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攫われた聖女~魔族って、本当に悪なの?~  作者: 月輪林檎
第二章 聖女の新たな日常

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カタリナ達への報告

 そんなこんなで魔王城まで帰ってきたクララ達は、まっすぐカタリナの執務室へと向かった。今の時間帯なら、基本的に仕事中のはずだからだ。サボってクララのところに行っている時もあるが、今回は外出する旨を伝えてあるので、その可能性はない。

 リリンがノックをすると、すぐに中のメイドが扉を少し開けた。そして、リリン達の姿を確認すると、扉を開けて中へと招き入れた。


「あら、もう帰ってきたのね。何かあったのかしら?」


 カタリナとしては冗談でそう訊いたのだが、実際に問題があって帰ってきたので、リリン達は何とも言えない表情になっていた。それだけで、カタリナも色々と察する事が出来た。


「あぁ……本当に何かがあったのね……詳しく報告してくれる?」


 リリンは、クララが攫われた事とオウィスとの契約の事を話した。カタリナは、少しだけ頭を抱えて、ため息を零す。

 それを見たクララは、少しオロオロとする。


「あ、あの……ごめんなさい……」


 自分の我が儘でこんなことになっているので、取りあえず謝らないといけないと思ったのだった。


「クララちゃんの気持ちも分かるから、取りあえずは良いわ。それに、クララちゃんの力の価値に関しては考えないといけないことだから、良い機会になった。リリンの言う通り、クララちゃんの力を無償で使えるのは、戦闘中の軍だけになるわ。一般にも無償で使うっていうのは論外」


 カタリナもばっさりと言い切った。


「あの人にも確認をしないとね。悪いけど、呼んできてくれる?」

「かしこまりました」


 カタリナの命を受けたメイドがガーランドを呼びに向かう。


「魔王様を呼び出すんですか?」

「その方が早いわ。その間に、色々と考えられるしね。まずリリンが提示した金額だけど、それでもまだ安いわ。クララちゃんが悪と判断すれば、病だろうと何だろうと打ち消す事は造作もないだろうから。戦場でもそれで活躍しているわけだからね」

「では、いくら程にしましょう?」

「一億くらいね。ほぼ確実に治療出来るっていうのは、そのくらいの価値があるわ」


 あまりに途方もない金額に、クララは何も言えなかった。


「あ、あの……それって、払える人いるんでしょうか?」


 サーファは、怖ず怖ずと質問した。


「普通はいないでしょうね。重役の人達でも、すぐに出せるのは、ほんの一握りだわ。だからこそ、この値段にするのよ。簡単に手を出せる金額には出来ないわ。件の羊族も、金額が上がる事には同意しているのよね?」

「はい。一応受け入れてはいますが、さすがに断る可能性もあるかと」

「それならそれで仕方ないわ。クララちゃんもそれで納得してね」

「……はい」


 これ以上の我が儘は言えないので、クララも素直に頷いた。そのタイミングで、ガーランドを連れたメイドが入室した。


「クララの力で話があると聞いた」

「はい。その通りです、実は……」


 カタリナは、ガーランドにこれまでの話を聞かせる。


「なるほどな。それなら、一億で良いだろう。クララの力を積極的に使う気はないからな」

「じゃあ、ここで決まった事を伝えてくれる?」

「かしこまりました。お手を煩わせてしまい申し訳ありません」


 リリンは、カタリナとガーランドに頭を下げる。遅れてクララとサーファも頭を下げた。


「いや、クララを外出させる前に決めておくべき事だった。こちらの不手際でもある。気にするな」


 ガーランドはそう言って、部屋から出て行こうとしたが、ふとクララの方を振り返ると、軽く頭を撫でてから出ていった。


「?」


 突然頭を撫でられたクララは、頭を押えながら首を傾げていた。


「あの人なりの励ましよ。クララが思った事は、聖女として間違った事ではないわ。だから、気にしないで良いって事ね」


 ガーランドは、今回の件でクララの考え方そのものを否定したわけではない。誰かを助けたいと思う気持ちは大切だ。出来れば、そのまま純粋な心でいて欲しい。ガーランドはそう思っているのだ。


