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攫われた聖女~魔族って、本当に悪なの?~  作者: 月輪林檎
第二章 聖女の新たな日常

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魔力酒(1)

 薬草園に向かい、街を散策した翌日。クララは、魔王軍の演習の手伝いをしていた。クララが手伝いにくる頻度が下がったせいか、魔族達の傷が増えていた。

 それを見たクララは、心配そうにしていた。


「やっぱり、前と同じくらいの頻度で来た方が良いのでしょうか?」


 クララは傍で一緒に演習を観ているリリンにそう訊く。


「いえ、クララさんがいない頃に戻っているだけなので、あまり気になさらないで大丈夫です」

「リリンさんの言うとおりだよ。それに、あれでもクララちゃんの薬のおかげで、クララちゃんが来る前よりも傷は減っているんだから」

「そう……ですか?」


 リリンとサーファがそう言うので、クララは一応納得した。元々この話は前にもしているが、実際に見てみると、やっぱり自分がいないと危ないのではないかと思って仕舞うのだ。

 演習の休憩時間に、このことをアーマルドに話すと、アーマルドは大笑いした。


「はっははははは!! 嬢ちゃんにそこまで心配されるとはな! うちの軍は、そんなに頼りないか?」


 アーマルドは笑いながらクララに訊く。


「い、いえ、寧ろ逆ですけど……」

「なら、心配は要らないだろう。まぁ、大怪我をする事はあるが、それでも嬢ちゃんがつきっきりでいないとやっていけない程やわじゃない。やっぱ、優しいな嬢ちゃんは」


 アーマルドはそう言いながら、乱暴にクララの頭を撫でる。髪の毛が乱れるので、すぐにリリンが櫛で整える。

 その間に、アーマルドは休憩を終えて演習場に降りてきている魔族達の元に向かった。


「お前らが怪我をしているから、嬢ちゃんに心配されているぞ。情けない姿を見られなくするためにも、俺達も強くならないとな」


 アーマルドがそう言うだけで、魔王軍のモチベーションが跳ね上がった。クララに心配を掛けてはいけないと思ったからだ。魔族達がそう思うくらいには、クララは魔王軍に受け入れられていた。


────────────────────────


 その翌日。クララは、またベルフェゴールの講義を受けていた。


「本日取り扱うものは、魔法では無く、こちらになります」


 ベルフェゴールはそう言って、酒瓶のような物を手に持って見せた。


「?」


 ベルフェゴールの持っているものを一度も見たことがないため、クララは首を傾げていた。


「これは、魔力酒と呼ばれる物です。恐らくですが、人族領にはないものでしょう。魔族領でも、数が少ないので、少し高価になりますな」

「へぇ~、確かに聞いた事ありません。どういうものなんですか?」

「簡単に言えば、魔力暴走を起こさずに、魔力を伸ばすために使う物です」

「!!」


 クララは目を見開いて驚く。


「前の講義で言っていったやつですか!?」

「その通りです。魔王様と魔王妃様から講義の許可を得ましたので」

「じゃ…じゃあ! 私が使っても良いと言うことですか!?」


 魔力暴走を起こさずに魔力を伸ばせるという事もあって、クララは興奮気味そう言った。それに対して、ベルフェゴールは難しい顔をしていた。


「講義の許可は頂けたのですが、使用の許可は取れていません」


 そう言うと、クララは目に見えて落胆する。


「これも仕方のないことなのです。こちらは、名前にある通りお酒となります。そのため、耐性のない人が摂取すると、酔っぱらってしまうのです。話を聞くと、人族が飲酒をして良いと言われている年齢を超えているようですが、まだ飲酒をなさった事は?」

「ありません」

「となると……リリン殿とご相談の上となりますね」


 ベルフェゴールにそう言われたクララは、後ろにいるリリンを見る。クララと視線が合ったリリンは、少し眉を寄せて、考え込み始める。魔力酒がクララに与える影響を考えているのだ。


(人族の飲酒が許される年齢を超してはいますが……本当に飲ませても大丈夫でしょうか……? そもそもクララさんが、お酒に強いかどうかも問題になります……いや、いっそ、その確認のために……でも、それだと本末転倒な気も……)


