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攫われた聖女~魔族って、本当に悪なの?~  作者: 月輪林檎
聖女の旅行

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初めての船旅

 船の出る街マリンポートに着いたクララ達は、ナイトウォーカーの馬車を降り、荷物を持って、船着き場に向かって歩いていた。ナイトウォーカーの馬車は、研究開発班の御者が、クララ達が戻ってくるまで管理する。

 街道を歩いているクララは、周囲からちらちらと視線を向けられていた。デズモニアの時と同じような視線だ。クララは、なるべくリリンの近くに寄っていた。


「大丈夫です。こちらにも、クララさんの触れは出されていますので、噂の魔聖女かと思って見ているのだと思いますよ」

「ざっと見た感じ、クララさんに悪意や害意を抱いている人はいないみたいです。ですが、前と同じような感じだと、私にも分かりません」

「サーファは、そのまま周辺警戒をお願いします」


 サーファには、周辺警戒をしてもらい、リリンはクララの事を気にしながら歩いていくと、船着き場に辿り着いた。


「こっちでも、誰にも話しかけられませんでした」

「サーファが警戒していましたから、話しかけようにも話しかけられなかったのです。仮に話しかけられていたら、今の倍以上時間が掛かったでしょう。実際に、そんな事にならないうちに、船に乗りましょう。この時間から出る事は確認済みですので」

「はい」


 リリンは、事前にカタリナと話していたため、船が出る時間を把握していた。クララ達は、大きな送迎船の前に来る。


「これが船ですか? 水に浮いてますね?」

「はい。そういえば、船も初めて見るのでしたね。船が浮く理論は、少々難しいのですが、説明しますか?」

「聞きたいです!」

「では、船の上でしましょう。時間も迫っていますから、乗ってください」


 リリンに言われて、クララは恐る恐る船の上に乗る。そのタイミングで、軽く波が来たので、少しだけ船が揺れる。


「うわっ!?」


 蹌踉めいたクララの後ろにいたサーファが、すぐに受け止める。


「気を付けて。大きな馬車みたいなものだから、少し揺れるよ」

「はい。ちょっとびっくりしました」

「先に言うべきでしたね。すみません」

「いえ、気にしないで下さい」


 謝るリリンにそう言いながら、クララは、その場で周囲を見回す。船の中には、他にも多くの魔族達がいた。その視線が一気にクララに集中する。


「うっ……貸し切りではないんですね」

「さすがに、この送迎船を貸しきりには出来ません。ですので、私達の側は離れないようにしてください」

「分かりました」


 クララ達は、甲板の一番上に移動する。ほとんどの観光客は船首の方に行っているので、比較的空いていた。


「さて、問題は船酔いです」

「ですね」


 リリンとサーファは、今からクララの心配をする。当のクララは、船の外に広がる大きな海に興味津々だった。


「これが海……心なしか風が違う感じがする」

「そうですね。こちらの方が強めの風が吹いていますから。スカートが捲れないように、気を付けてください」

「はい!」


 ジッと海を見ているクララの背後にサーファが立つ。仮にクララのスカートが捲れてしまっても後ろから見られないようにするためだ。


(今日の服装は、パンツ型にしておけば良かったですね。失敗です)


