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攫われた聖女~魔族って、本当に悪なの?~  作者: 月輪林檎
第二章 聖女の新たな日常
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魔力酒(2)

すみません! 

書き忘れていた事があったので、改稿しました!(2022年9月19日)

よろしくお願いします!

 翌日の夜。夕食と入浴を済ませたクララは、自分の部屋にある椅子に座っていた。正面のテーブルには、昨日の講義に出ていた魔力酒が置いてあった。


「あの、昨日は欲が出て、飲みたいって言っちゃったんですが、こんな高価なものを飲んでしまっても良いんですか?」


 魔力暴走が起こらないと聞いて興奮していたクララは、一晩おいて、目の前にあるものが高価な代物であると再認識し、本当に飲んでもいいのかと迷っていた。


「はい。大丈夫ですよ。そもそも飲むために作られたものですし、そちらはベルフェゴール殿の私物で、クララさんにプレゼントするとの事ですから。中に混入物がないことは、しっかりと確認済みなので、ご安心下さい」

「な、なるほど……」


 クララは、ベルフェゴールに悪い事をしたかもと思いつつ、ジッと魔力酒を見る。クララからの視線を受けている魔力酒をサーファが手に取り、栓を引き抜く。子気味の良い音がなり、瓶の口から甘い果実の匂いが広がる。


「良い香りですね。これなら味の方も期待出来るでしょう」

「リリンさんも飲みますか?」


 クララがそう訊くと、リリンは首を横に振った。


「いえ、クララさんを見守らないといけませんので」

「そうですか……そういえば、リリンさんとサーファさんって、お酒で酔うんですか?」


 クララは、興味本位でそう訊いた。


「サキュバスという種族自体が、お酒に強いので、私はあまり酔いませんね」

「私も強い方だと思うよ」

「そうなんですね。私も強い方だと良いなぁ」


 皆で一緒にお酒を飲むことを夢見て、クララはそう呟いた。その呟きを聞き取ったサーファは、小さく笑う。


「それじゃあ、グラスに注ぐけど、全部飲む必要はないからね。無理って思ったらやめる事。いい?」

「はい!」


 サーファは小さいグラスの底から一ミリ程の量を入れる。魔力酒の色は、葡萄のような色をしていた。


「葡萄酒を魔力酒として仕上げたものだよ。さっ、どうぞ」

「い、いただきます!」


 クララは恐る恐るグラスを寄せる。まず、グラスの縁に鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。サーファの言う通り、葡萄を主体としているらしく、芳醇な香りがしてくる。


「良い匂い……」


 瓶から香ってくる匂いと、グラスに注がれた魔力酒から香ってくる匂いとでは、伝わってくる情報量が段違いだった。

 その香りを堪能してから、グラスに口を付ける。ボウルを伝ってクララの口の中へと入っていく。クララの口の中で葡萄の香りとお酒特有のアルコールの香りが鼻に抜け、渋みのある味が広がる。


(何か……大人な味……)


 顔を顰めつつ飲み干すと、リリンとサーファが心配そうに見守る。クララは、グラスを手にしたまま俯いていた。


「クララさん? 大丈夫ですか?」

「…………」

「クララちゃん?」

「…………」


 二人が話しかけても、反応を示さない。これはまずいと判断したリリンとサーファは、クララに近寄る。すると、クララは素早く動いて、リリンに抱きつく。そして、顔を上げてリリンを見るとにぱぁっと笑った。その頬は赤く染まっている。


「これは……酔っていますね」

「そうですね。どう見ても酔っぱらっています。クララちゃん、今日はお水飲んで、寝ちゃおうか」


 このままいさせるよりも、さっさとベッドに入れてしまった方が良いと判断したサーファがそう言うと、クララは頬を膨らませて首を振った。


「嫌れす……せっかくぅ……気分が良いのにぃ……寝てられませんりょ!!」


 呂律が回っていない。どこからどう見ても酩酊状態だ。リリンに抱きついていたクララは、フラフラとした足取りでサーファの方に向かう。サーファが、自分からクララに近づいていく。リリンの時と同じように抱きついてくるのだろうと思ったサーファは、クララを受け入れるため、両手を広げていた。

