マリンウッド到着
マリンポートを出発して一時間半で、マリンウッドの港に着いた。マリンウッドの地に足を踏み入れたクララは、興味津々で周囲を見回していた。
「サーファさん、サーファさん、あそこの建物凄く大きいですよ」
サーファの裾を引っ張って、クララは少し遠くに見える一際大きい建物を指さした。
「ん? 本当だ。あんなでかい建物もあったんだ。何の建物なんだろう?」
「あれは、滞在している間泊まる宿ですよ。最上階の部屋が私達の部屋になります」
「「!?」」
クララとサーファは、まさか自分達が泊まる場所だと思わず、揃ってリリンの方を振り返る。
「嘘ではありませんよ。カタリナ様が、予約を取って下さったようです」
「魔王様御用達って事ですか?」
「そうですね。カタリナ様は、良いところだと言っておられました」
「私が泊まってもいいんですか?」
「紹介状も預かっていますので、そこまで緊張されないで大丈夫ですよ」
リリンに背中を押されて、クララ達は高級宿へと向かった。宿の中は、かなり綺麗で一目で高級感溢れる所だと認識させられる。リリンが受付に行っている間、クララとサーファは、エントランスにあるソファに腰を掛けていた。
「こんな綺麗な宿屋初めてです」
「私もだよ。庶民には手が出せない場所だね。クララちゃんの護衛にならなかったら、一生泊まる機会なんてなかったと思うよ」
「そんなに高級宿なんですね」
「うん。見た感じだけどね。実際の値段とか分からないし。部屋の中で暴れないようにね?」
「さすがに、暴れはしませんよ」
そんな事を話していると、受付を済ませたリリンが戻ってきた。
「鍵を受け取りましたので、部屋に移動しますよ」
「「は~い」」
リリンは、クララの手を取って歩き出す。その後ろを、荷物を持ったサーファが着いていく。
「ところで、私達の部屋は最上階なんですよね? もしかして、そこまで階段ですか?」
「いえ、こちらで上がります」
リリンは、近くにある両開きの扉を指さす。
「これは、何ですか?」
「昇降機です。ワイヤーと重りで箱を上下させるものです。魔力で動くので、使う際は私かサーファと一緒にお願いします」
「あ、分かりました」
クララは、まだ魔力の扱いが上手くないので、昇降機を操作してしまうと昇降機が暴走してしまう可能性がある。それを防ぐために、ある程度魔力を操作出来るリリアとサーファが一緒に乗り降りする事になった。
「では、中に入って下さい」
リリンに連れられて昇降機の中に入っていく。
「動かしますので、しっかりと掴まって下さい」
リリンがそう言うと、クララは、がっしりとリリンにしがみついた。
「私ではなく、手すりの方なのですが、まぁ良いでしょう」
リリンは、サーファがクララの背後に移動して手すりに掴まったのを確認してから、昇降機を動かす。スムーズに動き出し、上昇していく。そして、少しすると動きが止まり、扉が開いた。
「着きました。もう出て大丈夫ですよ」
「はい」
リリンにそう言われて、クララはリリンから離れ、昇降機から出た。
「如何でしたか?」
「何だか、身体が重くなった感じがしました」
「上方向に移動していたので、下方向、つまり私達の身体に力が掛かっていたのです。それが、身体が重くなった感覚の正体です」
「へぇ~、そうなんですね」
クララは、興味深そうに昇降機を見ていた。初めて見た物なので、色々と気になっているのだ。そんなクララの背中をリリンが軽く叩く。
「部屋に行きますよ」
「はい」
クララ達は通路を通って、自分達の部屋に向かう。
「この部屋です」
「あれ? 一部屋だけなんですか?」
通路の中も、この周辺も扉は目の前の一つしかなかった。
「はい。最上階の客室は、この一つだけです。ですが、中の広さは、全ての客室の中で一番広く、部屋が複数あるのです」
リリンはそう言いながら、扉を開けた。リリンが手振りで中に入るように促すので、クララは、中に入る。
「わぁ……」