 今日は一際風が強いので、スカートがなびいてしまう。リリンとサーファは、共にパンツタイプのものを穿いているので心配はない。


「綺麗ですね!」

「そうですね。ですが、マリンウッドの海は、もっと浅い場所が多いですし、砂浜ですので、こことは違った印象を受けると思いますよ」

「ここよりも綺麗なんですか!?」

「綺麗だし、整った環境って感じかな。沢山の観光客が来るのも納得すると思うよ」

「ここから見えますか?」


 クララは、周囲を見回して船から見える島を見比べていた。ここから見える島は、どこも森などが生い茂っていて、観光名所という感じはしない。


「いえ、今見える島は、マリンウッドではありません。この島の奥の奥ぐらいの場所です。ここから大体一時間から二時間程の距離です」

「へぇ~、この船って乗り物は、結構遅いんですね」

「いえ、馬車よりは速いですよ。そろそろ出発のようです。そこまで揺れないと思いますが、手すりに掴まっていてください」

「はい」


 クララがしっかりと手すりを掴んだ直後、船が動き出す。一度大きく揺れたが、その後は安定し始めた。ただ、全く揺れないという訳では無く、時折小さく揺れてはいた。


「おぉ……動き出すと落ち着かないですね」

「中に入っておきますか? 座る場所もありますから、ここよりは落ち着くと思いますよ」

「う~ん……もう少し景色が見たいです」

「分かりました。気分が悪くなったり、中に入りたくなったら言って下さい」

「はい」


 クララは、ゆっくりと変わっていく風景を見るために、船の甲板を歩き回っていった。


「リリンさん、リリンさん、あそこに見えるのは何ですか?」


 クララは、隣にいるリリンの袖を引っ張って、近くの島にある高い建物を指さす。


「あれは灯台です。船はあれを頼りに航行するのです。夜間は、あの上部が光るので、重宝されています。ちょうど良いので、ここで船の説明もしてしまいましょう。簡単に言いますが、水に備わっていう物を浮かせる力で、この船は浮いています。どんなものにも働いているのですが、その密度によっては沈んでしまいます。クララさんもお風呂の中で、身体が少し浮くような感覚を得ませんでしたか?」

「?」


 リリンの確認に、クララは首を傾げていた。


「いつも私が抱き上げていたので、よく分からないのかもしれませんね。向こうに着いたら、色々と試してみましょうか」

「はい。ところで、この船って、どうやって動いているんですか?」

「ああ……正直なところ、私もそこは疎いので、ちゃんと説明出来ないのですが、蒸気を使って動かしていたはずです」

「蒸気?」


 クララは、あまりパッときておらず、首を傾げている。


「はい。蒸気で、船底に付いているプロペラを回しているというものだったはずです。その詳しい仕組みは、私には分かりませんが、魔力は使っていないと聞いています」

「そうなんですか。もしかして、これもライナーさんが作ったんですか?」

「基礎設計は、関わっていると思いますが、実際に作ったかと言われると分からないですね」

「関わってはいるんですね。魔族領の技術力は、計り知れないですね。魔王城の薬室も、色々と凄いですし」

「そうですね。研究開発班の努力の結果です。ところで、体調に変化はありませんか?」

「はい。特に何とも」


 船が出発して、しばらく経っているが、クララは何ともなかった。クララは、乗り物酔いをしないタイプのようだ。


「そろそろお昼です。中に入って昼食にしましょう」

「分かりました」


 クララ達は、昼食を食べるために、一度船内に入っていった。船で営業しているレストランに入り、昼食を済ませる。


「この船から悪意のある視線はありませんでした。ただ、クララちゃんのスカートがなびく度に視線が向いてきました」

「ベルフェゴール殿みたいな変態がいるのかもしれませんね。あの人と同じく無害とは限りません。警戒を」

「はい」


 リリンとサーファは、クララの安全のために警戒を強めた。


「さて、そろそろマリンウッドのはずです。船首の方に行ってみますか?」

「はい!」


 昼食を終えたクララ達は、船首へと移動する。


「どこですか?」

「正面に見えている島がそうです」

「あの色々な物が建っている島ですか?」

「はい」


 クララが見ている先には、周囲の島とは違い、多くの人工物が建っていた。ある意味異質な島だ。


「観光地となっていますので、周囲にある島よりも自然は少なくなっています。先に、マリンウッドにあるものを説明しますね」

「よろしくお願いします」

「代表的なものは、海です。広い砂浜がありますので、色々な遊びが出来ます。次にプールがあります。海が近くにあるので、そこまでの人気はありませんが、様々な工夫を凝らしていますので、海とは違う楽しみがあるでしょう。そして、魔物動物園と呼ばれる場所があります。ここは……着いてからの楽しみにしましょう。そして、最後に遊園地というものがあります。これは、魔力で動くアトラクションがある場所です。ここには、私も行った事がないので、どういうものがあるのかは分かりません。サーファは、分かりますか?」

「いえ、私も行く機会がなかったので。でも、他の所にないって話だった気がします」


 リリンもサーファもマリンウッドに何度も来ているわけではないので、新しく出来た遊園地に関しては、何も知らなかった。


「じゃあ、一緒に楽しめますね!」


 クララは、左手でリリンを、右手でサーファの腕を取って笑った。それを見て、リリンとサーファも笑う。


「そうですね。私達も新鮮な気持ちで遊べますね」

「一緒に楽しもうね」


 クララは、左右からリリンとサーファに頭を撫でられる。クララは、嬉しそうに笑った。そして、マリンウッドでの生活に胸を踊らせていた。

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