 リリンは、散々悩んだ結果。


「私とサーファが見守っている時になら良いでしょう」

「やった!」


 リリンは、条件付きで許可を出した。自分達が見守りながらなら、クララが飲み過ぎることなども防げるからだ。クララは喜んでいるが、リリンとサーファは少し心配していた。


「ということで、今日は魔力酒に関して少し講義した後、また魔法の復習を致しましょう」

「分かりました」


 クララの返事を聞いたベルフェゴールは、黒板と向き合う。


「魔力酒とは、その名の通り、魔力を多分に含んだお酒のことを指します。製造方法は、製造したお酒に魔力を込める。これだけです」

「? 結構簡単そうですが……」


 先程ベルフェゴール自身が言っていた『数が少ない』という言葉から、クララは製造方法が複雑で難しいのだと考えていた。だが、ベルフェゴールの話を聞く限り、かなり簡単そうに感じ始めたのだ。


「言葉にすれば簡単そうですが、実際に製造するとなると話は別です。まず魔力酒に込められる魔力は、この酒瓶に入っている酒に対して、聖女殿が持ち合わせる魔力量の三倍ほどです」

「三倍……」


 クララの魔力量の三倍と言われても、クララはピンとこなかった。正確な自身の魔力量を知らないからだ。


「少々分かりにくかったですな。もっと簡単に言いますと、この酒瓶のお酒に魔王城の浴場にある湯程の魔力を込めていると言えば分かりやすいでしょうか」

「浴場のお湯……」


 クララは、いつも入っている浴場を思い出す。それが酒瓶に入っていると言われると、それ異常さが分かる。


「そして、一日にお酒に入る魔力の量は、微々たるものなのです。大体この酒瓶に対して、コップ一杯といったところでしょう」


 クララは、浴場のお湯をコップで掬って酒瓶に入れる姿を想像した。それを一日一回ずつしか入れられないとなれば、全て入れるのに一体何日掛かる事か。


「何故一日に入る魔力の量が決まっているのかというと、それ以上に入れると、お酒が爆発してしまうのです。これを素材の魔力許容限界と考えています。生物とは異なるものですな。素材に込められた魔力は、一日掛けて素材に浸透します。そうすることで、また魔力を受け入れる事が出来るようになるのです。故に素材の魔力許容限界と呼ばれています」


 これを聞いたクララが最初に思った事は、


(魔力暴走がなくて良いなぁ……)


 という事だった。


「先程、素材の魔力許容限界と言った通り、これはお酒に関する事だけではありません。聖女殿も心当たりがあるのでは?」

「……薬!」


 クララは、自分が魔力注入器で薬に魔力を込めて爆発させた事を思い出した。そして、それに付随して、リリンが言っていた事も思い出していた。


「でも、リリンさんが魔力注入器で爆発したって話は聞いた事がないって」

「それもそうでしょう。この素材の魔力許容限界が分かってから、全く起こらなくなりましたからな。それでも時折爆発しておりますが」

「初耳です」


 これには、リリンも驚いていた。リリンも全ての事柄を知っているわけではない。そのためこのことも知らなかった。


「爆発したという事は失敗したという事です。失敗を口外したいという人は稀でしょう」

「確かに」


 リリンに向けて話していたベルフェゴールは、クララの方に向き直る。


「つまり、素材の魔力許容限界を知れば、魔力注入器を使っても爆発しないようになるのです」

「私でも使えるようになるという事ですね」

「ええ。ですが、今の聖女殿では、魔力許容限界を知っていても難しいでしょう。魔力の扱いが雑ですので」

「…………」


 クララは、ちょっとだけむすっとする。自分の技術不足だと理解はしているのだが、直接そう言われるのは、若干不満なのだ。

 クララのその表情を見て、ベルフェゴールは満足げな顔をするが、リリンとサーファから凍てつくような視線を受け、直ぐさま表情を改めた。


「では、魔力の扱いを上達させるためにも、魔法の講義に移りましょう」

「はい」


 この後、クララは予定通りに習った魔法の復習を行った。

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