 だが、クララがサーファに抱きつくことはなかった。おぼつかない足取りで近づいて来たクララは、両手をまっすぐに伸ばして、サーファの胸に触れた。


「へ?」


 唐突すぎる行動に、サーファは呆然とする。


「やわやわ……」


 クララは、全く遠慮せずに、サーファの胸を触り続けていた。だが、何かが不満だったのか頬を膨らませる。そして、サーファの手を掴むと、ベッドまで連れていく。


「どうしたの?」

「ん……」


 クララはベッドを叩く。それを座れという指示として受け取ったサーファがベッドに座ると、その膝の上に向き合う形で乗った。それでも何か違うと感じたのか、顔を顰める。


「えい!」


 クララはサーファの肩を押して倒す。普段のクララでは、サーファの肩を押したところで、倒されるまでいかないはずだが、今回は簡単に倒されてしまった。


「へ? 身体強化!?」


 使う事は出来るが、使いこなすことは出来ていない身体強化を、こんな場面で最大限に発揮していた。

 サーファを押し倒すことに成功したクララはサーファの胸に顔を埋めながら揉み始めた。その表情はどこか満足げだ。


「えぇ~、リリンさ~ん……」


 サーファは、リリンに助けを求める。サーファがクララに襲われている間、リリンは黙って見ていた。酔っぱらったクララが、どんな行動をするか興味があったのだ。


「クララさんは、酔っぱらうと少しエロくなってしまうようですね。いえ、どちらかと言うと、欲求に正直になっているという方が正しそうですね」

「冷静に分析しないでください!」


 リリンは、クララに近づいていくと、その肩を軽く叩く。


「クララさん、サーファが困っていますよ」


 リリンにそう言われると、クララは少し悲しげな顔をする。


「嫌でふか……?」


 目をうるうるとさせながら(酔いなのか感情なのかは謎)、クララはサーファの事を見る。


「うっ……まぁ、いやではないんだけど……」

「じゃあ……」

「はぁ……もうちょっとだけね」


 サーファがそう言うと、クララは満面の笑みになり、続きを始める。


「クララさんが、酔っている間の記憶を保持出来るかどうか……」

「覚えていたら、恥ずかしさで悶えますよね?」

「そうなるでしょう。取りあえず、クララさんにお酒は厳禁という事で」

「分かりました」

「?」


 二人の話を理解していないクララは首を傾げるが、すぐにサーファの胸に戻った。そのまま三十分程堪能したクララは、赤い顔のまま今度はリリンの方に戻ってきて、抱きついた。


「私の胸は、あまり豊かではないので、抱きついても楽しくないのではありませんか?」

「ううん……リリンさん……すきぃ……えへへ……」


 クララは、リリンに全力で甘えていた。クララの二人に対する態度の違いから、クララが二人に抱いているものの違いが見て取れた。サーファに対しては、癒しを求めているのだろう。クララがサーファの胸を堪能している間、クララは本当に癒やされているような表情をしていた事からも、その事は明らかだ。

 リリンの方には、癒しというよりも甘えさせて欲しいという感情が大きい。そのため、このようにただただ抱きつくだけで満足しているのだ。それに加えて、リリンへの恋慕の情があるというのもあるだろう。


「私も好きですよ」


 リリンは、クララの頭を撫でながらそう言った。その言葉が嬉しかったため、クララはニコニコと笑う。そして、リリンから離れて立ち上がったかと思うと、床に倒れた。


「クララさん!?」

「クララちゃん!?」


 突然の事に二人は焦るが、当の本人は仰向けになりながら、


「ふへへへ…………」


 と笑っていた。そして、うつ伏せになると、両手の手のひらを床に押しつける。


「とりゃぁ~~!!」


 謎の威勢と共に、魔力を吹き上げさせる。クララから発せられた魔力は、その両の手のひらから、魔王城へと流れていった。


「「!?」」


 先程以上に焦った二人は、急いでクララを立ち上がらせて床から引き上げた。突然の事に動きが遅れた事もあり、五秒程魔力が流れた。


「……大丈夫だと思いますか?」

「……恐らくですが、大丈夫でしょう。現に、私達に掛かっている魔王城の恩恵は失われていません。それだけは感じています」

「ふぅ……良かったです」


 クララが流した魔力は、魔王城の効力を打ち消すような事はなかった。その事に、二人は安堵をする。


「むにゃ……むにゃ……リリンさん……」


 クララは、横にいるリリンに抱きついて、キスを強請るように唇を向けて目を閉じていた。リリンは、仕様が無いという表情をしつつ、クララにキスをする。

 クララは嬉しそうにしていたが、すぐに寝息を立て始めた。


「もう少し早くこうしておくべきでしたね」

「ああ! サキュバスが持つ体液の効能ですね! リリンさんは催眠効果があるんでしたっけ」

「ええ。クララさんの酔い方は、十分に見る事が出来たので、そろそろ良いかと思いまして」

「そうですね。まぁ、この酔い方は予想外でしたけど……」


 サーファ的には、クララの酔い方は予想外だった。


「胸なら、前にも触らせてあげたんですけどね」


 サーファが護衛になってから、何度か胸を触らせるくらいならさせていたのだ。


「クララさんは、それでも満足していなかったのでしょうね。そうして溜まっていた欲求を、お酒の力で解消したのでしょう。私に甘えてきたのもその一つなのでしょうね」

「つまり、クララちゃんは、まだ甘え足りなかったって事ですか?」

「ええ。大分甘えてはいると思いますが、私達は他人。実の家族のようには、甘えられないのでしょう」


 大分リリン達に甘えているクララだが、それでも多少の遠慮があった。実の家族のように遠慮を取っ払って甘える事は出来ていないのだ。それがお酒の力を借りることで取っ払うことが出来たのだ。


「さて、クララさんも寝たところで、私達も就寝しましょう。二日酔いにならないといいですが……」


 クララをベッドに寝かせたリリン達は、自室に戻って就寝した。

 魔力酒を飲んだ結果、クララは少量のお酒でも酔っぱらう事が判明したのだった。そして、酔っぱらったクララは何をしでかすか分からないという事で、お酒禁止となるのだった。

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