「あっ、そういえば、昨日の夜に魔王城が光ったって報告が上がってきているのだけど、何か知らないかしら?」


 オウィスに関する事柄が終わったところで、カタリナは若干怖い笑顔をしながら三人に問いかける。唯一心当たりのないクララだけ、首を傾げていた。


「昨日、クララさんは魔力酒を飲んだのですが、完全に酔っぱらってしまい、魔王城に対して、魔力を注いでしまいました。恐らく、その魔力の光かと」


 リリンが説明すると、カタリナは完全に頭を抱えた。


「それって、魔王城を聖別したって事……?」

「その可能性はあります」

「魔王城を聖別……魔王城が神聖化したって事よね。クララちゃんは、魔王城を悪と認識していないから、効果が消える事はないはず……ここら辺の検証をしないといけないわね」

「あ、あの……ごめんなさい……」


 クララは、本日二度目の謝罪を行う。本当に申し訳なさそうにしながら謝るので、カタリナも気が抜ける。


「気にしないで良いわよ。私の感覚的には、魔王城の加護は消えていないと思うから」

「うぅ……はい……」


 カタリナとしては、本当に気にしないで良いと思っているのだが、クララからしたら、本当に迷惑を掛けているという認識なので、少し落ち込んでいた。その様子を見て、カタリナは微笑みながらクララを手招きする。

 クララは、それに従ってカタリナの傍に向かう。すると、カタリナがクララの身体を引き寄せて、自分の膝に乗せた。


「さっきも言ったけど、あまり気にしなくて良いから。クララちゃんはクララちゃんの信念があってやった行動だろうし、もう一つの方に関しては、魔力酒を飲むことを許したこっちにも非はあるから」


 カタリナはクララの頭を撫でながらそう言い聞かせる。


「クララちゃんをこうしていると、娘達を思い出すわ。自分達が悪いと自覚しているとばつの悪い顔をして落ち込んでいるのよね。その度にこうして慰めてあげたものよ。いつまでも暗い顔されていると、こっちも暗い気持ちになっちゃうのよね」


 カタリナがそう言うと、クララはスッと顔を上げる。


「だから、いつも通りの可愛いクララちゃんでいて。良い?」

「は、はい……」


 クララは、ようやくニコッと笑った。罪悪感は残っている。だが、それでも前を向こうと決めたのだ。


「では、私達は、先程の件を片付けて参ります。クララさんも行きますよ」

「はい。カタリナさん、ありがとうございました」

「いいえ、どういたしまして。もし治療する事になったら、頑張ってね」

「はい」


 まだ契約するとは決まっていない。最初に提示した金額の倍になっているのだ。これではオウィスも少し考える事になるかもしれない。クララはこのことを再度認識する。

 そして、クララの部屋に戻り、オウィスを待つ事三十分。ようやくオウィスがやって来た。魔王城勤務の医者であるエリノラも一緒だった。


「エリノラ?」

「久しぶり。リリン、聖女ちゃん、犬耳ちゃん」


 エリノラは、クララを聖女ちゃん、サーファを犬耳ちゃんと呼ぶ事にしたようだ。サーファに関しては、そもそも名前を知らないというのもある。


「保証人は一人で良いんだよな?」

「大丈夫と言えば大丈夫ですが、その前に、魔王妃様との話し合いで決まった事についてお話ししておくことがあります」


 オウィスは、少しだけ険しい顔になる。そもそも契約が出来ない可能性を考えてしまったからだ。だが、そんな事はない。


「大変申し訳ありませんが、治療費が一億に値上がりしました。それでも、まだ契約を結びますか?」

「頼む」


 オウィスは真剣な顔でそう言った。リリンは、そんなオウィスからエリノラへと視線を移す。


「エリノラは、どうですか? ここまでの金額になりますが、それでも保証人になるのですか?」

「ええ。それだけの理由はあるから」

「そう。じゃあ、契約に移りましょう。こちらの契約書を参照ください」


 リリンは、オウィス達が来るまでに制作しておいた契約書を二人に渡す。そこには、オウィスと妹の今後の扱いと妹の治療費について書かれていた。


「この契約で良いのでしたら、こちらにサインをお願いします」


 リリンがペンを差し出すと、オウィスは迷わずにサインする。エリノラも同様だ。二人がサインした契約書を、リリンが一度確認してから、クララに渡す。


「クララさんもサインをお願いします」

「はい」


 元々治療する気だったので、クララも迷わずにサインした。オウィスが来る前に、自分の名前を書けばいいとリリンに言われていたので、迷う事なくする事が出来た。


「はい。これで契約完了です」

「なら、今すぐにでも治療を!」


 オウィスは勢いよく立ち上がってそう言った。


「そうですね。クララさんは、大丈夫ですか?」

「はい。いつでもいけます」

「では、妹さんがいらっしゃる場所までご案内ください」

「お、おう!」


 クララ達はオウィスを先頭にして移動を開始する

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