ、若干ヒリヒリとしますが、ギリギリで身体強化が間に合いました」

「それは良かったです。まさか、放り出される系のものとは思いませんでしたね」

「きちんと見ておかなかったのは、失態でした。クララさんは、大丈夫ですか?」


 先程から一言も喋らず顔を伏せているクララを心配して、リリンが声を掛ける。さすがに、一回転どころか放り出されてしまえば、楽しいよりも恐怖の方が勝ると思ったからだ。


「あはははははは!!」


 クララは、笑い声を上げる。そんなクララを見て、リリンとサーファは、きょとんとしてしまう。まさか、ここまで笑うとは思わなかったからだ。


「楽しかったですか?」

「はい。やっぱり怖い感じもありましたけど、楽しかったです!」

「それは良かったです。では、もう一つの方も滑りますか?」

「はい!」


 その後、もう一つのウォータースライダーをサーファと一緒に滑り、また流れるプールに行き、今度は浮き輪の方に乗って流された。一人で流されるのは、少し怖かったが、さっきの経験から少し恐怖も紛れていた。

 昼過ぎまで遊び続けた結果、クララは遊び疲れてリリンの背で眠ってしまった。


「クララちゃんは、水に慣れたでしょうか?」

「そうですね。ある程度は慣れたと思います。これなら海に行っても、問題はないでしょう。後は、魔法を一つ復習しないとですね」

「魔法?」

「ええ、必要になるかは分かりませんが、万が一という事もありますので」

「?」


 魔法に詳しい訳では無いサーファは、あまりピンと来ていなかった。だが、リリンが必要になるかもしれないと言うのであれば、必要なのだろうと考えた。

 夕方頃に起きたクララは、リリン達と夕食兼昼食を食べた。そして、サーファが洗い物をしている間に、リリンと一緒にお風呂に入っていた。


風玉(ふうぎょく)ですか? 確か、自分の周りを風で覆う魔法ですよね?」

「はい。よく覚えていましたね」


 リリンに褒められて、クララは、嬉しそうに笑う。


「でも、風玉を何に使うんですか?」

「風玉は、その応用として、水中での活動に使う事が出来ます。地上で使用する事で、ある程度の空気を纏ったまま潜れるというものです。出力を調整すれば、長時間の活動も出来ます。人魚族の街に出向く事になれば、必要になりますので、今の内に使える様にしておければと」

「なるほど……じゃあ、魔法が使えないサーファさんは、お留守番になっちゃうんですか?」


 人魚族の街に行くのに必要という事は、必然的にそうなってしまう。


「いえ、私の風玉に入ってもらいますので、一緒に行く事は出来ます」

「それなら安心です。でも、どこで練習するんですか?」

「ちゃんと制御出来れば、後は出力の問題ですので、居間でやっていただいて大丈夫です。お風呂から上がったら、早速練習しましょう」

「はい!」


 お風呂から上がったクララは、リリンと一緒に風玉の練習をしてから眠りについた。

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