中の広さ、そして綺麗さにクララは感嘆する。サーファも、想像以上の部屋に驚いていた。
「サーファ、先に送っておいた荷物もありますので、その整理をします。それまでクララさんをお願いします」
「分かりました」
リリンは、今持ってきた荷物をサーファから受け取り、先に送って貰った荷物と一緒に整理しに向かった。
「クララちゃん、どうする?」
「部屋を見て回りたいです!」
「危ないから走り回らないようにね」
「はい!」
クララ達が泊まる客室は、全部で五部屋が繋がった部屋となっている。一つは、今クララ達がいる場所は居間となっており、一番広い部屋となっている。一つは、キッチンとなっており、いつでも料理が出来る。二つは寝室となっており、二台ずつベッドが置いてある。
最後の一つは、浴室だ。この浴室に来た時、クララは驚いて固まった。
「おお~、一面窓だね。夜になったら、良い景色が見られそう」
「これって、外から見られたりしませんか?」
クララは、この窓から浴室内を覗かれてしまうのではと心配になっていた。
「ここよりも高い場所は、裏の山くらいみたいだし、この窓から覗かれる心配はないよ」
「それなら安心ですね。でも、魔王城の浴場に慣れちゃうと、狭く感じますね」
「魔王城の浴場は、特別広いからね。これでも普通のお風呂よりも広いんだけどね」
「へぇ~」
部屋の探索を終えたクララとサーファは、居間へと帰ってくる。そこには、荷物の整理を終えたリリンが待っていた。
「部屋の探索は、楽しかったですか?」
「はい!」
「では、これからの日程などの確認をしましょう」
「分かりました」
クララ達は、居間にあるソファに座る。
「今日は、このまま部屋で過ごします。ここまで旅をしてきて、お疲れでしょうから」
言われてみて、クララは、自分の身体が疲れている気がした。ここまで来た興奮のせいで、言われるまで気が付かなかったのだ。
「明日は、まずプールに行きます。いきなり海で泳ぐのは、かなり難しいと思いますので、プールの方で慣らすところから始めます。その翌日に、海に行きましょう。そこで、人魚族の代表者と会います。その関係で、私達は魔王様達の私有地の砂浜を利用します」
「使っちゃって良いんですか?」
「はい。カタリナ様から許可は得ていますので、ご安心下さい。その後の予定は、その人魚族との話によって変わってきますが、遊園地と魔物動物園を楽しんで、後はクララさんが巡りたい場所に行くという形になります」
「なるほど。あれ? 私達ってどのくらい滞在するんですか?」
クララは、自分がここにいつまでいるのか分からない事に気が付いた。基本的な準備は、全部リリンとサーファがやってくれていたので、特に気にしていなかったのだ。
「二週間の予定です」
「じゃあ、十分に楽しめそうですね」
「そうですね」
「あ、そうだ。寝室の分け方はどうするんですか? 誰かが一人になっちゃいますよね?」
クララにそう訊かれて、リリンは少し考える。クララが気にしているのは、誰かが一人になるというところだ。最初は、サーファとクララで一室使って貰うつもりだったのだが、それだとクララが気にしている部分を解決出来ない。
「じゃあ、三人で一つの寝室を使いませんか?」
リリンが悩んでいると、サーファがそんな提案を出した。
「どうやって三人で寝るのですか?」
「クララちゃんとリリンさんが同じベッドで、私がもう片方のベッド寝れば良いと思います。全体的に見たら、私が一番大きいと思うので」
二人が同じベッドで寝れば、三人で同じ部屋に寝られるとサーファは考えたのだ。リリンとサーファは、胸の大きさで大差があるので、小さい方のリリンがクララと寝るのが良いと判断された。その事に気が付き、若干リリンの目に殺気が帯びたが、その案が一番である事は事実なので、強くは出られなかった。
「そうですね。クララさんが、それで良いのなら、そうしましょう」
「それが良いです!」
クララは、ニコニコで賛成した。これで、三人で同じ部屋に眠る事になった。




